昨年、中国料理「家寶 跳龍門 銀座店」でプレミアムチリワインの試飲会が開催され、「英和商事」が今年2月から取り扱いを開始するアイテムより3生産者5種類のワインが紹介された。チリワインのプロフェッショナルとしてゲストに迎えられたワインライターの番匠國男氏とソムリエの紫貴あきさんの解説とともに、近年日本でも注目の高まる中~高価格帯のチリワインの魅力を探った。

画像: 左から、駐日チリ大使館商務・農務参事官のヌリ・ディセニさん、「英和商事」代表の金沢在善さん、ソムリエの紫貴あきさん、ワインライターの番匠國男氏(©Tadayuki YANAGI)

左から、駐日チリ大使館商務・農務参事官のヌリ・ディセニさん、「英和商事」代表の金沢在善さん、ソムリエの紫貴あきさん、ワインライターの番匠國男氏(©Tadayuki YANAGI)

冷涼地に恵まれたチリ

チリでは、雨は冬の数カ月だけ集中的に降り、晩春から夏の終わりまでは乾燥している。典型的な地中海気候で、冷涼かつ昼夜の寒暖差が18℃前後とブドウ栽培に非常に適した産地だ。アンデス山脈をはじめとする標高の高い山々が連なり、中には標高2000メートル前後の畑もある。南氷洋から流れてくるフンボルト寒流が大気を冷却し、海岸近くの畑の涼しさに寄与している。

ソムリエの紫貴あきさんは、チリで使用される品種は次の三つのタイプに分けられるという。

一つ目は、スペイン人が持ち込んだ品種「パイス」だ。チリにはもともと醸造用ブドウはなかったが、16世紀半ばにスペイン人のカトリック伝道者が聖餐用ワインを造るためパイスを植樹した。
二つ目は、19世紀に鉱山事業で成功した富豪たちがもたらした、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなどのボルドー品種だ。
三つ目はピノ・ノワールやソーヴィニヨン・ブランなど、冷涼地での栽培に適した品種。19世紀半ばにボルドー品種が持ち込まれた当時は、ブルゴーニュはまだ田舎のワインで、ピノ・ノワールはチリに進出していなかった。

チリワインはプレミアムな時代へ

チリワインというと、日本ではいわゆる「安旨ワイン」の印象が強いだろう。
「2007~08年のリーマンショック以降、日本ではリーズナブルなワインが市場を占めるようになりました。スーパーマーケットやコンビニエンスストアで安旨なチリワインを売り出したところ、同価格帯のボルドー・ワインよりもクオリティーが高いということもあり、一気に広まったのです」と、ワインライターの番匠國男氏は説明する。

1980年代後半~2000年にかけては、単一品種で造る安価なワインを中心に生産していたチリだが、現在は「センス・オブ・プレイス」をキーワードに、各地のテロワールを重視した造りへ転換し、中~高価格帯のプレミアムなワインを打ち出している。世界ではすでに認知されているが、日本ではいまだに以前のイメージが根付いたままで、日本市場のためだけにリーズナブルなチリワインを造っている生産者もいるという。

「とはいえ、日本でもようやくプレミアムチリワインのイメージも浸透してきました」と番匠氏。

今回は、4400~1万6500円のチリワイン5アイテムをテイスティング。現在、駐日チリ大使館が掲げるキーコンセプト「ヴィニョス・デ・ニッチョ」(「ニッチなワイン」の意)の通り、従来のイメージにとどまらないチリワインの多様性が見えた。

ビニャ・イ

女性醸造家イレネ・パイバさんが率いる家族経営のワイナリー「ビニャ・イ」からは2アイテムが登場。パイバさんは、チリの名門「ヴィーニャ・エラスリス」に入社し、アメリカ・カリフォルニアの「ロバート・モンダヴィ」とのジョイントベンチャーである「セーニャ」のチームメンバーとして参画した経歴を持つ。大手のヴァラエタルワイン(品種名を冠したワイン)造りから退いた彼女が、2007年にスタートさせた自身のワイナリーだ。

オーナー醸造家のイレネ・パイバさん。「カリテラ」の責任者も務めていた

「ビニャ・イはクリコ・ヴァレーに位置するワイナリー。朝は霧に覆われ、霧が晴れると強い日差しを浴びる環境で、昼夜の寒暖差が大きいのが特徴です」と番匠氏。

『キュー ソーヴィニヨン・ブラン 2023年』は、樹齢20年以上の古木のブドウから造られ、グレープフルーツやハーブの香りに、豊かな酸が楽しめる。
『ジョワ ロゼ 2022年』はサクランボの香りに、レモンやミントのニュアンス。豊かな果実味とフレッシュな酸を感じる。

キュー ソーヴィニヨン・ブラン 2023年

品種:ソーヴィニヨン・ブラン100% 希望小売価格:4950円(税込)

