「フィリップ・ル・アルディ」は、その名の通り、1395年にブルゴーニュの畑からガメイを引き抜き、より高貴なピノ・ノワールを植えるよう奨励する勅令を発したことで知られる、ブルゴーニュ公国の初代公王フィリップ・ル・アルディが所有していたシャトーだ。以前は「シャトー・ド・サントネイ」の名でワインを造っていたが、その歴史を再認識し、2021年よりフィリップ・ル・アルディの名で新たな歴史をスタートさせた。
買いブドウでの醸造も行う一方で、生産するワインの90パーセント近くを栽培から瓶詰めまで自社で一貫して造ったものが占める。一般的なドメーヌが所有する自社畑は平均6.5ヘクタールだが、フィリップ・ル・アルディは98ヘクタールもの自社畑を所有する。
コート・ドールとコート・シャロネーズにまたがるエリアで、全17AOC(*1)、65種類のワインを手掛けている。この多様性こそがフィリップ・ル・アルディの大きな特徴の一つだ。
*1 Appellation d'Origine Contrôlée(アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ)の略。原産地統制名称。原産地、ブドウ品種、醸造法などについて、INAO(国立原産地呼称研究所)により厳しく管理・統制された、フランスの最高格付けのワイン
2019年にジャン・フィリップ・アルシャンボー氏が醸造責任者に着任して以来、さまざまな改革を行ってきた。そのうちの一つが有機栽培への完全転換だ。08年より、一部の畑では試験的に有機栽培を取り入れていたが、21年から完全転換に向けて取り組みを開始した。24年ヴィンテージからはすべてのワインが有機認証を取得する予定だ。
今回試飲した22年ヴィンテージは、その取り組みの成果が表れているヴィンテージで、「エネルギーとともにピュアさも感じられるワイン」とアルシャンボー氏は語った。
目指すのは、赤ワイン、白ワインともにフレッシュでピュア、ミネラル感のあるスタイルだ。エレガントでより洗練された白ワインを造るため、収穫は果実が熟した上で早めに行う。畑のポテンシャルも大切だが、収穫のタイミングが何よりも重要だという。
赤に関しては、ピジャージュ(*2)はせず、ルモンタージュ(*3)を採用。破砕はしない。発酵、醸しの後も手作業で行い、“果実を一切つぶさない”醸造が、ソフトなタンニンを生み出す秘訣だ。
*2 発酵中に、発酵槽上部にたまった果帽を棒などで突き崩し、液体中に沈める作業。パンチングダウン。果帽をより多く液体と触れさせ、成分を抽出させる
*3 発酵中に、発酵槽の下からポンプで液体を吸い上げ、上からかける醸造法。果帽と液体を混ぜることで発酵を促す
白ワインは『ブルゴーニュ コート・ドール “クロ・ド・ラ・シェーズ デュー” 2022年』『サン・トーバン “アン・ヴェスヴォー” 2022年』『サントネー プルミエ・クリュ “ラ・コム” 2022年』を試飲した。
サン・トーバンは白ワインのフラッグシップで、粘土質の強い土壌からリッチなワインが生まれる。アプリコットなどの熟れた果実の風味に、ややヴァニラの印象を感じる。
赤ワインは『メルキュレ プルミエ・クリュ “レ・ピュイエ” 2022年』『ポマール “プティ・クロ” モノポール 2022年』『シャルム・シャンベルタン グラン・クリュ 2022年』を試飲した。
ポマールのプティ・クロは、フィリップ・ル・アルディが単独所有する3ヘクタールの畑だ。水はけが良いため干ばつ時は注意が必要だが、アルシャンボー氏も「グッドヴィンヤード」と評する優れた畑だという。バラや土っぽい香りが漂い、飲み口はややしっとりとした印象。余韻に果実由来の甘味がほんのりと感じられる。
アルシャンボー氏の改革の成果が表れた2022年ヴィンテージの発売が待ち焦がれる。
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