シャブリ村に拠点を構えるメゾン・シモネ・フェーヴルは、2026年9月3日、パリのレストラン「アピシウス」でクレマン・ド・ブルゴーニュの新製品を発表した。発表にはジェネラル・ディレクターのポール・エスピタリエ氏が出席した。2025年のクレマン・ド・ブルゴーニュ生産規定の改定によって表示が認められた区画名(リュー・ディ)付きのクレマンで、いずれもAOCシャブリの区画のブドウを使った上級キュヴェである。同じ区画のブドウから造ったシャブリとクレマンを並べて比較する機会は、筆者にとって初めてであった。

「シャブリ・ムスー」への回帰

エスピタリエ氏は発表の冒頭で、今回の試みは「メゾンの原点に戻るものだ」と述べた。シモネ・フェーヴルは創業した1840年から発泡性ワインを手がけ、「シャブリ・ムスー」の名で販売していたという。同氏が持参した当時のセラー台帳には、「シャブリ・ムスー」「グラン・ヴァン・ド・シャブリ」と記された取引記録が残されている。

「シャブリ・ムスー」の名称は、1930年代に原産地呼称制度が整備されたことで使えなくなった。1946年に「ブルゴーニュ・ムスー」が正式に認められた際、シャブリ側も「シャブリ・ムスー」の復活を申請したが、「スティルワインの村名アペラシオンは発泡性ワインの呼称に使用できない」という原則のもとで却下された。メゾンはその後も発泡性ワインの生産を続けたが、シャブリの名は使えず、1975年にクレマン・ド・ブルゴーニュが創設されてからは、この名称で出荷してきた。

15年を要した区画名表示

クレマン・ド・ブルゴーニュの産地はシャブリからボージョレ北部まで広がっている。このため、出自を明らかにするためにクレマン・ド・ブルゴーニュに区画名の表示を望む声が強まり、約15年前に、規定の改正申請がINAOに出された。しかし発泡性ワインの審査にはシャンパーニュ側の意向が強く影響し、これが手続きを長引かせたと、エスピタリエ氏は説明した。最終的に2025年の規定改定で、クレマン・ド・ブルゴーニュに区画名の表示が可能となり、メゾン・シモネ・フェーヴルは2024年ヴィンテージからこれを適用している。

エスピタリエ氏はよると、クレマン・ド・ブルゴーニュの全生産量は増加を続け、年間2000万本を超えている。生産者組合では、ブルゴーニュの多様なテロワールを反映させるため、区画名に続いて、クレマンにプルミエ・クリュを設ける検討作業部会で進めているという。

シャブリ村にあるシモネ・フェーヴルの地下熟成庫では、手動式のジャイロパレットが使われている

二つの区画と名称

区画名付きクレマン・ド・ブルゴーニュの第一弾として発表されたのは、「キュヴェC」と「キュヴェM」の二つである。「キュヴェC」は、スラン川右岸、プルミエ・クリュ「モンテ・ド・トネール」の斜面の下に位置するリュー・ディ「バ・ド・シャプロ」のブドウを使う。南西向きの斜面で、土壌はキンメリジャン階の粘土石灰質である。メゾンは同じリュー・ディから村名シャブリ「バ・ド・シャプロ」を生産している(2023年ヴィンテージまでは「D1840」の名で販売)。

もう一つの「キュヴェM」は、右岸のプルミエ・クリュ「モン・ド・ミリュー」のブドウを使う。規定上、1級畑の名称をクレマンにそのまま表示することはできないため、中世に使われていたこの畑の古名にちなみ、「キュヴェM モン・デ・メイユール」と命名した。「モン・デ・メイユール」は、前オーナーであるシモネ家の当主が古文書から見出した名称だという。右岸の南部にある「モン・ド・ミリュー」は、かつてブルゴーニュ公領とシャンパーニュ伯領の境界にあたり、真南向きの斜面を持つ。

二つのクレマンはいずれもシャルドネ100%で、平均樹齢は「キュヴェC」が51年、「キュヴェM」が35年、平均収量はいずれも40hl/ha。搾汁はキュヴェ(一番搾り)とタイユ(二番搾り)を分け、軽く清澄したのち、ステンレスタンクを使い18℃で発酵させる。6ヶ月の熟成後に瓶内二次発酵を行い、最低18ヶ月瓶熟成する。ドサージュは1リットルあたり2~5グラム。

