「第9回全日本最優秀ソムリエコンクール」で優勝した井黒卓氏のナビゲートでコート・デュ・ローヌ地方のワインの魅力を探るシリーズ。

最終回の第3回は、バラエティー豊かな中国料理、エスニック料理とのマリアージュ。点心や韓国焼肉など、日本でもすっかりおなじみのアジアの肉料理をワインに合わせるポイントを探った。

テイクアウトの定番料理や、和えるだけ・焼くだけのシンプルな料理など、家でも手軽に楽しめるものばかり。でぜひご参考に。

井黒 卓氏 Taku IGURO
レストラン「ロオジエ」ソムリエ。2020年「第9回全日本最優秀ソムリエコンクール」(日本ソムリエ協会主催)優勝。21年に行われる「アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール」(国際ソムリエ協会主催)で日本代表を務める

気候に恵まれたコート・デュ・ローヌのワイン

 地中海性気候で太陽の恵みをたっぷり受け、ローヌ渓谷から地中海へ抜ける風「ミストラル」によって適度に乾燥した状態を保っているコート・デュ・ローヌ地方。

 「とても優れた気候で、乾燥した風通しのいい場所で育つ植物は平均樹齢が高くなり、ブドウも古木が多いです。樹齢の高い樹の果実は、収量は少ないながら小粒で上質なので、クオリティーの高いワインになります」

 ローヌワインは、凝縮した果実味と滑らかなテクスチャーが特徴。合わせる料理の幅も広いと言う。

 「アサンブラージュ(ブレンド)することが多いローヌワインは複雑で、いろいろな料理に合わせやすい。料理とのマリアージュによって本領を発揮します」

 特に肉との相性がいいローヌワイン。ふだんの食卓で活躍すること間違いなしだ。

ハーブ、スパイス、油
エスニック料理の複雑な広がりをローヌワインが受け止める

 パクチー(香菜)や香辛料、そして個性的な風味があるオイルなど、中国料理やエスニック料理には、複雑な要素が絡んでいる。
「だからこそ、ローヌワインがいいんです」と井黒氏。

 マリアージュのヒントとしては「油や脂質の割合や香りの強さ、あるいは辛味の度合いなどを指標にしてワインを選ぶのも、一つの方法です」

 例えば、あっさりした野菜やシンプルな鶏肉料理にはライトボディのものを、油脂が多い料理ならタンニンがしっかりしたタイプ、辛味には甘い風味のあるワインを、という具合だ。

 ハーブは香りの傾向によるが「アジアの代表的なハーブ、パクチーには鼻に抜ける強い香りがあり、それがベリーの香りに相乗するので、赤ワインが合います」

 それではエスニック料理との相性を検証してみよう。

鴨のソテーとベビーリーフのサラダ、ごま油のドレッシング

画像: 鴨、葉野菜、パクチーのシンプルなサラダを、ごま油とナンプラーをベースにしたドレッシングで。ワインと味をつなぐため、ドレッシングに煮切った赤ワインを少し加えた

鴨、葉野菜、パクチーのシンプルなサラダを、ごま油とナンプラーをベースにしたドレッシングで。ワインと味をつなぐため、ドレッシングに煮切った赤ワインを少し加えた

 鴨と葉野菜、フレッシュパクチー、そしてごま油のドレッシング。シンプルで軽いサラダは「野菜を多めに盛るなら白ワイン。少し柑橘を搾ると、ますます白にマッチします。ですが、赤もよく合いますね」

 鴨に赤ワインというのは定番だが、ごま油もまたマリアージュの鍵となるのだという。ごま油の香りは、樽熟成させた赤ワインの持つ香ばしさにつながるところがある。さらに、赤ワインのタンニンは油を流してくれる。サラダのように食事の前半に食べることが多い料理では、次に備えて口の中をリフレッシュしておくこともポイントだ。  

「ローヌの赤ワインには、フルーツに加えてハーブの要素がある。そこにパクチーの鮮烈な香りがうまくフィットして余韻につながります」

東南アジア風焼き鳥に、ピリ辛の「サトテム」を添えて

画像: インドネシアやマレーシアで食べられている串焼き。「食べるラー油」のようなイメージのベトナムの調味料「サテトム」をお好みで添えて

インドネシアやマレーシアで食べられている串焼き。「食べるラー油」のようなイメージのベトナムの調味料「サテトム」をお好みで添えて

 鶏肉などを串に刺して焼くサテは、いわば焼き鳥。
「日本の焼き鳥も、塩かタレかで合わせるワインが変わりますが、これも同じです」

 ピリ辛の調味料「サテトム」をつけるならやはり白、それもアロマティックで甘やかさを感じさせるものがお勧めだという。
 
 「辛味のあるスパイスを使った料理は、ワインの甘味の要素で中和させるといいですね。例えばローヌの白なら、フローラルな中にエキゾチックフルーツのニュアンスを持つヴィオニエを使ったものがいいでしょう」

