シャンパーニュ地方最大の協同組合である「ニコラ・フィアット」に加盟する栽培農家は約 5000 軒。アペラシオン 全域の栽培農家が加盟しているため、シャンパーニュのテロワールを隈なく表現しているともいえよう。販売数はずっとフランス1位の座をキープ。その秘密は幅広いラインナップとそして何より気軽に、普段使いできる味わいにある。
エペルネ市の郊外、初夏の青空の下にそよぐ一面のブドウ畑の中を車で走っていると、緑の懐に抱きかかえられるように鎮座するガラス張りの「ニコラ・フィアット」が見えてくる。本社があるのは、モンターニュ・ド・ランス地区とヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区、それにコート・デ・ブラン地区のちょうど真ん中あたりに位置するシュイイ村。本社のテラスに登れば三つの地域がよく見渡せる。まるでシャンパーニュ全域からブドウが集まるニコラ・フィアットを象徴しているかのようだ。
メゾンの歴史は1972年までさかのぼる。当時、シャンパーニュでは豊作が続いて収穫果の価格・売買が不安定だったため、シャンパーニュ委員会の重鎮だったアンリ・マッカール氏が発起人となって栽培農家たちが団結したのが始まりだ。その後マッカール氏が設立した協同組合「サントル・ヴィニコール・ド・ラ・シャンパーニュ」はネゴシアン(ワイン商)にブドウを卸すだけにとどまらず、メゾンを買い取って自分たちで醸造・販売するようになった。そのメゾンがニコラ・フィアット。76年にニコラ・フィアット氏が立ち上げた大手では最も若いメゾンである。
シャンパーニュ全域をカバー
栽培農家との密接な関係
栽培農家の団結から始まったメゾンだけに、今でも加盟農家との関係は緊密だ。20年前から社内に「シャンパーニュ・アカデミー」という啓蒙チームを設け、農学者や醸造家が加盟栽培農家向けに土壌の分析をはじめとする栽培指導、ビオ移行への行政手続きなどあらゆる相談に乗っている。
普段からコミュニケーションが十分に取れているため、収穫時の連携プレーも実にスムーズ。ニコラ・フィアットのプレス(搾汁)拠点は、シャンパーニュ地方全域に何と520カ所! アペラシオン区域のほぼ全村に一つはプレス機を所有している計算になる。栽培農家が自家畑からそれぞれのプレス拠点までブドウを持ち込む運搬時間は基本的に5分以内で、プレス拠点で圧搾された後は速やかにタンクローリー車でシュイイ村に搬入される。果汁が酸化する間もないハイスピードだ。
そのフレッシュな果汁を生かして、ニコラ・フィアットでは100パーセント、ステンレスで醸造している(樽は実験として1パーセント程度使用)。 醸造所には400基のステンレスタンクが整然と並ぶ。この膨大なタンクは、シェフ・ド・カーヴのギョーム・ロフィアン氏が重要性を訴える豊富な*1リザーヴワインのコレクションも含んでいる。
リザーヴワインには
長熟成のあるワインを
ギョーム・ロフィアン氏は17年に着任した。ロフィアン氏にとってニコラ・フィアットは醸造修士の卒論を書くために研究・研修した古巣。卒業後「アヤラ」「ドラピエ」と渡り歩いた他社での経験は、ニコラ・フィアットを改革するのに大きな糧になった。
「ニコラ・フィアットに帰って、まず一番に着手したのはリザーヴワインです。ドラピエ時代に多少厳しいヴィンテージが巡ってきても、優れたリザーヴワインがあれば問題なく高品質なシャンパーニュを安定して造れることを身をもって学びましたから。リザーヴワインはそれぞれの個性があり、毎年のヴィンテージをつないでくれる重要な役割があります。ところが、前任者にとってリザーヴワインとは、アサンブラージュ(ブレンド)から外れた“補欠ワイン”にすぎず、テイスティングしてみたら3分の1は飲みごろを過ぎていました」
実は同社のフラッグシップ『レゼルヴ・エクスクルーシヴ ブリュット』のセパージュ比率は毎年同じ。コンスタントな味わいに仕上げるために、リザーヴワインをアサンブラージュの決め手に使っている。もちろん、豊富なラインナップを支えるにもこれらリザーヴワインの役割は大きい。
ギョーム氏が手掛けるリザーヴワインは補欠ではなく“一軍選手”。毎秋ワインの発酵が終わると翌春にかけて4~ 5000種類のワインをテイスティングし、*2ベースワインと並行してリザーヴワインに向いた長熟可能なワインを見極めていく。その視線は10年、20年後に行われるアサンブラージュを想定している。本社テラスからシャンパーニュの畑をはるかまで一望できるように、ロフィアン氏もまたニコラ・フィアットの未来の姿をテイスティンググラスの中に見渡しているのだ。
*1 貯蔵してある良作年の原酒
*2 瓶内2次発酵前の白ワイン
パリに行ったらぜひ寄りたい!直営ブティック
数あるシャンパーニュ・メゾンの中で「ニコラ・フィアット」は唯一パリにアンテナショップがある。『オーガニック』などの限定キュヴェを含む全アイテムを購入できるほか、魅力的なコンテンツが盛りだくさん。タッチパネルで好みに合う最適アイテムを選べたり、テイスティング表現に使われるアロマの見本を実際に嗅いでみることもできる。また、その場でオリジナルプリントしたリボンでボトルをデコレーションしてもらえるサービスもあり、お土産にぴったりだ。アプリを使えば冷えた状態でのデリバリーも可能。
凱旋門から徒歩10 分で、隣は「マリアージュ・フレール」、お向かいは「メゾン・デュ・ショコラ」。散歩とお土産探しを兼ねてぜひ立ち寄ってほしい。
ブティック・ニコラ・フィアット
Boutique Nicolas Feuillatte
254 rue du Faubourg
Saint Honoré 75008 – Paris
訪問記②はこちらから https://www.winekingdom.co.jp/_ct/17662874