一般的にビジネス書というと、企業のトップの方が自身のビジネス哲学をまとめた“五輪書”的なものが多いのではないだろうか。それはそれで、先達の言葉はありがたく拝聴(拝読)したほうがいいに違いない。しかし、ビジネスの最前線で活躍する30~40歳代の方々にしては、立志伝中の人物の話は等身大ではないし、時間軸のズレが大きいこともある。そう感じていらっしゃる方々には、ぜひこの「ヤッホーとファンたちとの全仕事」をご一読いただきたい。多くの方が知りたいビジネスの「今」が、見事に活写されている。
著者は、ヤッホーブルーイングの象徴ともいうべきイベントの企画、立案の責任者を務めてきた、よなよなピースラボ ラボ長の佐藤潤さん。ヤッホーブルーイングではスタッフの主従関係を最低限に留めるために、互いにニックネームで呼び合う文化があり、佐藤さんは“ジュンジュン”と呼ばれている。
何年か前に本誌の取材でジュンジュンさんにお会いした。その時、まっすぐぼくの目を見据え、ひと言ひと言が淀みなく口をついて出てくる。その様子は誠実そのものだった。
そんなジュンジュンさんが、仕事の中でもっとも大切にしていることが、ヤッホーを愛してやまないファンの存在である。顧客ではなく「ファン」と呼ぶのには理由がある。それは本書にある一人のファンとの会話に集約されている。
(前略)
ジュンジュン:他のビールメーカーから、よなよなエールと同じくらいおいしいビールが販売されたら、やっぱりそのビールを買う? 飲んだら好きになっちゃうかな?
る~:うーん。買うと思うよ。おいしかったら飲み続けるかもしれない。でも、よなよなエールを飲まなくなるとかはないと思うよ。
ジュンジュン:おー、本当に。それはうれしい。でも、それって何でかな。理由があるの?
る~:そうだな、それは“仲間”だからじゃないかな。(後略)
(本書p112〜113より)
まさにその関係性こそが、顧客との理想形と言えよう。お客様は神様、ではないのだ。他にも、眼からウロコの指摘が目白押し。ビジネスの現場で、いま何が求められているのかがリアルな言葉で綴られている。ぼくは常々、ヤッホーブルーイングは「予想を裏切り期待を裏切らないブルワリー」と思っていたが、読み終えてその理由がよくわかった。(ビール王国 青木嘉基)
書籍情報
ヤッホーとファンたちとの全仕事
著者:佐藤 潤
価格:1,760円(税込)
ISBN:978-4-296-10996-8
発行日:2021年7月5日
出版社:日経BP
ページ数:240ページ
判型:四六判