「シャトー・フィリップ・ル・アルディ」で公式昼⻝会開催
2025年7⽉4⽇、サントネイの「シャトー・フィリップ・ル・アルディ」で、「ブルゴーニュのクリマ」ユネスコ世界遺産登録10周年を記念し、公式昼⻝会が開催された。この式典にはワイン業界、政界、⽂化界の要⼈が多数出席し、世界共通の⽂化遺産としてのブルゴーニュ・ワインの価値を再確認する場となった。
ブルゴーニュ・ワインの歴史に深くかかわってきた、コート・ド・ニュイ地区にある「シャトー・クロ・ヴージョ」
2015年7⽉4⽇にユネスコ世界遺産に登録された「ブルゴーニュのクリマ」はディジョンからボーヌ、マランジュまでのブドウ畑を⽂化遺産として認定したもので、ワイン産業史上において画期的な出来事であった。世界遺産委員会の諮問機関である国際記念物遺跡会議(ICOMOS)が、同類のいくつかの案件と比較し、2000年以上にわたって続くブルゴーニュ独特のワイン⽂化は「⼈類の歴史上、他に例を⾒ない⽂化的価値」と評価した結果、世界⽂化遺産として登録された。
クリマの概念と特徴
「クリマ」(Climats)はブルゴーニュに特有の⽤語で、ブルゴーニュにおけるテロワールを定義する重要な要素だ。「⼤地の傾斜」を意味するギリシャ語に由来し、英語の「気候(climate)」の語源ともなっている。
クリマには⼟質や動植物の名前などに基づいて固有の名前が付けられており、⽯垣や⽣け垣で仕切られることが多い。⽇当たり、⾵、⼟壌など区画ごとの条件により収穫されるブドウの品質が異なるとされ、地質学、⼟壌学、気候学からも裏付けられている。
記念昼⻝会の会場となった「シャトー・フィリップ・ル・アルディ」。1997年からフランスの銀行グループである「クレディ・アグリコル」の子会社「CA Grands Crus」が98haを管理運営している
記念昼⻝会の会場となった「シャトー・フィリップ・ル・アルディ」は、ブルゴーニュ・ワインの歴史において象徴的な存在だ。シャトーの名前の由来となったブルゴーニュ公フィリップ・ル・アルディ(豪胆公)は、1372年にサントネの領主権を取得し、1395年の基本条例により単⼀品種栽培を開始した⼈物として知られている。
この1395年の条例は、ブルゴーニュ・ワイン史上の重要な転換点で、フィリップ豪胆公によりガメイを禁⽌する勅令が発令され、コート・ドール地域での⾚ワイン⽤品種はピノ・ノワールに置き換わることとなった。
昼⻝会にはユネスコ事務局⻑オードリー・アズレ⼥史を始め、国⼟整備·地⽅分権担当⼤⾂、ブルゴーニュ・フランシュ=コンテ地域圏知事、ディジョン市⻑ナタリー・コエンデール⽒、ボーヌ市⻑アラン・スグノ⽒らが参加した。
また、ワイン業界からはブルゴーニュ・ワイン⽣産者組合(BIVB)会⻑のローラン・ドゥロネ⽒とフランソワ・ラベ⽒、ブルゴーニュ・ワイン商組合(CAVB)会⻑ティエボー・ユベール⽒、「クリマ・デュ・ヴィニョーブル・ド・ブルゴーニュ協会」のジル・ド・ラルジエール会長、同協会名誉会⻑で「ドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ」共同経営者のオベール・ド・ヴィレーヌ⽒らが参加した。
アズレ事務局⻑は祝辞で「ブルゴーニュのクリマ登録は、⼈類の英知と⾃然の協働の証である。持続可能な価値創造は環境への敬意から⽣まれることを、ブルゴーニュが世界に⽰している」と述べた。
また、開会式であいさつしたド・ヴィレーヌ⽒は「これは⽣きた遺産である。私たちは⾃分たちだけでなく、次世代のためにも守り続けなければならない。クリマは世代を超えて⼈と⾃然をつなぐ記憶そのものである。私たちの責務は、謙虚さと敬意をもって、未来へと伝えていくことである」と語った。
世界遺産登録の効果
世界遺産登録から10年が経過し、その効果は多⽅⾯にわたって現れている。
最も顕著なのは国際的な認知度の向上と観光産業への影響である。「バラード・アン・ブルゴーニュ(ブルゴーニュ散策)」という新しいアプリケーションが開発され、クリマ認定区域をナビゲートする技術的取り組みが進んでいる。
経済⾯では、ブルゴーニュ・ワインの希少性と品質に対する国際的評価がさらに⾼まり、価格上昇が続いている。
ブルゴーニュ地域圏のブドウ畑総⾯積は3万52ヘクタールで、フランスの AOCブドウ畑の4.5%を占める。年間⽣産量は約1億9400万本で、全世界のワイン⽣産量の0.5%に当たる希少性が価値を⽀えている。
気候変動、グローバル化、後継者問題など、ブルゴーニュ・ワイン産業が直⾯する課題は少なくない。しかし、2000年以上にわたって蓄積されてきた知識と伝統、そして世界遺産としての国際的保護により、これらの⽂化遺産は確実に次世代に継承されていくと考えられる。
ブルゴーニュの格付けシステムは世界で最も精緻で厳格なものの一つである。畑によって格付けが決まり、全⽣産量のわずか約1.5%に当たるグラン・クリュ(特級畑)を頂点に、約10%を占めるプルミエ・クリュ(1級畑)、村名クラス、地域名クラスと続く。この格付けは商業的な区分ではなく、各畑の地質学的、気候学的特性に基づいた科学的分類である。