ビール王国で掲載したビールにぴったりなレシピを紹介していくこの企画。特定のビールやビアスタイルにバッチリとペアリングするレシピや、プロの料理人や料理研究家が腕によりをかけたメニューを、ぜひご自宅で再現してみてください。第一回目は「分とく山」総料理長の野﨑洋光さんです。

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シメイレッドに合う夏のつまみ

ベルギービールを代表するシメイ。しかし「和食との相性もいいですよ」とは、分とく山の総料理長の野﨑洋光さん。聞けば、30年来のシメイファンという。そこで、この夏にシメイを楽しむために、家庭でも簡単にできる“おつまみ”を野﨑さんに教わった。

「僕がシメイビールを一言で表現するなら、〝味わいのビール〟かな」というのは日本料理界の重鎮、野﨑洋光さん。「独特の酵母感と風味、量をたくさん飲まなくても満足できるのがいい」と、長年、シメイビールのファンでもある。そんな野﨑さんに、夏のシメイビールを楽しむ料理を提案してもらった。
「シメイレッド」には、豚肉を香味野菜でボイルしたもの。「豚肉のおいしさは、あの淡白な脂肪があってこそ。牛肉の脂肪のような臭みがなく、食べやすいです。なかでもロース肉は適度な脂肪が混在する部位で、円熟した苦みを感じさせるレッドとの相性は抜群だと思います」(野﨑さん)

スパイシーで濃厚な味と苦みのシメイレッドには豚醤油煮を。醤油とビール、同じ発酵食品同士なので違和感のない食べ心地

豚醤油煮

■材料(作りやすい分量)

豚肩ロースかたまり肉…500g
塩…20g

A  セロリの葉、にんじん、長ねぎ…各50g
  玉ねぎ…100g

B  水…1000㎖
  薄口醤油、酒…各100㎖
  サラダ菜…適量

■作り方
1.豚肉に塩をまぶし、2時間おいてたこ糸で肉を巻く。熱湯に浸し、面が白くなったら冷水に取り、軽く洗って水けをきる。
2.Aの野菜を粗く刻んで鍋に入れ、B、1の豚肉を加えて火にかける。沸騰させず、80℃の温度を30分保ちながら煮たら火を止める。そのまま煮汁ごと冷ます。
3.煮た野菜をミキサーにかけてペーストにし、煮汁を少量加えてソースにする。
4.豚肉の糸を取り、適当な厚さに切って、サラダ菜を敷いた器に盛る。3を添える。

適度な厚さにスライスされた豚肉を味わうと、香味野菜の風味を感じつつ、赤身と脂のうまみが口の中に広がる。ここでレッドを口にするとすっきりとした後味に変わるのだ。

ブルーにはしっとりとした鶏肉をペアリング

そして風味豊かなブルーには、こちらもシンプルにボイルした鶏もも肉を。昆布を入れて火を通しただけというが、肉の旨味がよく引き出されている。きっと高級スーパーの地鶏なのだろうと尋ねると、近所のスーパーで売られているブロイラーの鶏肉という。「地鶏が必ずしも旨味が強いとは限りません。以前ブロイラーと数種の地鶏で、うまみを数値化する実験をしたらブロイラーの数値のほうが高いという結果が出ていましたから」(野﨑さん)

画像: 鶏肉と温泉卵、薬味を和えた親子和えには、フルーティーで芳醇なコクをもつシメイブルーを組み合わせた

鶏肉と温泉卵、薬味を和えた親子和えには、フルーティーで芳醇なコクをもつシメイブルーを組み合わせた

親子和え

■材料(作りやすい分量)
鶏もも肉…2枚

A 水…1500㎖
昆布…5cm
温泉卵…4個

薬味 きゅうり…1本
長ねぎ…1/2本
長いも…50g
みょうが…2本 
青じそ…10枚
おろし生姜、醤油…各適量

■作り方
1.鶏肉を熱湯に浸し、表面が白くなったら冷水に取り、軽く洗って水けをきる。
2.鍋にA、1の鶏肉を入れて火にかける。沸騰させずに80℃の温度を15分キープしながら煮て火を止
める。そのまま煮汁ごと冷ます。
3.薬味の野菜を切る。きゅうり、ねぎ、長いも、みょうがは繊維に添って2.5cm長さに細く切り揃える。青じそは細く刻んで水に放ち、水けをきる。
4.温泉卵の殻をむき、粗めに手でくずす。2の鶏肉を一口大に切り、温泉卵、薬味をあえる。器に盛り、おろし生姜をのせ、醤油をたらす。

料理の仕方の違いにもよるものなのか、しっとりとして弾力がある。温泉卵と、薬味で和えた鶏肉を食べると、アルコール度数が高く、キリッとした表情を見せるブルーとの取り合わせがよくあう。

お腹がいっぱいになるとビールのおいしさも半減する。だから、少量でも満足できる肉料理はおすすめなのだが、特にシメイビールはアルコール度数が7~9%と高く、味わい豊かなので、肉にボリュームがありすぎても、さっぱりしすぎてもいけない、そのちょうどよい加減が、今回のボイルした肉料理ということなのだ。なお、どちらも余分な脂肪が落とされているので、冷蔵庫で冷やしておいてもおいしくいただける。

分とく山総料理長の野﨑洋光さんは1953年、福島県に生まれた。日本料理の伝統や習慣にとらわれず、自分がおいしいと思うものを、その時代にあう方法で作り続けている。テレビ、雑誌などメディアでも活躍中

このふたつの料理に共通する調理のコツをうかがった。難しい技術はなく、ただ肉をボイルする時の温度に気をつけること。タンパク質は65度以上になると固まりはじめ、80度以上になると肉から水分が抜けていき、100度は完全に水分が抜けて凝固する。つまり、肉が固くなる原因は肉質ではなく、加熱のしすぎによるもの。豚肉、鶏肉のどちらも80度をキープした煮汁の中でゆっくり火を通していけばいいのだ。これを守るだけで、家庭でもこの味が再現できる。また、グラグラと煮立てないので、煮汁に素材の雑味が出ず、うまみが適度に抽出され、おいしいスープがとれるので、こちらも余すことなく味わっていただきたい。

コクのあるシメイビールは外国のビールだが、こうやって日本の食材と調味料を合わせることで日本風に仕立てて楽しむことができる。「でもね、大きな味わいのポイントは、この口の大きなシメイのビールグラスで飲むことが大事なんですよね。小さな口のグラスでは感じられない風合いがあるから」と教えてくれた。

画像: 分とく山 東京都港区南麻布5-1-5 ☎03-5789-3838

分とく山
東京都港区南麻布5-1-5
☎03-5789-3838

取材:水野恵美子 写真:齋藤 明
※この記事の内容は『ビール王国23号』(2019年7月発売)に掲載したものです。

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