近年、健康意識の高まりやライフスタイルの多様化を背景に、ノンアルコールワインに注目が集まっている。こうした潮流の中で、フランスのノンアルコールワイン専門メーカー「モデラート(moderato)」が2025年9月、新たにピノ・ノワールのキュヴェをリリースした。
「モデラート」は、フランス南西地方、ジェルスに拠点を置くノンアルコールワインの新興企業。創業者のセバスチャン・トマ氏はこれまで主としてシャルドネの販売で実績を積んできたが、今回、技術的に困難とされる赤ワインの中でもとりわけ難易度が高いとさされるピノ・ノワールのノンアルコール化に本格参入することになった。
技術的課題への取り組み
『LA CUVÉE RÉVOLUTIONNAIRE de moderato PINOT NOIR 2024年』
ノンアルコールワインの製造において、特にピノ・ノワールのような繊細な品種では、脱アルコール工程での風味保持が大きな技術的課題となる。「モデラート」は、一度通常の醸造工程でワインを完成させ後、後工程でワインからアルコール分のみを除去する「脱アルコール製法」を採用している。
同社によると、この工程で減圧蒸留法や逆浸透膜法といった技術を用いているとされるが、具体的な技術仕様については公表されていない。トマ氏は開発過程について「テストしたプロファイルの中には、脱アルコール化の段階で骨格を失ってしまうものもあった」と、技術的困難があったことを認めている。
今回リリースしたピノ・ノワールは、「モデラート」の拠点があるジェルスではなく、ラングドック地方リムーのブドウが使われている。この判断について、トマ氏は「数多くのテイスティングを重ねた結果、我々が理想とするフレッシュさと、この品種に最適な柔らかさを保ち続けるリムーのテロワールへと辿り着いた」と説明している。
リムーは標高が高く冷涼な気候を持つことで知られ、ピノ・ノワールの栽培においてエレガンスと酸度の維持に適した条件を備えているとされる。同社では、脱アルコール後も品種特性を保持するための基盤として、このテロワールの選択を重視したという。
樽熟成によるストラクチャー構築
脱アルコール工程で失われやすい深みと骨格を補完するため、モデラートでは6カ月間の樽熟成をおこなっている。トマ氏は「洗練されたアプローチとして、6カ月間にわたる樽熟成を行い、樽のニュアンスを持つプロファイルを作り上げた」と述べており、この工程が製品の品質向上において重要な役割を果たしていると強調する。
樽熟成により、脱アルコール後のワインに新たなストラクチャーとテクスチャーを付与することが出来る一方で、ピノ・ノワール本来の繊細さと樽香とのバランス調整が課題となる。
裏ラベルには原材料: 脱アルコールワイン(97%)、濃縮精製ブドウ果汁(3%)、100mlあたりの栄養成分表示: エネルギー 59kJ/14kcalなどが記されている
製品特性と推奨用途
完成した製品は、深みのあるルビー色で、チェリーやラズベリーを思わせる赤系果実のアロマに、わずかに樽由来のトースト香とスパイス香が組み合わさっている。一方、口に含むと心地よいアタックでピュアな味わいだが、アルコールのもたらす厚み、まろやかさがやや欠けていて、後半からフィニッシュにかけてやや物足りなさがある。しかし、従来のノンアルコールの赤ワインにはない興味深いピノの風味が残っている。アルコール度数はフランスのノンアルコールワインの基準である0.5%未満となっている。
飲用温度について、トマ氏は15~18℃、または10℃前後での提供を推奨している。ペアリングとしては、スパイスを効かせた鶏肉のグリル、季節野菜のロースト、ハードタイプのチーズなどを提案している。
トマ氏によると「最初のフィードバックでは大変良い反響を得ている」としているが、具体的な販売実績や市場シェアについては明らかにされていない。ノンアルコールワイン市場全体では、健康志向の消費者層拡大に加え、レストラン業界でのアルコールフリーペアリングメニューへの関心も高まっており、同分野の今後の成長が期待されている。
技術革新の方向性
現在のノンアルコールワイン製造技術は、主に脱アルコール工程の精度向上に焦点が当てられている。しかし、根本的には醸造段階からノンアルコール化を前提とした製法開発や、アルコール以外の成分による風味構築技術の進歩が、今後の品質向上において重要になると予想される。
ノンアルコールワイン市場の成長に伴い、今後は大手ワイナリーの参入も予想され、技術競争の激化と品質向上が期待される一方、市場の細分化が進む可能性がある。また、フランスワイン業界におけるノンアルコールワインの位置づけや、AOC制度との関係についても、今後整理が必要な課題として残されている。「モデラート」のような専門メーカーの動向は、これらの業界全体の方向性を占う上でも注目に値するだろう。