シチリアワインのトップランナーとして世界で支持される「プラネタ」。CEO 兼醸造責任者のアレッシオ・プラネタ氏はシチリアの活火山、エトナ山と共通点を持つ富士山にかねてより関心を持っていたという。このほど、富士山の麓でワイン造りを行う「富士山ワイナリー」を訪問し、そのテロワールに触れた。

雄大な富士山の麓に広がる「富士山ワイナリー」の畑 写真提供:富士山ワイナリー

ワイナリーに併設する「Café Shizen」。建築家の遠藤秀平氏が手がけた店舗の外観が目を引く 写真提供:富士山ワイナリー
1985年の創業以来、シチリアワインをけん引してきた「プラネタ」。メンフィ、ヴィットリア、ノート、エトナ、カーポ・ミラッツォの5カ所にワイナリーを所有し、シチリア島の多彩なテロワールを表現している。なかでも島の東部に位置するエトナはヨーロッパで最も活発な火山があり、土壌は火山性、畑は山岳地に広がっている。
「日本の富士山は活火山であることや古くから信仰の対象であったこと、火山性土壌、標高といった点がエトナ山と共通しており、以前から両者の土地の成り立ちや歴史などについて研究を重ねてきました」
そう語るCEO兼醸造責任者のアレッシオ・プラネタ氏が今回訪れたのが、静岡・富士宮の「富士山ワイナリー」だ。富士宮や山梨の牧丘などに畑を所有し、甲州を中心にシャルドネ、マスカット・ベーリーA、メルロを栽培している。あいにくの天候で富士山の姿を見ることはかなわなかったが、オーナーのアーネスト・シンガー氏の案内で畑や醸造設備を見学した。

「富士山ワイナリー」のアーネスト・シンガー氏(左)の案内で人穴地区にある甲州の畑を訪れたアレッシオ・プラネタ氏(右)
「富士山の西南麓にある富士宮は南から風が吹き、風通しが良いですが日照量は少ない。また、ワイナリーのある朝霧高原は夏になると霧が多くなるのが特徴です」(シンガー氏)
「黒ボク質の土壌がエトナと似ていますが、こちらは天候の変化が大きいですね。そういった違いがワインの味わいに表れそうです」(プラネタ氏)
見学後は、ワイナリー併設の「Café Shizen」(カフェ シゼン)で食事とともに両社のワインをテイスティングした。

写真:今回テイスティングした、プラネタ社がエトナで手掛けるワイン
左から、エルツィオネ1614ピノ・ネロ 2020、エルツィオネ1614 リースリング 2020、エトナ・ロッソ 2022、エトナ・ビアンコ“コントラーダ・タッチョーネ”2023、ブリュット・メトド・クラッシコNV
なかでもプラネタ氏が「味わいが似ている」と評したのが、エトナの固有品種、カリカンテで造られた『プラネタ・ブリュット・メトド・クラッシコ NV』(プラネタ)と、『シゼン スパークリング 甲州 2019年』(富士山ワイナリー)。いずれもミネラル感や果実味に火山性土壌の特徴が表れていた。
「日本ではテロワール=土壌・風土と解釈されがちですが、本来は造り手の顔や土地の個性を指すものだと考えています」(シンガー氏)
「同感です。私はテロワールを“Memory of place(土地の記憶)”と捉えていて、土壌や気候だけではなく、その土地に根付いてきた品種、栽培や収穫の方法、文化などもテロワールを構成し、ワインの味わいに反映されると考えています」(プラネタ氏)
同じ火山性土壌ではあるが、固有品種や気候といったそれぞれの土地柄を反映した個性の違いが、テイスティングを通して体感できた。

テイスティングではエトナ山と富士山、それぞれの地でのワイン造りに対する考えも語られた
「富士はシャイで、今日は会ってくれなかったが、必ずまた戻ってきたい。」とプラネタ氏。
訪問の最後に、アレッシオ氏が用意していた手紙が渡された。そこには、日本と深い関わりを持つイタリア出身の人類学者であり詩人のフォスコ・マライーニの言葉が紡がれていた。
彼が捉えた富士とエトナの比較をご紹介しつつ、2つの国と文化にとって重要かつ偉大な山に最大限の経緯を表したい。
フォスコ・マライーニ『日本の時間』より抜粋
地質学的には、エトナと富士、どちらの火山も比較的若い。
けれども、エトナには老成した風格が漂い、富士は若さそのものを体現している。
富士の稜線は、動きと飛翔を思わせる。
エトナは威風堂々とした姿で、賢き巨人を思わせる。
ときに恐ろしい力を見せることもあるが、その怒りでさえ、夜の運命の鎖を神秘的に揺さぶるような、避けがたい力を感じさせる。
富士は軽やかで、剣のように凛として誇り高く、人の心に挑戦の気持ちを呼び覚ます。
エトナは根源的に男性的である。
豊穣の父であり、村々やその足元の深海に生きるマグロの群れまでも抱く存在だ。
一方で富士は、乙女を思わせる。山の神の美しい娘が住むという伝説もあるように、あるいは純粋な理想に命をかける若き戦士のようでもある。
だからこそ、富士は生と死、そして人間の持つあらゆる狂気に寄り添っている。
一方、エトナは、果てしない影に満ちた「時」そのもののような存在だ。
エトナには、オリーブ、栗、エニシダといった、文明の繁栄や詩人たちの夢と結びついた植物がよく似合う。
そしてブドウの木もまた、甘美な陶酔を人々にもたらすという意味でふさわしい。
エトナは常に、この現世に深く根差している。
それに対し、富士には北の斜面に広がる「樹海」の野生の松、あるいは火山灰か雪がふさわしい。
富士は詩のように天を仰ぎ、
それがこの世界に属しているのかどうか、誰にも確かにはわからない。
──おそらく、富士とは神秘なる“神(kami)”なのだろう。
Photo by Sou Nishino
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