ジョワ ロゼ 2022年

品種:プティ・ヴェルド100% 希望小売価格:4400円(税込)

ビニャ・モランデ

続いてのワイナリーは、チリの著名なワインメーカー、パブロ・モランデ氏が1996年、カサブランカ・ヴァレーに創業した「ビニャ・モランデ」だ。今回試飲したワインを含む、造り手の個性を色濃く反映した「アドベンチャー」シリーズの誕生とともに同ワイナリーから去り、現在は「ビニャ・レ」というワイナリーを手掛けている。

画像: 海に近いカサブランカ・ヴァレー。フンボルト寒流の影響を受け、赤道近くにもかかわらず冷涼なエリア。シャルドネやピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブランなどの品種が栽培されている

海に近いカサブランカ・ヴァレー。フンボルト寒流の影響を受け、赤道近くにもかかわらず冷涼なエリア。シャルドネやピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブランなどの品種が栽培されている

『アテルシオペラド 2021年』は、パイスにマルベックをブレンドしたワイン。非常に強い酸を持つパイスをワインにする際、マセラシオン・カルボニック(*)を行ってフルーティーに仕上げたり、ほかの品種とブレンドすることで味わいのバランスを整えたりすることが多いという。このワインには、香りはザクロやスミレの花、ダージリンティーや土っぽさを感じる。スペイン語で「ビロード」を意味する「アテルシオペロ」に由来するワイン名の通り、シームレスなタンニンが上品な印象を与える。
『デスペチャド 2021年』は、梅のキャンデーやバラ、レザーの香り。繊細でどこか素朴な味わいが魅力だ。

*炭酸ガス浸漬法。二酸化炭素で満たされた容器で浸漬を行う醸造法。リンゴ酸が減少し、コハク酸やグリセリンが増加して味がまろやかになる。香りの成分や色素が果皮から効率よく抽出できる。タンニンが少なめで、フレッシュで軽やかなワインができる

アテルシオペラド 2021年

品種:パイス80%、マルベック20% 希望小売価格:6600円(税込)

デスペチャド 2021年

品種:ピノ・ノワール100% 希望小売価格:6600円(税込)

〈COLUMN〉
カサブランカ・ヴァレーの可能性を見いだした開拓者、パブロ・モランデ氏

1980~90年代に世界的なヴァラエタルワインブームが起きた時、その主力品種はカベルネ・ソーヴィニヨンとシャルドネだった。当時のチリではシャルドネは植えられておらず、生産者たちはセミヨンやソーヴィニヨン・ブランの樹を切ってシャルドネを接ぎ木することで、何とかその需要に応えようとした。しかし、温暖な地ではシャルドネが思うように育たず、より冷涼な地を求めたモランデ氏が、82年にカサブランカ・ヴァレーにシャルドネを植樹。以来、この地はチリ有数の冷涼産地として世界に名をはせるようになった。

ビニャ・カサ・マリン

最後は、チリ初の女性オーナー醸造家であるマリア・ルス・マリンさんが2000年に立ち上げた「ビニャ・カサ・マリン」。先のパブロ・モランデ氏を筆頭にカサブランカ・ヴァレーにシャルドネが植えられはじめた時、マリンさんはさらに冷涼な地を求めて、カサブランカ・ヴァレーより海に近いサン・アントニオ・ヴァレーにある寒村ロ・アバルカに辿り着いたという。現在は世代交代の最中で、ニュージーランドやカリフォルニア・ソノマで醸造を学んだ息子のフェリペ氏が次世代を担う予定だ。

オーナー醸造家のマリア・ルス・マリンさんは、シャルドネのほか、リースリングやゲヴュルツトラミネールといった冷涼品種を植えたチリワイン界の重要人物

『ピノ・ノワール ロ・アバルカ・ヒルズ 2013年』は、柔らかなイチゴやボイセンベリーの香りに、土やヨードのニュアンス。ジューシーなアタックと緻密な酸のある、10年経っても若々しさを感じさせるワインだ。

ピノ・ノワール ロ・アバルカ・ヒルズ 2013年

品種:ピノ・ノワール100% 希望小売価格:1万6500円(税込)

ところで、番匠氏は「チリにおけるワインの歴史には、約20年間の空白がある」と話す。
「チリは、軍事政権下にあった1973~90年は世界的に孤立していました。軍政が始まった時期にワイン造りを始めた開拓世代は、海外の技術をなかなか得られなかったのです」

一方、現在では海外で経験を積んだ次世代への引き継ぎが進むほか、チリ国内の大学の農学部では栽培から醸造まで一貫して学べるシステムも整っている。恵まれた栽培環境に加え、醸造技術の飛躍も期待される。

“安旨”のイメージから一歩飛び出し、プレミアムなチリワインの世界へ足を踏み入れてはどうだろうか。

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