8月1日の「国際アルバリーニョの日」に合わせ、アメリカ・オレゴン州で初開催された「Copa del Albariño」。世界の生産者が集うこの祭典に、日本から「ドメーヌミカヅキ」が招待を受けて参加した。岩手県南東部にある陸前高田の冷涼な海風を受けて育つアルバリーニョが、国際舞台で静かに存在感を示した。
オレゴンで初開催された、アルバリーニョの祭典が示した新潮流
「夢や目標も、静かに大きく育っていく」という変化と希望のプロセスを込めて名付けられたワイン『満ちていく』。時間とともに夢が実を結ぶように、造り手の世界、そして未来へ挑戦し続ける思いが、この一本に刻まれている
アメリカ政府の補助金採択を受けて開催されたこのイベントは、世界各国のアルバリーニョ生産者が集う国際的な祭典として注目を集めた。会場にはワイン専門家や業界関係者も多く訪れ、アルバリーニョの新たな潮流を示す場となった。
陸前高田の「高田松原」に広がる、三日月形の美しい砂浜に由来して名付けられたワイナリー名「ミカヅキ」。震災後、「奇跡の一本松」とともに復興の象徴となったこの地への思いを胸に、郷土の原風景と未来への希望を映し出す
前日には、来場者が立ち飲み形式で採点するカジュアルなコンペティションが行われ、産地ごとのスタイルを比較しながら楽しむ様子が見られたという。nose、appearance、flavor、texture、overallの5項目、計25点で評価が行われ、各国のアルバリーニョが一堂に並ぶ貴重な機会となった。
本祭典には150人が来場。オレゴン名物のビンナガマグロ(アルバコア)とアルバリーニョを組み合わせた「アルバ&アルバ」の解体ショーとペアリングが会場を沸かせた。伝統的なスタイルを重んじる生産者からは慎重な声も聞かれた一方、こうした挑戦的な企画を歓迎する参加者も多く、ワイン文化が新たな段階へ踏み出しつつあることを感じさせる場面も随所に見られた。
日本の小さな産地が国際舞台へ歩み出す
「ドメーヌミカヅキ」代表、及川恭平氏。陸前高田のテロワールが持つ可能性を確信し、震災を乗り越えて培われた揺るぎない決意を胸に刻む。その思いを一本のワインに託し、郷土の価値を世界へ届けるため、これからも挑戦を続ける
―ドメーヌミカヅキが参加した意義―
ドメーヌミカヅキは、陸前高田で栽培したアルバリーニョを携え、日本から唯一招かれたワイナリーとして参加。各国の生産者と栽培環境や取り組みについて意見を交わした。沿岸部の気候や収穫の判断など、それぞれの産地が持つ特徴を共有するなかで、新たな視点を得る機会にもなったという。
陸前高田の海が育てたアルバリーニョ
岩手県陸前高田市は、海風、広田湾からの反射光、花崗岩土壌など、沿岸部特有の条件を備え、アルバリーニョの本場リアス・バイシャスと共通する要素も多い。2026年3月には国の「ワイン特区」に認定された。
ドメーヌミカヅキは、この土地でアルバリーニョのみを栽培する小さなワイナリーであり、海に寄り添う環境をそのままワインに映し出す取り組みを続けている。
創業者の及川恭平氏は、震災で故郷が失われた高校時代に「地元に根付く産業をつくる」と決意。10年の準備期間を経て、2021年、27歳でワイナリーを立ち上げた。2024年には自社畑のアルバリーニョが初収穫を迎え、ファーストヴィンテージは海産物との相性を重視し、オレンジワインとして仕込まれた。
さらに、ビオディナミ農法の導入やデメター認証取得への挑戦、ワイナリーツーリズムの本格化など、地域と世界をつなぐ取り組みも進めている。今年中にはワイナリーの建物がオープンし、海とワインを軸にした新たな観光の形が始まる予定だ。
未来へ向けて
陸前高田で育つアルバリーニョ。“海のワイン”とも称されるこの品種は、リアス・バイシャスと共通する気候や土壌を持つこの地で、その個性を発揮する。海に寄り添うテロワールを映し出すため、アルバリーニョに特化したワイン造りを行っている
アルバリーニョを通じて育まれる、世界とのつながり。気候や言葉、文化は違っても、自国のワインを発展させたいという造り手の思いは世界共通だ。この祭典への参加は、ドメーヌミカヅキが世界の生産者と肩を並べるための、着実な一歩となった
ワイン特区として制度的な後押しが整ったことで、栽培、醸造、地域連携のいずれにおいても、ドメーヌミカヅキが取り組みを広げていくための環境は着実に整いつつある。
Copa del Albariñoへの参加は、各国の生産者との対話を通じて、自社の栽培や醸造をどの方向へ発展させていくのかを考えるうえで、重要な示唆をもたらした。この経験は、ドメーヌミカヅキのみならず、地域のワイン産業に新たな展開をもたらす一歩にもなっている。
今後、ドメーヌミカヅキがどのような形でアルバリーニョの可能性を追求していくのか。この地で育つアルバリーニョが、どのような未来を描いていくのか。期待したい。
text by 日本ワインマスターズクラブ
宮崎まり DipWSET、美輪泰芽