かれこれ20年来の付き合いである、本誌プロデュサーのA氏から「毎号ビール王国を読んで、面白かったこと、つまらなかったことのどちらでもいいので一読者として書いてくれ」とのお電話をいただいた。一読者として──、という一言に食指が動いた。こう世の中がややこしくなってくると、言論の自由が保障されているわが国であっても、──もちろんヘイト系のそれは同じ土俵で論ずるものでないことは前提としても──、好き勝手なことを言えなく(書けなく)なっているのが実情だ。そんな昨今、一読者として好きなことを書いてよろしい、というお達しは願ったりかなったり、二つ返事でお受けした次第。以後、お時間あればお付き合いいただきたい。

さて、第一回目は2021年1月発売のビール王国29号に登場した「ガストリック」についてお話をさせていただくことにした。
P18、鍋料理とビールのペアリング企画の中で、ベルギービールのシメイ・レッドに対し「ガストリックのような働きをするからどんな料理とも合う」と、大胆な見解が披露されていた。

画像: 「鍋料理とビールは合う」という主張の中で、シメイ・レッドが登場する

「鍋料理とビールは合う」という主張の中で、シメイ・レッドが登場する

そこで改めてシメイ・レッドを飲むと、そこに書かれていたように、酸味、苦味、甘味というまさにガストリックの要素を──程度の違いはあるにせよ、持っているビールであることが確認できた。雑誌の面白さのひとつが、この「追体験」にある。誤解を恐れずに言うならば、雑誌は編集者や執筆陣の「偏執」を『ほんとかよ!?』と確認する作業、行為≒追体験が醍醐味といえよう。

誌面で紹介されたモノを買ったり、紹介された店や観光地を訪れるのは、まさにその追体験をしたいからに他ならない。その結果、「うわっ、やっぱ〇〇の言っていることは間違いないや」と著者に益々心酔するか、「この程度の店(場所)にあれほど感動するなんて、〇〇もたいしたことないね」と、筆者よりも感度の優れている自分に心酔する──。

画像: ここが問題の箇所だ!

ここが問題の箇所だ!

では「シメイ・レッドがガストリックになる」という記事はどうか。まず、そもそも論ではあるが、ガストリックがどういうものであるかの説明が、少々足らない。もちろん、私も長年出版業界でお世話になっているゆえ、紙幅の都合や記事の狙いなど、編集者、またはライターの意図があってのことだろう、という察しはつく。
がしかし、そもそもガストリックを知らない読者は、ここで閊(つか)えたに違いない。雑誌は教科書でもなければ学術書でもない。いくら専門誌といえども、中学生が読んでも「ふぅ~ん」と、なんとなくでもわかったような気になってもらう(させる)仕掛けは必要だと思う。この記事は、その点の配慮に欠けている。少なくとも「ガストリック≒酸味のあるカラメル」であり、ビーフシチューやカレーのコク出しに使う万能調味料であり、女性誌では、バニラアイスにかけて食べると美味しい! なんてポン酢同様アイスクリームの一味アップの“裏技”記事でもよく登場する──、というような一言があれば、シメイ・レッドのテイストと容易に結び着いた、と思うのだが、読者諸姉諸兄はいかがだろう。

画像: ガストリックの“活用法”としてよく知られているのがバニラアイスの味変。ガストリックの基本はグラニュー糖5:水2~3:ワインビネガー1~2とされるが、バニラアイス用にはワインビネガーの代わりにバルサミコもおすすめ

ガストリックの“活用法”としてよく知られているのがバニラアイスの味変。ガストリックの基本はグラニュー糖5:水2~3:ワインビネガー1~2とされるが、バニラアイス用にはワインビネガーの代わりにバルサミコもおすすめ

大嶋武志(おおしま・たかし)
フリーランスの雑誌編集者。リーズナブルなモノ、コンビニエントなモノがハバをきかせ「真っ当なモノ」が見えにくく、手に入りにくい現代に、ひと言もふた言もいいたいと、本企画を担当。

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