神奈川県藤沢市で偶然発見された新品種「メイヴ」。都市の屋上でも高品質な果実を実らせる強健性を持ち、北海道から沖縄まで全国で栽培が進んでいる。7月に開催された説明会では、専門家による栽培特性の解説と、全国各地で醸造されたメイヴワインのテイスティングが行われた。

黒ブドウ新品種「メイヴ(Maeve)」が、都市部の醸造家や研究者から注目を集めている。地元住民が無農薬で20年以上栽培してきたブドウ畑を、2019年に株式会社ショーナンが引き継いだことが発見の契機となった。DNA検査の結果、既知の品種と一致するものがなく、新品種であることが判明。北海道・北見の−30℃から沖縄・今帰仁村の亜熱帯まで栽培が進み、強健性と環境適応力の高さが際立つ品種である。

都市の屋上で育つメイヴの鉢植え。限られた土壌環境でも健やかに実を結び、都市部でもブドウ栽培が可能であることを示す取り組みとして注目されている

都市環境に適応する強健性と栽培特性

ゲノム解析の結果、片方の親は病気や害虫への耐性を持ち、台木としても利用される北米原産の「リパリア・グロワール」、もう片方はヨーロッパ種の「ソービニオン系」ではないかと推定されている

メイヴは、限られた土壌や強い日射、都市特有のヒートアイランドにも適応し、都市型ワイン品種として希有な特徴を示す。説明会には東京農業大学の本間裕人教授も登壇し、「糖度が高く、酸味も美しく残る、日本の都市環境に適したぶどう」と栽培特性を解説した。

屋上の鉢植えでも糖度25〜30度を記録し、樹勢が強く葉量も多い。未活用の屋上を活かした都市農業の取り組みとして、MaeVinoのプロジェクトによる栽培も広がりつつある。鉢植えでも充実した果実を実らせる強健性は、農薬の使用を抑え、環境負荷の少ない都市農業にもつながる可能性を秘めている。「育てることが都市を豊かにする」という理念を体現する品種として、メイヴは都市型ワイナリー構想の中心に位置づけられている。

産地差が明確に示されたテイスティング

全国各地で造られたメイヴのワイン。産地ごとの味わいを比較することで、栽培環境の違いが生む多様な表現と、品種そのものが持つ個性を探る

説明会では、全国各地で醸造された6種類のメイヴワインが供された。いずれもアルコール度数は比較的低めで、果実味の純度と酸の美しさが印象的だった。

北海道北広島産のスパークリングロゼは爽快な味わいで、きめ細かな泡と軽快な果実味が特徴。千葉県柏市産のロゼ『Weingut Egucci von TEGA Maeve 2025年』(アンワイナリー製は、華やかな香りと高い酸が印象的で、ロゼらしい透明感を備えていた。

藤沢市産『Maeve 2024年』は、張りのある酸と野性味を感じさせる凝縮した果実味がストレートに表現された1本。柏市産ブドウを「NIKI Hills」で醸造した『Weingut Egucci von TEGA Maeve 2023年』には、参加者から「NIKI Hillsらしいスタイル」との声が上がった。

北海道北見産『黒曜ルージュ 2025年』(北海道ワイン)は、寒冷地らしい引き締まった酸と落ち着いた果実味が調和し、グレープジュースのような飲みやすさが印象的。香川県小豆島産『オリビアン小豆島 Maeve 2025年』(アンワイナリー)は、温暖な気候を反映した豊かな果実味と柔らかなタンニンを示した。

参加者の保科武志 DipWSETは、「色合いは深いガーネットで、黒系・赤系ベリーが一貫して存在し、フォクシーフレーバーは全くない。産地差はあるものの、いずれも糖度とタンニンが十分で骨格が崩れず、素性の良さが感じられた。特に北海道の瓶内二次発酵ロゼは、酵母の香りと果実が寄り添い秀逸だった。今後、造り手や研究者の試行錯誤が進めば、メイヴは日本らしい個性を持つ品種として、さらに評価が高まっていくと感じた」と語った。

全国の栽培地は北海道から沖縄まで広がり、産学官連携も進んでいる。強健性と環境適応力、そして産地ごとに異なるワインスタイル。メイヴは、都市から始まる新しいワイン文化の可能性を秘めた、国産品種である。

text by 日本ワインマスターズクラブ
宮崎まり DipWSET