カジュアルなデイリーアイテムから、世界的なプレミアムワインまで、ますます進歩を遂げるチリ。この世界的な産地に自らのワイナリー「ヴィニャ・マーティ」を立ち上げ、ワイン造りに情熱を捧げる、オーナーで醸造家のパスカル・マーティ氏が来日した。ワイン造りへの思い、新たなチャレンジについて聞いた。

造り手の心はワインに映し出される

「シャトー・ムートン・ロートシルト」や「オーパス・ワン」をはじめ、世界中にその名を馳せる偉大なワインを手掛けてきたパスカル・マーティ氏。2008年、それまでの経験と知見を生かし、大いなる情熱をかけたワインを造ろうと、満を持してチリにワイナリーを立ち上げた。自らの名を冠した「ヴィニャ・マーティ」では、ブドウの栽培からワインの醸造まで一貫してマーティ氏が直接手を尽くしている。

「自然環境や気候条件は変わるため、必ずしも私たちが思うような素材がそろうとは限りません。シェフが手に入った食材を駆使し最高の料理を作るように、その年に収穫できたブドウからいかに素晴らしいワインを生み出すか——。それを絶えず考えながら、そして何より楽しみながらワイン造りに向き合っています」とマーティ氏。

画像: 「日本からチリはとても遠い。でも、現地でしか見られない風景、感じられないこと、味わえないワインがある。ぜひ、チリのワイナリーに足を運んでください」とマーティ氏

「日本からチリはとても遠い。でも、現地でしか見られない風景、感じられないこと、味わえないワインがある。ぜひ、チリのワイナリーに足を運んでください」とマーティ氏

ワイン造りのフィロソフィーは?と言葉を向けると、「答えになっているかわからないけれど」と柔和な笑顔で前置きし、こう続ける。

「ワインには『ありのまま』が現れる。それは、気候や畑といった外的な要因はもちろん、ワイン造りに携わる私たちの内面、つまり心や感覚といったことも、そのままワインに表現されると思っています。私はそんな仕事をし、生きていることに心底幸せを感じている。幸せな僕が造るワインは、飲む人が幸せと感じられるような個性を発揮できるはずだから」

造りのこだわりは“アサンブラージュ”

フランス・ボルドー地方で醸造家としてのキャリアをスタートさせたマーティ氏がこだわるのが、アサンブラージュ(複数の畑やキュヴェをブレンドする作業)だ。モノ・セパージュ(単一品種)のワインでも、小さなタンクで仕込んだ数種類のワインをアサンブラージュし仕上げていくという。

画像: 造りのこだわりは“アサンブラージュ”

「ワイン造りには、ブドウを適切に栽培しワインを仕込むことと、ワインの個性を表現することという二つのパートがあります。例えるなら、前者はさまざまな色の絵の具を調達することで、後者はそれをどう選んで表現し絵画として描き出すかということ。このクリエイティブのパートは非常に大切なプロセス。『赤』と言っても微妙な色味の違いがあるように、同じ畑のカベルネ・ソーヴィニヨンで仕込んでも、タンクごとにわずかな違いが出る。だからモノ・セパージュであっても、アサンブラージュすることが大切なのです」

感覚や感じ方は人によって異なる。そのため、醸造チームはマーティ氏に加え2人、それも感性の違う男性と女性を加え、それぞれの意見を闘わせながらアサンブラージュに取り組んでいるという。

画像: 「ヴィニャ・マーティ」では、畑や区画、テロワールが異なるブドウは別のタンクに入れベースとなるワインを仕込み、フレンチオーク樽で熟成。それらをアサンブラージュする

「ヴィニャ・マーティ」では、畑や区画、テロワールが異なるブドウは別のタンクに入れベースとなるワインを仕込み、フレンチオーク樽で熟成。それらをアサンブラージュする

画像: 「アルマヴィーヴァ」を手掛けたことから、チリのテロワールに深く精通するマーティ氏。例えばDOピルケの中でも砂利質の場所にはカベルネ・ソーヴィニヨンを、粘土質の場所にはメルロを植えるなど、テロワールにあったブドウを栽培している

「アルマヴィーヴァ」を手掛けたことから、チリのテロワールに深く精通するマーティ氏。例えばDOピルケの中でも砂利質の場所にはカベルネ・ソーヴィニヨンを、粘土質の場所にはメルロを植えるなど、テロワールにあったブドウを栽培している

ラブストーリーから生まれたトップキュヴェ

芸術的で情熱的。トップキュヴェ『クロ・デ・ファ』は、「僕のラブストーリーから生まれたんだ」とマーティ氏。当時の妻であり、「ファ」の愛称で呼んでいたファビアンヌさんという女性をイメージし、造ったワインだ。

「カベルネ・ソーヴィニヨンで力強い骨格を、メルロでふくよかなボディと輪郭を、そしてシラーでスパイシーさや強い個性を。とてもタフで奔放、刺激的なファビアンヌをイメージしワインに表現しました。エチケットに描かれた女性は彼女の横顔。今は別々の道を歩んでいるけれど、今も彼女のことを思い浮かべながら造っています」

