1893年設立のフランス・ブルゴーニュ地方のワイナリー 「エドゥアール・ドロネー」の当主でブルゴーニュワイン委員会会長を務めるローラン・ドロネー氏が来日。「マンダリン オリエンタル 東京」の野坂昭彦ソムリエとの対談でブルゴーニュの現在地と未来について語った。
2021年に仲間の推薦で「ブルゴーニュワイン委員会」会長に
「ブルゴーニュのワイナリー『エドゥアー ル・ドロネー』の5代目です」と語るローラン・ドロネー氏。1980年代後半にカリフォルニアで醸造を学び、いずれ家業を継ぐ日を思い描いていたが、90年代前半、父の病が原因でワイナリーを売却することに。その後、妻のカトリーヌさんとともにゼロから南フランスでワインビジネスを展開し、自身のワイナリーも手掛けてきた。2017年にエドゥアール・ドロネーを買い戻し、次々と評価の高いワインを世に送り出す。そして21年、ブルゴーニュワイン委員会の会長に就任した。
「仲間たちがブルゴーニュ以外での醸造経験を買ってくれたのか、『君にやってほしい』と推薦してもらったのです」
以来、地元のワイン造りのために活動している。
「会長にお聞きしたいことが山ほどあります」と迎えたソムリエの野坂昭彦氏。
「ご存じのようにブルゴーニュはかつてないほど、大きな変革を迫られています」とドロネー氏は言う。問題として、「気候変動」「コロナ禍による市場構造の変化」「世界的なワイン消費の減少」を挙げた。その解決に向けて進めているのが、「ブルゴーニュ 2035」というプロジェクトだ。既知・未知のリスクに迅速かつ効率的に対応できる体制作りが柱となるが「*カーボンボンニュートラルも達成すべき目 標の一つです」と補足した。
「例えばシャンパーニュでは、耐病性 品種『ヴォルティス』が認可されるなど、品種へのアプローチが行われていますが、ブルゴーニュではいかがですか?」との問いには「干ばつに強い台木の研究と、病気に強いアメリカ系品種とシャルドネの交配に取り組んでいて、将来はワイン造りへの活用も考えています」とドロネー氏は応える。
ローラン・ドロネー氏
「 エドゥアール・ドロネー」当主、ブルゴーニュワイン委員会(BIVB)会長を務める。オート・コート・ド・ニュイの可能性と、ブルゴーニュの未来について語った
温暖化によって注目される、冷涼なオート・コート地区
「興味深いのは、気候変動によってコー ト・ドールの西側にある丘陵地帯『オート・コート』が、今後どのような役割を果たすのか? 将来的に格付けとなる可能性もあるのでしょうか?」との問いに、ドロネー氏は“わが意を得たり”といった表情を見せた。というのも、エドゥアール・ドロネーがオート・コートの北側、「オート・コート・ド・ニュイ」に注力しているからだ。
オート・コート・ド・ニュイの畑と、その一角に佇む「シャトー・ド・シャルモン 」。ドロネー家 が1954年から拠点を置く
「ずっと標高が高く、冷涼すぎる気候だったため、補完的なエリアという扱いでした。ところが、温暖化でブドウが十分に熟すようになり、タイト な酸とのバランスが良いワインができるようになったのです。未開墾の土地もまだ十分に残されており、現在の割増しまで拡張が可能なんですよ」
その一方で「まだ村名さえもないので、正直、格付けに至るまでは多大な時間を要するでしょう」と慎重な見解を示す。
エドゥアール・ドロネーのワイン造 りは、まさにオートクチュールだ。約35種のワインを、それぞれのテロワールやブドウの個性に合わせて仕立てていく。除梗率やピジャージュの回数とタイミング、フィルターをかける時期まで細やかに調整。
さらに9社の樽会社の樽を使い、可能な限り一つのキュヴェを異なる樽で別々に醸造する。そして、それぞれの味わいを見極め、緻密なアサンブラージュによって最終的なスタイルを組み上げていく。一つひとつのワインに合わせて造りを組み立てる、まさにオートクチュールのアプローチだ。
野坂昭彦氏