左から、シャブリ『バ・ド・シャプロ』、クレマン・ド・ブルゴーニュ『キュヴェC』、シャブリ1級『モン・ド・ミリュー』、クレマン・ド・ブルゴーニュ『キュヴェM モン・デ・メイユール』

醸造と栽培

エスピタリエ氏は、すべての区画がクレマンに向くわけではなく、収穫日の調整によってバランスのよいブドウが得られると述べた。クレマン用のブドウを先に摘み、スティルワイン用は2024年は約10日後、2023年は約5日後に収穫した。2024年は両者の熟度に約2度の差があった。

対になるスティルワインのうち、村名シャブリ「バ・ド・シャプロ」は平均樹齢35年、収量55hl/haで、65%をステンレスタンク、35%を3~5年使用の樽で発酵・熟成させ、15~18ヶ月澱とともに熟成する。プルミエ・クリュ「モン・ド・ミリュー」は樹齢40年、収量56hl/haで、ステンレスタンクを使用し、18~20℃で発酵させ、12ヶ月熟成させる(ステンレスタンク75%、樽25%)。同じ区画でも、クレマンとスティルワインでは収量が大きく異なり、樹齢も異なる。

二つのクレマンの生産量は、2024年が2000~3000本程度。2023年は試験的な生産で、数百本にとどまる。フランス国内の小売価格は「キュヴェC」が24.90ユーロ、「キュヴェM」が29.90ユーロ。一方、村名シャブリ「バ・ド・シャプロ」は21.90ユーロ、プルミエ・クリュ「モン・ド・ミリュー」は36.90ユーロである。

試飲:2024年と2023年

ディナーでは、アペリティフに続いて、2024年と2023年のそれぞれについてシャブリとクレマンを交互に試飲した。

2024年についてエスピタリエ氏は、酸が保たれた年で、クレマン用とスティルワイン用の熟度の差が大きかったと説明した。

クレマン・ド・ブルゴーニュ「キュヴェC」2024は、最初にわずかな甘さを感じるが、中盤から余韻にかけて充実した味わいがあり、発泡性ワインらしい新鮮さが心地よい。同じヴィンテージのシャブリ「バ・ド・シャプロ」2024は丸みがあり、新鮮な桃のニュアンスが特徴的だ。ただ、両者を飲み比べると、クレマンの方が後味が長く残り、このテロワールをよく表しているように感じられた。

「キュヴェM モン・デ・メイユール」2024は内容が充実し、中盤のボリューム感が印象的で、余韻も長い。シャブリのテロワールを分かりやすく伝えるもので、クレマン・ド・ブルゴーニュの可能性を示すものだった。今回試飲した中で、最も記憶に残った一本である。

一方、同じ畑のシャブリ1級「モン・ド・ミリュー」2024は、25%を樽で熟成しており、典型的な柑橘のニュアンスと複雑な酸が感じられ、シャブリ・プルミエ・クリュとしての実力を備えている。しかし、クレマンと比べると、表現力の点でやや控えめに感じられた。筆者にはそれほど、クレマンの印象が強かった。

2023年は、2024年に比べて溌溂さにやや欠け、シャブリの特徴やテロワールの表現も控えめだ。また、二つのクレマンは2023年が初めての試みで、洗練度では2024年にやや劣る。それでも「キュヴェM」2023は、2024年と同様にクレマンとしての完成度の高さが際立ち、強い関心を持った。

食事の最後には2本のグラン・クリュが用意された。その中で、レ・クロ2023は、典型的なシャブリの味わいを持ち、このヴィンテージのシャブリの中でも上位10本に入ると筆者は考える。

シャブリ村スロン川のほとりにあるシモネ・フェーヴルのレセプションルーム

今後の展開

メゾン・シモネ・フェーヴルは現在、プルミエ・クリュ17区画のうち8区画と、複数のグラン・クリュからブドウを調達しており、2018年からは契約生産者のビオロジック認証取得を支援している。区画名付きクレマンは今後も拡大する予定で、次の候補としてグラン・クリュに近い台地上の区画を検討しているという。ただし、グラン・クリュのブドウでクレマン・ド・ブルゴーニュを造る予定はない。