ニュージーランドで数少ない石灰岩質土壌を含むワイパラ・ヴァレー。ブルゴーニュ品種やリースリングが成功している新星「ブラック・エステート」でその魅力に触れた。

「ブラック・エステート」は南島の首都とも言うべきクライストチャーチから北に約1時間。ノース・カンタベリーの中のワイパラ・ヴァレーに本拠を構える。海から十数キロの距離にあり、涼しい。年間降雨量は600ミリと少なく、オーガニック栽培に適している。2017年に「*1ビオ・グロ」の認証を取得し、あと1年で*2バイオダイナミックの「デメター」認証が得られる予定だ。石灰質の母岩の保水性が高く、ドライファーミング(無灌漑)を可能にしている。新世界は灌漑に抵抗のない産地も多いが、ドライファーミングを実践することで、ブドウ樹の根が地中深くまで伸びて多くの栄養分を吸収する。

画像: 白い石灰岩質土壌がむき出しになっている土地。バイオダイナミックを導入した畑ではカバークロップ(被覆作物)を生やしている

白い石灰岩質土壌がむき出しになっている土地。バイオダイナミックを導入した畑ではカバークロップ(被覆作物)を生やしている

画像: ピノ・ノワールとリースリングのライジングスター「ブラック・エステート」

ワインメーカーのニコラス・ブラウン氏は、オーストラリアのワイン専門誌『グルメ・トラベラー・ワイン・マガジン』で2022年の「ニュージーランド・ワインメーカー・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。ニュージーランド最高峰とも言われる「ベル・ヒル」や「ピラミッド・ヴァレー」と肩を並べる日も遠くない、ライジングスターの1人だ。「ホーム・ヴィンヤード」「ネザーウッド・ヴィンヤード」「ダム・スティープ・ヴィンヤード」の三つの畑のテロワールを表現しようと、汗をかいている。

すべての畑を訪れたが、ワイナリーとレストランのあるホーム・ヴィンヤードは粘土が深くて果実味が豊かで、濃厚なブドウが得られる。ピノ・ノワールはスリムでシルキー、抑制されている。エレガントで、リフレッシュできる。3分の2は接ぎ木していない自根の樹だ。

ネザーウッド・ヴィンヤードは丘陵地に広がり、「オルネッライア」(イタリア)や「スタッグス・リープ・ワイン・セラーズ」(カリフォルニア)など、各国のトップワイナリーでコンサルタントを務めたダニエル・シュースター氏が、1986年に植えた。 *3マサル・セレクションで樹を増やしてきた。ピノ・ノワールはスパイシーで、ブルゴーニュのコート・ド・ボーヌを思わせる深みとストラクチャーを有する。

画像: 熟成樽にはブルゴーニュの先端生産者と同様に大きめのものも使用し、フレッシュ感を出す

熟成樽にはブルゴーニュの先端生産者と同様に大きめのものも使用し、フレッシュ感を出す

「異なるテロワールを手掛けることのできるわれわれはラッキーです。土壌やクローンの違いがあり、それらを反映させる。フレッシュ感を保つためにピノ・ノワールを500リットルの樽で熟成させることもあります。自根の樹が残っているので、検疫には気を付けています。生息する動物や季節の移り変わりを観察し、そこから多くを学んでいます」

画像: 実験的に、アンフォラでの醸造を行っている

実験的に、アンフォラでの醸造を行っている

コンポストを作ったら1年間の仕事が終わりになる、と話す。

強烈な傾斜の「ダム・スティープ」もバイオダイナミック

画像: 「ダム・スティープ」を歩く、ワインメーカーのニコラス・ブラウン氏

「ダム・スティープ」を歩く、ワインメーカーのニコラス・ブラウン氏

目を輝かせながら、栽培や醸造の細部を熱く語るブラウン氏は、ブルゴーニュのヴィニュロン(ブドウ栽培醸造家)のようだ。「リッポン」のニック・ミルズ氏や、「ギズボーン」のジェームス・ミルトン氏らが *4メンターだという。

そのブルゴーニュにも決して存在しないような畑が「ダム・スティープ・ヴィンヤード」。畑のふもとに着くと、トヨタの強烈なパジェロに乗り換えて、急斜面を登っていく。斜度は40パーセンを軽く超えている。ブドウを栽培していること事態が驚きだ。ローヌ地方コート・ロティに近い。普段の畑仕事はもちろん、収穫作業は大変だ。レギュラーのスタッフは8人だが、25人を動員して危険な斜面でブドウを摘む。立っているだけでも滑り落ちそうだ。

ブラウン一家が暮らすネザーウッド・ヴィンヤードのそばに設立したテイスティングルームで『ダム・スティープ・ピノ・ノワール 2020年』を試飲した。アロマティックで、ラズベリー、プラム、バラの花弁、ブルゴーニュのシャンボール・ミュジニーを連想させるチョーキーなテクスチャー、ジューシーなタンニン、フレッシュで、シームレスなフィニッシュ。エレガントの一言に尽きる。亜硫酸は瓶詰め時にごく少量添加するだけで、ピュアで、のど越しが軽い。

画像: レストランで畑を眺めながら食事ができる

レストランで畑を眺めながら食事ができる 

ブルゴーニュの造り手たちと会う機会が多いが、ブラウン氏は彼らと変わらない。好きなワインの話が弾んだ。彼はピノ・ノワールの名手として知られるが、実はリースリングも好きだ。ワイパラ・ヴァレーの冷涼で乾燥した気候は、アルザスを連想させるところがある。

「好きな生産者かい? そうだな、シモン・ビーズはエレガントなところが好きだね。あとはシルヴァン・パタイユ。彼のアリゴテには一貫性があり、年々良くなっている」

ブラウン氏が学んだり、経験をシェアしてきたように、これからは彼自身が若い世代のメンターとなるのだろう。

画像: 左から『ホーム・ピノ・ノワール 2020年』(6050円)、『ダムスティープ・ピノ・ノワール 2020年』(6380円)、『ネザーウッド・ピノ・ノワール 2020年』(6600円) ※価格は税込希望小売価格

左から『ホーム・ピノ・ノワール 2020年』(6050円)、『ダムスティープ・ピノ・ノワール 2020年』(6380円)、『ネザーウッド・ピノ・ノワール 2020年』(6600円) ※価格は税込希望小売価格

*1ニュージーランドの代表的なオーガニック認証。飲料、食品、野菜、果物、肉、ヘルスケアなど950以上の認定生産者がいる
*2オーストリアの人智学者ルドルフ・シュタイナーが提唱した有機栽培農法。太陰暦に従い、宇宙のリズム、天体の運行に合わせて農作業を行う
*3畑に植えられている樹から優良なものを選び、穂木として台木に繋ぐ選抜方法
*4指導や助言をする人

問い合わせ先:㈱ラック・コーポレーション TEL. 03-3586-7501

text by Akihiko YAMAMOTO , photographs by kentaro TAKIOKA

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