「セーニャ」のマネジングディレクター、フアン・カルロス・パゴラ氏が来日し、8ヴィンテージを試飲しながらワイナリーの取り組みについて解説するセミナーを行った。ワインのコメントは2018年「A.S.I.アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール」で優勝した岩田渉氏が担った。
画像: フアン・カルロス・パゴラ氏と岩田渉氏

フアン・カルロス・パゴラ氏と岩田渉氏

世界が認める高品質な赤ワイン

1991年、若きエデュアルド・チャドウィック氏(チリの名門エラスリス家の5代目)は、カリフォルニア・ワインのレジェンド、故ロバート・モンダヴィ氏の依頼でチリのワイン産地を案内した。これが契機となって、ジョイントベンチャーとして「セーニャ」がスタートし、1998年にファーストヴィンテージの『セーニャ 1995年』がリリースされた。チリ初のアイコンワイン誕生にまつわる話だが、時を経た今では、世界のトップワインと肩を並べる存在になっている。

11月に開催されたマスタークラスでは、初リリースから3回目のヴィンテージである『セーニャ 1998年』を筆頭に、2002年、09年、11年、16年、17年、20年、そして最新の21年までの8ヴィンテージを利き比べた。

画像: マスタークラスセミナーで供出された全アイテム

マスタークラスセミナーで供出された全アイテム

1998年は、エルニーニョ現象(*1)のために気候は涼しく、チリのすべての産地がその影響を受けた。当初、カベルネ・ソーヴィニヨンとカルメネールをブレンドしていたが、醸造チームに加わっていた「ロバート・モンダヴィ」のティム・モンダヴィ氏の助言でメルロをブレンドし、良い結果を出した。2002年は夏が過去の平均気温より低めで、収穫は平年より1週間ほど遅くなった。この年から新樽率は100パーセントになった。

*1 南米の沖でクリスマスのころ、海面付近の水温が高くなる現象で、冷夏・暖冬になる

アメリカのコンサルタントでビオディナミ(*2)の権威である故アラン・ヨーク氏の指導で05年からビオディナミを導入し、09年に認証を取得。08年から09年の間に、フランスの著名な地質学者フランソワーズ・ヴァニエさんに土壌調査を依頼した。ブドウ畑の上部は火山岩(安山岩・火山性礫岩)、中腹は崩積土壌、底部は沖積土壌との結果を受け、土壌に見合う植樹を実施。05年からワインメーカーのフランシスコ・ベッティグ氏が参画している。

*2 オーストリアの人智学者、ルドルフ・シュタイナー(1861~1925年)が提唱した有機栽培農法。太陰暦に従い、宇宙のリズム、天体の運行に合わせて農作業を行う

画像: 完璧な室温、湿度、照明のバイオダイナミック・セラーに並べられた調剤

完璧な室温、湿度、照明のバイオダイナミック・セラーに並べられた調剤

11年にはブドウ畑に変化があった。冬の間に灌漑を行い地中に保水させておくことで、開花期のブドウにストレスがかからず収量も確保できることがわかり、フレッシュなスタイルのワインを造れるようになった。この取り組み以降、アルコール度数は13パーセントあるいは13.5パーセント程度となり、新樽率は75%に下げた。15年からフードルも導入した。

20年には、オークの香りが強く出ないようにするため、新規のトヌリエ(樽職人)を採用。新たなアイテムとして、セーニャのセカンドワイン『ロカス・ド・セーニャ』を初リリース。若樹のブドウを使い、カベルネ・ソーヴィニヨン主体で1998年に植えた地中海性品種(シラー、グルナッシュ、ムールヴェードル)をブレンドしたスタイルである。2021年は、ブドウの生育期の積算温度が過去の平均より4パーセントほど低かったがブドウは健全に熟した。ここ10年におけるベストな年の一つとなり、高評価を得ている。

画像: 「セーニャ」のワイナリーはもともとあった岩を生かした設計。『ロカス・ド・セーニャ』はこの地の景観に対する敬意を表したネーミング

「セーニャ」のワイナリーはもともとあった岩を生かした設計。『ロカス・ド・セーニャ』はこの地の景観に対する敬意を表したネーミング

画像: 1995年から2021年まで27ヴィンテージあり、2015年、18年に続いて最新ヴィンテージ21年が100点を獲得

1995年から2021年まで27ヴィンテージあり、2015年、18年に続いて最新ヴィンテージ21年が100点を獲得

8ヴィンテージを試飲

画像: セミナーでサービスされた全グラス。左から『ロカス・ド・セーニャ 2021年』『セーニャ 1998年』『同 02年』『同 09年』『同 11年』『同 16年』『同 17年』『同 20年』『同 21年』

セミナーでサービスされた全グラス。左から『ロカス・ド・セーニャ 2021年』『セーニャ 1998年』『同 02年』『同 09年』『同 11年』『同 16年』『同 17年』『同 20年』『同 21年』