 辛いソースをつけずにそのまま食べるのなら、塩味でも甘辛味でも赤がお勧めだ。
 「コート・デュ・ローヌの赤は新樽を使うことが少なく、クローヴのような甘苦いスパイスの風味が現れます。焼き鳥を甘辛いタレで食べる場合はコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュか、村名が付記されたリッチなワインにも負けないと思います」

韓国風焼肉を、コチュジャン入りのタレで

画像: ホットプレートでシンプルに作るファミリ―スタイルの焼肉。肉の漬けダレに赤ワインを少々加え、タレは市販のものにコチュジャンを少々加えて本格的な味に

ホットプレートでシンプルに作るファミリ―スタイルの焼肉。肉の漬けダレに赤ワインを少々加え、タレは市販のものにコチュジャンを少々加えて本格的な味に

 大豆や麹、餅米を使って作るコチュジャンは、辛味の奥に穏やかな甘味を感じる韓国の調味料。
「後を引くほのかな辛味で、辛味調味料の中でも比較的ワインに合わせやすいですね。濃厚なタレなので、これはまず赤。AOCコート・デュ・ローヌに合わせましょう」

 脂を感じる肉料理はタンニンがしっかりした赤ワインと調和する。AOCコート・デュ・ローヌの赤はアルコール感もしっかりしているタイプが多いので、味わいに持続性があって余韻が長い。
 「程よいタンニンとアルコールがタレの余韻と重なって、とてもバランスがいいですね」

 ワインを選ぶ際には、シチュエーションも大切だと語る井黒氏。
 「ワイワイと焼肉を囲んで楽しむ時には、AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュや村名付きの格上ワインよりも、フレンドリーなAOCコート・デュ・ローヌでカジュアルに、気軽に楽しみたいですね!」

点心に、黒酢とポン酢を添えて

春巻、小籠包、肉まん。肉の旨味がギュッと詰まった3種類の点心を、黒酢とポン酢でいただく

 「意外に思われるかもしれませんが、点心には断然、赤ワインをお勧めします」と井黒氏。

 「もともと本場中国では、点心はお茶と楽しむもの。お茶の成分にはタンニンやカテキンが含まれているので、赤ワインとは相性がいいのです」と聞くと納得する。

 小籠包や肉まんは、肉の旨味や脂を生地で閉じ込めた料理。
 「ひと口食べたら口の中に肉汁が広がります。脂をたくさん含んだ具材の後味を、赤ワインのタンニンがすっきりと流してくれるんです」

 油を使う料理としては春巻きも同様で、揚げ物は赤との相性がいいと言う。

 「いろいろな素材を使う点心は、味わいが複雑です。ですからワインも複雑さがあるAOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュや村名付きのものが、より相性がいいと思います」

 奥行きのあるワインと点心。新しい楽しみ方がまた広がりそうだ。

 バラエティー豊かなアジア料理は今や、日本の「おかず」の1ジャンルになりつつある。スパイスやハーブ、そして独特の調味料を使った料理とワインのマリアージュは、家飲みワインの幅をさらに広げてくれるはず。ぜひいろいろ試して、お気に入りの組み合わせを見付けてほしい。

 洋食、和食、中国・エスニックと、あらゆる料理をカバーできるコート・デュ・ローヌ地方のワイン。おうちワインの定番に、ローヌワインをオンリストしてみてはいかが?

料理と合わせたワイン(左から)

◆『コート・デュ・ローヌ ブラン コレクション・ビオ 2019年』(生産者:M.シャプティエ)
AOCコート・デュ・ローヌ
価格:2000円 輸入元:日本リカー㈱
EUで認定された有機栽培のブドウを使用。アプリコットや白桃などのフルーティーなアロマが印象的。

◆『コート・ド・ローヌ ルージュ 2016年』(生産者:E.ギガル)
AOCコート・デュ・ローヌ
価格:2000円 輸入元:㈱ラック・コーポレーション
黒い果実の香りにスパイスのニュアンスを感じる。バランスが良くまろやかな味わい。

◆『コート・デュ・ローヌ テール・ダルジール 2018年』(生産者:ドメーヌ・ド・ラ・ジャナス)
AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ
価格:3830円 輸入元:㈱エイ・エム・ズィー
シャトーヌフ・デュ・パプの境界に近い畑のワイン。カシスやベリーなど熟した果実の香りが広がるジューシーな1本。

◆『コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ・サブレ 2017年』(生産者:ドメーヌ・ビュルル)
AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ・サブレ
価格:2000円 輸入元:㈱稲葉
ジゴンダスの北にあるサブレ村で、有機肥料でブドウを栽培。黒い果実の香りとしなやかなタンニンが特徴。

※価格は税別

画像: ローヌワイン委員会(INTER-RHÔNE)

ローヌワイン委員会(INTER-RHÔNE)

text by Miki NUMATA, photographs by Kentaro TAKIOKA

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