わずか2haの畑から生み出される希少なプレミアムワイン『クロ・デ・ファ』。マーティ氏自身が、昔ながらの小型の醸造施設を使いながら全行程を手掛ける

日本酒酵母を使って生み出された唯一無二のワイン

そんなマーティ氏の新しい挑戦が、日本酒酵母を使ったワイン造りだ。

「超低温発酵でワインを造ることはできないだろうか?」。長い間、その思いを抱き続けてきたマーティ氏。ボルドー大学で醸造を学んでいたころ、「白ワインはできる限り低温で発酵させること」と教授たちは唱えていたという。アロマは温度上昇とともに揮発しやすくなるためだ。
マーティ氏は自身のワイナリーを設立した後、定期的に訪れることになった日本で突破口を開くことになる。
「大吟醸や吟醸酒はワインよりも低い温度で発酵させると知りました。日本酒の酵母を使えば、超低温でワインを醸せるのではないか? と考えたのです」(*1)

*1 白ワインが発酵できる最低温度は12~13℃と言われる。一方、日本酒は6~16℃程度とワインに比べ低温で発酵される

日本酒ブームの火付け役としても知られる銘酒「獺祭」。その蔵元「旭酒造」のバックアップもあり、2018年、清酒用きょうかい7号酵母でソーヴィニヨン・ブランの醸造に踏み切った。
「ブドウ果汁は通常14日程度でワインになるのに対し、日本酒酵母を使うと白ワインではおよそ140日となんと10倍もの時間が発酵にかかった(*2)。当初は酵母と発酵温度だけが異なり、あとの工程は同じだと考えていたので、失敗したのでは、と不安も感じました」とマーティ氏は振り返る。しかしその不安はうれしい驚きとともに払拭された。

*2 赤ワインの発酵に日本酒酵母を使った場合は、発酵期間はおよそ40日と通常の3倍程度。低温下で白ワインに比べ赤ワインの発酵が早く進む原因は不明。マーティ氏によると、一般的に白ワインよりも赤ワインの方が発酵が早く進むが、低温だとその差がさらに顕著になるのではないかと推測しているという

清酒用酵母を安定して確保するため、その販売元である「日本醸造協会」へ入会したマーティ氏

『獺祭』の生みの親である「旭酒造」会長の桜井博志氏(出会った当時は社長)とともに

「ブドウの個性をより際立たせることを目指していましたが、それに加え花束のようなフラワリーな香りを持つ、日本酒でもない、普通のワインとも異なる唯一無二のものとなったのです」
こうして革新的なワイン『ぎんの雫 グット・ダルジャン』が誕生した。2019年にはシャルドネ、そしてこの春、赤ワインとしては初となるピノ・ノワールをリリースする。清酒用きょうかい7号酵母と同9号酵母を使用。果実味が豊かでアロマティック、口当たりは繊細で旨味が感じられる。
「世界でも前例がない試みということもあり、まだまだ試行錯誤の途中。さらなる高い場所を目指していきます」と意欲を語るマーティ氏。チリワインの可能性はもちろん、ワインの新たな世界を切り開いていく。

画像: 1906年に設立された長い歴史のある日本醸造協会で、これまで国外在住の外国人の入会の前例はほぼなかったが、マーティ氏の熱意が伝わり正会員に

1906年に設立された長い歴史のある日本醸造協会で、これまで国外在住の外国人の入会の前例はほぼなかったが、マーティ氏の熱意が伝わり正会員に

ぎんの雫 グット・ダルジャン ピノ・ノワール 2022年
Goutte d'Argent Pinot Noir

産地:チリ/レイダ・ヴァレー
品種:ピノ・ノワール100%
希望小売価格:4235円(税込)

レイダ・ヴァレーの冷涼さ、昼夜の寒暖差、深くは粘土質、表層を花崗岩で覆う土壌が、芳醇なアロマ、きれいな酸、ミネラル感のある上質なピノ・ノワールをはぐくむ。豊かな果実味がありアロマティック、繊細でありながら旨味が感じられる味わいは、牛肉のたたきなど、あまり火入れしていない上質な肉料理との相性が抜群。

★限定抽選販売★
数量限定品のため、現在、一般向けには抽選販売の形式を取っている。抽選販売についての情報は下記のサイトを参照。
https://wsommelier.com/item/2101340002049.html

ヴィニャ・マーティ
VIÑA MARTY

画像2: パスカル・マーティ氏が語る「ワインへの情熱、そして挑戦」

五大シャトーの一つ「シャトー・ムートン・ロートシルト」やカリフォルニアの「オーパス・ワン」(*)、チリの「アルマヴィーヴァ」といったスターワインを手掛けてきた醸造家、パスカル・マーティ氏が2008年、チリワイン発祥の地、マイポ・ヴァレーに設立したワイナリー。栽培から醸造まで一貫してマーティ氏が手掛ける。「飲む人の気分や目的に合わせてワイン選びを楽しんでほしい」との思いから、デイリーレンジからプレミアムワインまで、現在8シリーズのワインを造っている。
*オーパス・ワンの醸造にはテクニカル・ディレクターとして参画

問い合わせ先:㈱トゥエンティーワンコミュニティ
TEL.03-3401-1234(ワイン事業部) https://www.21cc.co.jp/

text by Asako NAKATSUMI
photographs by Kentaro TAKIOKA

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