2026年3月28日(日本時間同日夜)、ワインの歴史に新たな1ページが刻まれた。世界最古のワイン造りの伝統を誇るジョージア東部カヘティ地方のグルジャーニ自治体と、日本屈指の高品質ワイン産地として知られる北海道・余市町が、友好交流および協力関係に関する了解覚書(MOU)を締結。
ジョージアを訪れた齊藤啓輔余市町長とギオルギ・マチャヴァリアニ市長が署名を交わしたこの提携は、単なる自治体間交流を超え、ワインの「根源」と「未来」を結びつける歴史的瞬間となった。

ピアニストが奏でた「テロワールの共鳴」

このドラマチックな提携の背景には、一人の音楽家の存在がある。ジョージアを拠点に活動するピアニスト・碓井俊樹氏が橋渡し役となり、遠く離れた二つの産地を引き合わせた。

大きな転機となったのは今年2月。駐ジョージア石塚英樹大使が余市町を訪問した際、興味深い試みが行われた。余市産ブドウをジョージア伝統の陶製甕「クヴェヴリ(Qvevri)」で仕込んだワインのブラインド・テイスティングである。その結果、余市のテロワールが持つポテンシャルとジョージアワインとの類似性、そして品質の高さが改めて示された。

調印式で齊藤町長は「8000年の歴史を持つ醸造哲学と余市のテロワールが融合することで、新たな価値を創造できる」と語った。これに対しマチャヴァリアニ市長も、余市町からの提案を歓迎し、その高いポテンシャルに強い期待を示した。

クヴェヴリ醸造の共有と「ガストロノミー」の深化

今回の提携の柱は、ユネスコ無形文化遺産にも登録されているクヴェヴリを用いた醸造手法の共有だ。土中に埋めた甕で果皮や種とともに発酵・熟成させるこの手法は、現代のナチュラルワイン・ムーブメントの源流ともいえる。

さらに協力関係は醸造にとどまらない。グルジャーニ市は、コーカサス地方で唯一の料理専門大学「カフカス大学ガストロノミー・アカデミー」を擁する食文化の拠点でもある。

・食文化の融合:シェフや学生の交流を通じ、ジョージアの伝統料理と、余市のウニやアワビ、サクラマスといった水産資源との新たなマリアージュを探求

・ブランデー生産の知見共有:現地で始動するブランデー生産に対し「ニッカウヰスキー」創業の地として蒸留酒文化を培ってきた余市町の知見を活用

「グローバル・ニッチ外交」が拓く未来

余市町は近年、ピノ・ノワールやシャルドネを中心に、世界のトップソムリエやマスター・オブ・ワイン(MW)たちが注目する産地へと成長している。今回の提携は、町が掲げる「グローバル・ニッチ外交」を象徴する取り組みといえる。

今後は、毎年秋に開催される「グルジャーニ・ワインフェスティバル」への余市ワインの出展や、青少年の人的交流など、経済・文化の両面で多層的なパートナーシップが展開される見込みだ。

「最古」の知恵を「最新」の産地が取り入れることで、いかなるイノベーションが生まれるのか。コーカサスの山々と積丹半島の海風が交差する時、日本のワイン文化は新たな領域へと歩みを進める。