『ビール王国』に掲載したビールにぴったりなレシピを紹介していくこの企画。特定のビールやビアスタイルにバッチリとペアリングするレシピや、プロの料理人や料理研究家が腕によりをかけたメニューを、ぜひご自宅で再現してみてください。第3回目は「分とく山」総料理長の野﨑洋光さんが再び登場。「秋のシメイ」について教えてくれました。
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シメイに合う「秋のつまみ」とは?
シメイで人気のブルーとレッド。いずれもアルコール度数は7~9%と高めでコクがあり、独自の酵母がもたらす個性的な香りがある。お酒はあまり強くないという野﨑洋光さんだが、「秋の夜長、ちびちびと楽しむにはシメイは最適ですね。円熟味のあるブルーは気品があって〝夜長のビール〟としませんか」と料理をつくりながらカウンターごしに話をはじめた。
かの魯山人が絶賛した料理
今回、ブルーとともに楽しむおすすめの料理は「東坡豆腐の揚げ出し」。これは中国北宋の詩人、蘇東坡が考案したことにちなんだ料理名で、美食家・魯山人が口にして絶賛したという逸品だ。
「揚げ出し豆腐というと、衣に片栗粉や小麦粉ですが、これは細かくした麩を使います。カリカリと香ばしく、肉のようなボリューム感が出ます」まるごと植物性たんぱく質のかたまりであって、この力強い味が、コクのあるブルーと対等にわたりあえるといった印象である。
約40年前、雑誌『太陽』を見て、野﨑さんはこの料理の存在を知ったという。今回、豆腐は絹ごしを使っている。くずれやすく、調理のしにくさから「木綿でもいいですか?」と聞いてみた。「はい、どちらでもかまいせんよ」しかし、できあがりをいただくと、存在感のあるしっかりとした衣と、絹ごしのなめらかな舌触り、この対照差があることで、さらなるおいしさにつながるように感じた。
東坡豆腐の揚げ出し
■材料(2人分)
絹ごし豆腐…1丁(250g)
卵白…2個
麩…20g
ししとう…2本
ヤングコーン…2本
わけぎ(小口切り)…1本
おろし生姜…小さじ1
片栗粉、揚げ油…各適量
A だし…100㎖
みりん、薄口しょうゆ…各20㎖
■作り方
1.豆腐は4等分に切り、ざるにのせて軽く水けをきる。
2.卵白は布巾などでこす。
3.麩はおろし金ですりおろし、粉末状にする。
4.鍋にAを合わせ入れ、ひと煮立ちさせて天つゆをつくる。
5.豆腐に片栗粉、2の卵白、3の麩の順でまぶし、170℃に熱した油で揚げる。ししとう、縦半分に切ったヤングコーンを素揚げする。
6.器に盛りつけ、わけぎとおろし生姜、てんつゆを添える。
海の幸と山の幸を一緒に楽しむ
二品目はフルーティーなレッドに合わせ、「鮭のきのこあんかけ」をすすめてくれた。脂ののったジューシな秋鮭、これを弱火で加熱しながらふっくらと焼き、風味、食感が異なるきのこを組み合わせてつくったあんをかけたもの。ふくよかな鮭の脂のうまみが口の中に溶け、いろいろなきのこの味(うまみ、雑味、酸味、苦味)が感じられる。そこにほのかな酸味のあるレッドを合わせることで、いろいろな味と共鳴し、おいしさの輪がどんどん広がっていくようだ。
鮭きのこあんかけ
■材料(2人分)
生鮭の切り身…2切れ
しいたけ…2個
めじ、まいたけ、えのき…各1/3パック
長ねぎ…1/3本
塩、小麦粉、油…各適量
おろし生姜…小さじ1
片栗粉、揚げ油…各適量
A だし…200㎖
薄口しょうゆ…大さじ2
みりん…大さじ1
B 片栗粉…大さじ1.5
水…大さじ2
■作り方
1.鮭は薄く塩をふって10分おき、塩を洗い流して水けを拭く。
2.しいたけは薄切り、しめじ、まいたけは小房にほぐし、えのきは半分の長さに切る。ざるに入れて熱湯にさっと浸し、水けをきる。
3.長ねぎは小口切りにして布巾に包み、流水でもみ洗いして絞り、洗いねぎをつくる。
4.1の鮭に小麦粉をまぶし、油を薄くひいたフライパンで両面ゆっくり焼き上げる。
5.鍋に2、Aを入れて火にかけ、沸騰したらBの水溶き片栗粉を加え、とろみをつけたあんをつくる。
6.器に鮭を盛り、あんをかける。3の洗いねぎ、おろし生姜を添える。
シメイは独自の酵母を使い上面発酵、その後瓶内二次発酵を行うため味が複雑である。だから淡泊な食材を使う和食には少々重すぎるのではないかと半信半疑だったが、まったくそんなことを感じさせない。外国のビールであっても、食材との組み合わせ方次第で日本風にその味わいが仕立てられてしまうと、野﨑さんは言う。
「それともうひとつ、和食にあう理由があります。料理に添えたおろし生姜が、ビールと非常に相性がいい。爽やかな辛みと風味がじつによく合うんです」
日々厨房に立ち、味を探求し続けてきたからこそ、さらりと出る言葉だった。
それぞれの料理を堪能し、おいしいものがたくさんある秋のよさを喜んでいると、
「それがいいとか悪いとかではなく、巡ってきたその季節を楽しむことが一番大事です。昔の人はなんの変哲もない日常を自然と共に楽しんできました。豊かな感性ですね。そして季節を食べることは、遊ぶことを知ることにつながります」
冒頭の話に戻るが、秋は月を愛でながら夜長を楽しむのもいい。冷えたビールのうまさもあるが、シメイは冷やしすぎるより、室温に近い温度のほうがより味が感じやすく、香りもたちやすい。この秋、月夜の下でビールと料理を楽しんでみたくなった。
野﨑洋光さんが考える「食中酒としてのビール」
ビールのよさは自由に楽しめることかな、それと量をたくさん飲めることのよさ。日本酒はぐいぐいとは飲めない、ワインはやや意識して飲まなきゃいけない、みたいな位置づけが僕の中にはあります。
僕は「食いべい」だから、料理を食べながらビールを飲むことが多いです。よく食べずに、お酒だけを楽しむ人もいますね。でも、料理と一緒に合わせることで、いろいろな味へと変わっていくおもしろさがあると思うんです。
ビールは揚げもののような油っこいものと合わせるといいというのは、炭酸系の爽快さがあって、口の中をさっぱりと洗い流してくれるからでしょうね。だから油を使った料理が多い中華も、ビールがあいますよね。ソースを使う西洋的な料理には、むしろワインのほうがいいだろうし。
では煮もの、焼きもの、和えものなど、いろいろな手法がある日本料理はビールに合うのか、とたずねられれば「はい」とお答えするでしょう。というのも和食は、口内調味という日本人独特の食べ方をしています。白いご飯を口に含んで咀嚼しながら、おかずや漬けものを一緒に食べて味わう。日本人はそれを無意識に、自分で味を合わせる技術があると思っています。その口内調味で食べ物を味わうときに、ビールはとても適したお酒ではないでしょうか。
味や香りの個性はビールによってさまざまですが、シュチエーションによってもその味わい方が変わってくるという懐が広いお酒でもあって、それを楽しめるのが、ビールのよさでもありますよね。
取材・文:水野恵美子 写真:斉藤明
※この記事の内容は『ビール王国24号』(2019年10月発売)に掲載したものです。