ぺサック・レオニャンを代表するシャトー・オ・バイイは、例外的に赤ワインのみを生産している。その赤ワインの質は、ぺサック・レオニャンの枠を超えて、メドックを含む左岸のトップシャトーの一つと目されている。2021年にブドウ園の風景に溶け込む、極めてエレガントな最新鋭の醸造所を完成したのに続き、かつての醸造所跡を、訪問客を受け入れる大型のレセプション施設に改装した。そのお披露目式が4月17日に行なわれ、これに合わせて、シャトー・オ・バイイの総支配人ヴェロニック・サンデール氏が、2025年産プリムールの紹介と、直近10年の垂直ヴィンテージ試飲、そして記念夕食会を開催した。

歴史を継承し、未来へ繋ぐ新施設「セラリウム」

今回披露された新施設「セラリウム(Cellarium)」は、オーナーのウィルマーズ家がシャトー・オ・バイイに28年間注ぎ続けてきた情熱と探求心が、新たな形として結実したものだ。醸造所と同じ建築家ダニエル・ロメオ氏の設計で、16世紀にシャトー最初の醸造所が建てられ、2021年まで実際に使われていた場所に建設された。「セラリウム」は、ただのレセプション施設ではない。シャトー全体の調和を意識しながら丹念に設えたこの空間には、長い歳月の積み重なりが醸し出す独特の気配が漂う。訪れる人がこうしたワインに宿る“生の営み”をじかに感じ取れるよう、熟成を経た古いボトルなどが静かに展示されている。

20年以上にわたりシャトー・オ・バイイのワイン造りを支え、シャトー・オ・バイイをボルドー最高峰の評価へと導いたガブリエル・ヴィレール氏(左)

2025年産「ホリスティック」:完璧な調和

サンデール氏は、最新の2025年ヴィンテージを「ホリスティック(Holistic)」と名付けている。「全体は部分の総和以上のものである」というアリストテレスの哲学を当てはめたもので、すべての要素が完璧に調和し、例外的な質を実現しているという意味だ。2025年は、理想的な開花と夏を経て、8月に降った30mmの雨がブドウを完璧な収穫条件へと導いた。“惑星が整列した”かのような幸運な年であったという。

このワインは、若いうちから楽しめる親しみやすさと、長期熟成に耐えうるポテンシャルの両方を兼ね備えており、あらゆる要素が美しく統合されている。その品質は、最初のテイスティングの段階から醸造チームに確信を与えるほど素晴らしいものであったという。

試飲で用意されたボトルは、シャトー・オ・バイイの2025年産のセカンドワイン「オ・バイイⅡ」とグランヴァン「シャトー・オ・バイイ」で、両者を比較試飲する場でもあった。セカンドワインの質は極めて高いが、比較するとグランヴァンの濃密さ、質量は圧倒的だ。エレガントで、フレッシュ感も素晴らしい。

2015年から2024年までの、直近10年の垂直試飲会でサービスされたワイン

直近10年の垂直試飲:テロワールの多面性を探る

続いて行われた2015年から2024年までの10年間の垂直試飲は、シャトー・オ・バイイが歩んできた進化の軌跡を辿る貴重な機会となった。

2024年(14/20) 雨の多い年だったが、チームのエネルギーを結集して困難を克服した。精密な醸造により、極めてエレガントで純粋な果実味が際立つ仕上がり。しかし、全体にやや薄く、濃縮度に少し欠ける。

2023年(16/20)多くの障害を乗り越えた、起伏に富む年。多様な気候条件がワインに複雑な表情を与えており、クラシックなスタイルとモダンな魅力が融合している。特に余韻の長さが印象的。

2022年(16.5/20)記録的な猛暑と乾燥に見舞われた年。力強さと繊細さ、鮮烈なフレッシュさが同居している。しっかりとした内容で、良いタンニンがあり、長期保存に耐えるだろう。

