ブラン・ド・ブランの頂点に立つ『サロン』の新ヴィンテージ2015年がリリースされた。気候変動を昇華した永続的なシャンパーニュ。未来を予見させる味わいとブランドの魅力に迫る。

かつてシャンパーニュのヴィンテージ・キュヴェやプレステージ・キュヴェは、10年に1度しか仕込めないことも珍しくなかった。テロワールの限界的な冷涼さのため、造られること自体が祝祭に値する特別なワインだったのだ。とはいえ、当時はアサンブラージュ(ブレンド)という手法から逃れることはできなかった。単一品種・単一年・単一クリュで造られる『サロン』は、誕生の時からその常識に挑む存在だった。だが、いま気候は確実に変わりつつある。

2015年の低い酸度とエネルギー21世紀で8度目のヴィンテージ

『サロン 2015年』は、メゾン120年の歴史の中でわずか45番目のシャンパーニュにすぎない。1905年の創業から20世紀末までの95年間にリリースされたのは37回、すなわち10年に3回強というペースだった。ところが21世紀に入ると状況は一変し、最初の15年間だけで既に8回リリースされている。ブドウの熟度が上がり、ヴィンテージとして仕立てられる年が増えているためだ。この傾向はサロンに限らず、他メゾンにも広く見られる。気候変動がテロワールに確かな影響を及ぼしているのである。

口に含むだけで、サロン2015年がこれまでのスタイルとは異なることがはっきりと伝わってくる。口当たりは柔らかく、力強くて丸い。スイカズラ、ジャスミン、レモンオイル、ヘーゼルナッツの香りが立ち上り、酸味は生き生きとしていて、細身のナイフのようなリニアさが、日本刀を思わせる剛直な切れ味へと微妙に変化した。暑い年に見られる熟した白ワインのような豊かさと肉厚なバランスが感じられ、味わいは口中でゆったりと広がっていく。鮮やかな酸と力強い果実が調和し、しっかりとしたストラクチャーを構成している。膨大なエネルギーの奥には、サロンらしい張りのあるミネル感がしなやかに走る。フィニッシュは繊細な塩気と旨味が口蓋をやさしく愛撫する。

2015年の8月は乾燥して暑く、日照にも恵まれた。8月中旬には穏やかな雨が降り、涼しい気候をもたらし、メニル・シュル・オジェ村では9月8日から収穫が始まった。酸度は2003年以来、最も低かったが、白亜質土壌が水を蓄え、ミネラル感溢れるチョーキーな骨格を形成した。きめ細かくてクリーミーなムースが持続し、重層的な味わいに溶け込んでいる。

サロンを飲み続けてきた愛好家は、アプローチャブルにも感じる味わいに戸惑いを覚えるかもしれない。しかし、これこそが気候変動の未来を生き抜くシャンパーニュなのだ。思い出してほしい。サロンはメニル・シュル・オジェの深いチョーク層に支配されたテロワールとのコラボレーションから生まれるシャンパーニュであるということを。いかなる暑さや乾燥に見舞われようとも、白亜質土壌で育つブドウの強靭さが、ワインにダイナミックなエネルギーをもたらしている。

栽培農家の高いモチベーション

「ローラン・ペリエ」傘下のブランドであるサロンのワイン醸造は、ローラン・ペリエの4代目シェフ・ド・カーヴのオリヴィエ・ヴィニュロン氏が手掛けている。19区画を所有する15軒の農家が協同組合「UPCB」に加盟し、サロンと独占契約を結んでいる。さらにメゾンの裏手に位置する自社畑「サロンの庭」を加えた20区画のシャルドネが、サロンの骨格を成している。

栄光のブランドのためにブドウを栽培しているという誇りに支えられ、栽培農家のモチベーションは高い。1997年からサロンの社長を務めるディディエ・ドゥポン氏は19の区画には19通りのスタイルがある。樹齢80年の古木の区画は収量こそ少ないが、アルコール度が高い。メニルといえど、すべての区画が優れているわけではない。最良なのは中腹の区画だ。ベストの中からさらにベストを選び抜くこと。それこそが品質の鍵を握っている」と明かす。

世界を飛び回るドゥポン氏は農村のメニル村で暮らし、農民たちと家族のように交流しながら信頼関係を深めてきた。オリヴィエ・ヴィニュロン氏の2代前のセラー・マスターのアラン・テリエ氏の時代から、ミシェフ・フォコネ氏を経て30年近くサロンを支えてきた。さらに日本を80回以上訪れ、1992年に輸入の始まった日本市場をサロンのナンバー・ワン市場に成長させた。

「サロン」「ドゥラモット」代表取締役社長・最高醸造責任者 ディディエ・ドゥポン氏

フランスを代表するワインの誇り

サロンは言うまでもなく、シャンパーニュを代表するブランドである。それを公に証明したのが、2023年にフランスを公式訪問した英国のチャールズ3世国王に対し、マクロン大統領が1948年のサロンを贈ったことだ。ドゥポン氏は、サロンがシャンパーニュにとどまらず、フランスを代表するワインとして贈られたことを誇りに思っている。

ドゥポン氏は日本で最もよく知られているシャンパーニュ・メゾンの社長だが、気取ったところはまったくない。

「常に謙虚でいること、そして常に冷静でいること。われわれの職業は、常に自然と向き合うもの。その中で、この姿勢が特に大切だと感じています」

控えめながら揺るぎないその信条こそが、サロンをはぐくみ、日本に多くのファンを生み出してきたことは間違いない

『サロン 2015年』
品種:シャルドネ100%
ドザージュ:6グラム
希望小売価格:19万8000円(税込)

text by Akihiko YAMAMOTO
photograph by Kentaro TAKIOKA

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