ロカス・ド・セーニャ 2021年

品種:マルベック35%、シラー21%、カベルネ・ソーヴィニヨン20%、グルナッシュ10%、プティ・ヴェルド9%、ムールヴェードル5%
熟成:22カ月。フレンチオーク樽95%(新樽40%)、コンクリートエッグタンク5%

ストロベリーやプラムのような赤系・黒系のフルーツ。ベーキングスパイスや黒コショウ、甘草や八角、フローラルなラベンダーなどのニュアンス、口中をリフレッシュしてくれる酸。味わいはジューシーで、タンニンはきめ細かく、スパイスやハーブのアクセントが飲み手の食欲をそそる。

セーニャ 1998年

品種:カベルネ・ソーヴィニヨン90%、カルメネール5%、メルロ5%
熟成:18カ月。フレンチオーク樽(新樽92%)

オレンジのトーンを帯びたマホガニーレッドの外観、ブラックチェリーやクレーム・ド・カシス、第3アロマに由来する葉巻、タバコ、マッシュルーム、腐葉土などが層になって広がり、深みをもたらす。調和の取れた味わいで、1980年代、90年代のボルドーを彷彿とさせるクラシックなスタイル。

セーニャ 2002年

品種:カベルネ・ソーヴィニヨン70%、メルロ20%、カベルネ・フラン10%
熟成:18カ月。フレンチオーク樽(新樽100%)

1998年同様に冷涼な年。ブラックチェリーやブラックベリー、クミンやコリアンダー、エスプレッソやモカ、森の下草やミントの要素に加え、セイボリー(旨味)。味わいは凝縮していて肉付きも良く緻密、カベルネ・ソーヴィニヨンらしい存在感のある酸味。熟成のポテンシャルを感じるヴィンテージ。

セーニャ 2009年

品種:カベルネ・ソーヴィニヨン54%、カルメネール21%、メルロ16%、プティ・ヴェルド6%、カベルネ・フラン3%
熟成:22カ月。フレンチオーク樽(新樽100%)

温暖年。ブラックチェリー、チョコレートやヴァニラ、タバコのアロマ。タンニンの抽出が素晴らしく、ベルベットのようなテクスチャー。アルコール度数は14.5パーセントでも、アコンカグア地方の冷涼な気候を反映した自然な酸とバランスの良さがあり、余韻はさわやか。

セーニャ 2011年

品種:カベルネ・ソーヴィニヨン58%、カルメネール15%、メルロ15%、プティ・ヴェルド7%、カベルネ・フラン5%
熟成:22カ月。フレンチオーク樽(新樽75%)

冷涼年らしいタイトで引き締まった味わい。密度が詰まったスタイルで、高い酸がワインに力強さやエネルギーを与えている。ビオディナミに転換して6年経つヴィンテージで、味わいにも変化が出ている印象。ピュアで、自然との調和がより明確になっているワイン。

セーニャ 2016年

品種:カベルネ・ソーヴィニヨン55%、マルベック20%、プティ・ヴェルド12%、カルメネール8%、カベルネ・フラン5%
熟成:22カ月。フレンチオーク樽88%(新樽73%)、フードル12%

冷涼なヴィンテージ。ラズベリーやブルーベリー、ダークチェリーといった果実、マルベック由来の華やかなアロマと高い酸。高級中国茶のような香りもありエレガント。しっかりとした骨格があり、ややタイトなタンニン、集中度の高さを感じる味わい。

セーニャ 2017年

品種:カベルネ・ソーヴィニヨン52%、マルベック15%、カルメネール15%、カベルネ・フラン10%、プティ・ヴェルド8%
熟成:22カ月。フレンチオーク樽88%(新樽70%)、フードル12%

暑い年だったにもかかわらず、それを感じさせない冷涼エリアの強みを証明したワイン。アロマはカシスのリキュールや黒コショウ、エスプレッソやダークチョコレート、パプリカのスパイス。口中では非常に滑らかで一体感のある味わい。力強さと軽やかさを備えた絶妙なバランス。

セーニャ 2020年

品種:カベルネ・ソーヴィニヨン53%、マルベック25%、カルメネール15%、プティ・ヴェルド7%
熟成:22カ月。フレンチオーク樽90%(新樽90%)、フードル10%

温暖な年。若いヴィンテージには磨き抜かれたフル-ツの要素があり、完熟した果実のアロマ、スイートスパイスや甘草、ほんのりとカカオニブ。鋭さや厳しさとは無縁の甘美なフレーバーで、軽やかなタッチと質感が余韻に繫がるワイン。

セーニャ 2021年

品種:カベルネ・ソーヴィニヨン50%、マルベック27%、カルメネール17%、プティ・ヴェルド6%
熟成:22カ月。フレンチオーク樽90%(新樽70%)、フードル10%

セーニャの個性がすべて詰まった、複雑味のある、洗練かつ完成されたワイン。味わいは緻密で、1級シャトーのように精巧。南米のカルメネールとマルベックを約40パーセント使った唯一無二のスタイル。ブレンド比率の巧妙が、アコンカグア地方のシンボルとアイデンティテイを表現している。

text & photographs by Fumiko AOKI

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