「マンダリン オリエンタル 東京」ディレクター オブ ワイン。ブルゴーニュの現在地と未来に鋭く切り込み、テイスティングでは料理とのペアリングも提案した
ここからは実際に試飲してみることに。
最初のワイン『ブルゴーニュ オート・コート・ド・ニュイ ブラン ル・モン 2022年』は、「石がゴロゴロとした白い土壌」のリューディ(小さな区画)「ル・モン」 で育ったシャルドネを、フレンチオーク樽で発酵している。
「レモンピールや洋梨の華やかな香りに、乳酸的な丸みも。アタックは柔らかでオリのクリーミーさがあり、標高の高さからくる、伸びやかな酸が全体を引き締めています。みずみずしくすがすがしい味わいには、バターの効いたホタテのポワレがいいですね」と野坂氏。
『ブルゴーニュ オート・コート・ド・ニュイ レ・ダム・ユゲット 2022年』の区画は、「ニュイ・サン・ジョルジュ」の一級畑「レ・クロ」の傍らの高台にあり「フレッシュかつ力強いワインを造っています」とドロネー氏。野坂氏は「赤い果実と赤い花の香り。スワリングするとジュパーベリーの印象もあり、香りが多層的に広がります。タンニンは繊細でエレガントですが、先ほどの白ワインと同じく直線的な酸もあります。カツオの炭火焼きにミョウガを添えたいですね」とコメント。
次にオート・コートを離れ、ファミ リーの拠点である『ニュイ・サン・ジョルジュ ヴィエイユ・ヴィーニュ 2023年』を。粘土質の北部と石の多い南部のブドウをブレンドし、「完全に除梗して醸すことが、この地を表現する最善のアプローチだと確信しています」とドロネー氏が言う。
「好きなタイプです! 23年の強い果実のボリュームではなく、香りは黒系果実に鉄分や森の下草と多層的。直線的な酸にきめの細かいタンニン、味わいの核に凝縮した果実味があり端正な味わい。鉄分のニュアンスに小鳩のローストを合わせたいですね」
『ポマール プルミエ・クリュ レ・シャポニエール 2021年』、自社の一級畑の樹齢80年の古樹だ。
「粘土質土壌に深く根を張り、成熟がゆっくりと進むため、タンニンがシルキーな質感になります。典型的なポマールとは少し違うタイプです」との説明を受け、野坂氏は「発展的な香りで、モレロチェリー、紅茶にヌガー、カカオと多彩。タンニンはきめ細かく、ポマールらしい充実感のある果実味、軽快な酸も重なり、飲むたびに味が移ろって立体感があり素晴らしい。牛フィレのローストに贅沢なソース・ペリグーでしょう」と語る。
試飲を通して感じた事を聞くと、「今日はブルゴーニュの希望とされるオート・コートの試飲を楽しみにしてきました。 ブドウの純粋さとテロワールが忠実に表現され、エレガントで上品。飲み進めると味わいが変化していくのも魅力で、フードフレンドリーなワインですね」と野坂氏。
ドロネー氏はうなずきながら「日本の繊細な味覚や文化はブルゴーニュワインと通じるものがあり、洗練された日本料理との相性も良いと確信しています。今後も“1杯飲んで、もっと飲みたい”ワインを造っていきたいですね」と語った。
伝統を大切にしながら、変化する環境の中で新たな可能性を探る。その歩みは、これからのブルゴーニュを考えるうえでも、大きな示唆を与えてくれる。
(左から)
『ブルゴーニュ オート・コート・ド・ニュイ ブラン ル・モン2022年』
希望小売価格:9680円
『ブルゴーニュ オート・コート・ド・ニュイ レ・ダム・ユゲット2022 年』
希望小売価格:9680円
『ニュイ・サン・ジョルジュ ヴィエイユ・ヴィーニュ2023年』
希望小売価格:1万7600円
『ポマール プルミエ・クリュ レ・シャポニエール2021年』
希望小売価格:2万4200円
『ムルソー2022年』
希望小売価格:2万8600円
※価格はすべて税込
*温室効果ガスの排出量と吸収・除去量を差し引きゼロにする取り組み
text by Atsushi TOGAMI, photographs by Hiroshi INOMATA
問い合わせ先:㈱アルカン TEL. 03-3664-6591