岡山県真庭市・蒜山高原でヤマブドウと向き合い続けて40年。「ひるぜんワイナリー」植木啓司氏は、標高500メートルの厳しい自然環境を味方に、独自のワイン造りを進化させてきた。希少品種への挑戦、土地へのこだわり、そして未来への展望を聞いた。
蒜山高原がはぐくむヤマブドウの潜在力

蒜山高原に佇む「ひるぜんワイナリー」。冷涼な風が吹き抜けるこの地で、独自の赤ワインがはぐくまれている
岡山県最北端、蒜山高原。標高500〜600メートルの冷涼な気候は、ヤマブドウの栽培に適した数少ない地域だ。「ひるぜんワイナリー」会長・植木啓司氏は、この土地で40年以上にわたりヤマブドウと向き合ってきた。「最初は手探りでした。収穫時期も分からず、酸が強すぎるワインばかり。そこから“蒜山らしい熟度”を探る日々でした」と振り返る。
ヤマブドウは収量が安定せず、木ごとの個体差も大きい。葉の形、房のつき方、香りの傾向──すべてが異なる。

蒜山高原に自生していた1,000本の野生の木から糖度が高く酸味が少ない木を選抜し30年かけ試行錯誤しながら栽培。本場と言われる東北地方のものと比較し甘味が強く、皮の色が濃いことが特徴
「山に入り、枝を選び、挿し木して育てる。クローン選抜に30年かかりました」
その地道な積み重ねが、現在のひるぜんワインの品質を支えている。
蒜山のヤマブドウは、東北産とは異なる表情を見せる。酸はしっかりとしながらも角が取れ、黒果実やスパイスの香りがエレガントに広がる。
「蒜山の冷涼さと日照のバランスが、この土地ならではの味わいを生むんです」
2023年ヴィンテージは特に出来が良く、果実味と酸の調和が美しい。

ヤマブドウのワインの他、100パーセントヤマブドウジュース、日本初ヤマブドウのグラッパスタイルのブランデーも販売
技術革新がもたらした品質の飛躍

野趣あふれるワインから、軽やかなワインまでバラエティ豊かに10種類以上をそろえた試飲ブース。植木会長自らブースに立つことも
醸造面では、川邊久之氏との出会いが大きな転機となった。酸素に触れさせないワイン移動の技術、徹底したサニテーション、樽使いの精度──最新の醸造理論を取り入れたことで、ワインは飛躍的に進化した。

「サクラアワード2026」でDIAMOND TROPHYを受賞した赤『三座』。ヤマソーヴィニヨンを軸にメルロやヤマブドウをブレンドし、古樽で11カ月熟成。カシスやクローヴの香りが重なり、心地よい余韻が続く
「小さなワイナリーだからこそ、一つ一つの工程を丁寧に積み重ねることが大切だと教わりました」
現在、ひるぜんワイナリーではヤマブドウを中心に、ヤマソーヴィニヨンやメルロをブレンドした赤ワイン「三座(さんざ)」シリーズも展開。上蒜山(1,202メートル)中蒜山(1,123メートル)下蒜山(1,100メートル)の蒜山三座をモチーフにしたこのシリーズは、土地の個性を表現する象徴的な存在だ。
「ヤマブドウには、まだまだ可能性があります。蒜山という土地だからこそ出せる味がある。これからも“ここでしか造れないワイン”を追求したい」
植木氏の言葉には、土地とともに歩んできた造り手の確かな信念が宿っている。
text by「日本ワインマスターズクラブ」宮崎まりDipWSET、山口ますみ