2021年(14.5/20) 霜や病害のプレッシャーに対し、丁寧な手作業で向き合った年。新醸造所での初ヴィンテージ。収量は限られているが、洗練されたエレガントなタンニンがある。すでに変化の兆しがうかがえる。

2020年(15/20)異常気象とパンデミックという二重の試練に直面した年。非常に早熟で、熟した果実の凝縮感と太陽の恵みが反映されている。すでに香りが開いている。

1955年にシャトー・オ・バイイを取得した、ベルギー出身のワイン商ダニエル・サンデール氏の孫にあたる、ヴェロニック・サンデール氏。1998年に米国のウィルマーズ家がシャトーを購入した後、総支配人を務めている

2019年(16/20)素晴らしい濃縮と純粋さを備えた、エネルギーに満ちた年。まだ少し硬いが、内容と密度があり、長期熟成のポテンシャルを秘めている。

2018年(17/20)豪雨と干ばつという極端な気候を克服した年。収量は少ないが、驚くほど濃厚で華やか、凝縮された果実味を持つ。まだ開いていないので表現の複雑さは感じられないが、偉大なミレジム特有の、どっしりとした存在感が感じられる。

2017年(16/20) 霜を免れた古木の区画が中心となった、花のような香りが特徴のヴィンテージ。鮮やかなフレッシュさと繊細なタンニンが調和しており、緻密でバランスが良い。すでに味わえる魅力的なワイン。

2016年(16.5/20)幸運に恵まれ、並外れた密度と味わいの深さを実現した年。フェノール成分の抽出が素晴らしく、丸みのあるタンニンが特徴。多くのプロのテイスターを引き付ける、非常に魅力的なワイン。

2015年(17/20) 穏やかに円熟した年。理想的な成熟を遂げたぶどうにより、凝縮感と、偉大なヴィンテージ特有の滑らかさが際立っている。エレガントでバランスが取れており、非常にソフトな口当たりと心地よい調和が感じられる。

シャトー・オ・バイイの醸造コンサルタントを務める、ボルドー大学のアクセル・マルシャル教授

三代にわたる歴史を味わう記念夕食会

セラリウムで開催された記念夕食会では、さらに歴史を遡る1975年、1985年、1995年、2005年のヴィンテージが、フランス料理とともに振る舞われた。これらのワインは、ウィルマーズ家の三代にわたる歴史を象徴している。

特筆すべきは2005年で、瓶詰めから20年を経て、驚くほど結晶のような透明感とフィネスを備えた進化を遂げていた。1975年はヴェロニック氏の祖父が手掛けたヴィンテージであり、困難な年とされていたが、時の流れを経て、その本質を力強く示していた。

シャトー・オ・バイイの醸造コンサルタントを務める、ボルドー大学のアクセル・マルシャル教授は、夕食会後のスピーチで次のように語った。
「20年前に学生として初めてオ・バイイを訪れた際に味わった、瓶詰め前の2005年産が、今や驚くべき進化を遂げていることに感動した。ワインは、絵画や彫刻といった他の芸術作品とは異なり、生命を持って進化し続ける製品だ。いつも同じ感動を味わえる多くの芸術作品とは異なり、ワインは刻々と変化し、その変化は、私たち自身の成長や人生の歩みを映し出す鏡のようなものである」

さらに、ある参会者から「オ・バイイのDNAは、アーティストを隠し、芸術そのものを表現するところにある」という、オスカー・ワイルドの言葉を引用した賛辞が述べられた。確かに、控えめながらも常に揺るぎないエレガンスを追求し続ける、シャトー・オ・バイイの哲学を見事に言い表している。新施設セラリウムの誕生は、このシャトーが持つ「たゆまぬ再生」の精神を象徴する、新たな章の幕開けといえる。

記念夕食会では、シャトー・オ・バイイの総支配人ヴェロニック・サンデール氏の父、祖父が醸造したワインがサービスされた