ソムリエと樋口真一郎氏(髭男爵)と学ぶ品種の勉強会。ワイン用ブドウ品種について、基礎知識から味わい方まで、とことん学ぶ連載です。本誌『ワイン王国 130号』にも詳しく掲載されているので、併せてご覧ください。デジタル版はこちらから。
★10月5日発売『ワイン王国 131号』の「品種のいろは」のテーマは「甲州」!★
第3回の「ソーヴィニヨン・ブラン」に続く今回のテーマは「ピノ・ノワール」。樋口真一郎氏と銀座「ESqUISSE」(エスキス)総支配人の若林英司氏と一緒に、エレガントな味わいで人々をひき付ける品種、ピノ・ノワールの魅力に迫る。
ピノ・ノワールのいろは
世界中で栽培されている黒ブドウ品種。房はコンパクトな円筒形で、小粒で果皮が薄いのが特徴。冷涼で乾燥した石灰質土壌を好み、病害への抵抗力は弱い。単一品種で造られることが多く、気候や土壌による味わいの違いが明確に反映されやすい。
主な香り
イチゴやラズベリー、レッドチェリーなどの赤系果実やブルーベリーなどの黒系果実。バラの花、スパイスやシナモン、紅茶、熟成が進むと枯れ葉のニュアンスも
味わい
上品で豊かな果実味と、繊細で生き生きとした酸のバランスが良い。きめ細やかで穏やかなタンニンが心地いい余韻へと導く
シノニム(別名)
ピノ・ネーロ、シュペートブルグンダー、グラウブルグンダー、ブラウアー・ブルグンダー、グロ・ノワリアンなど
たおやかな果実味&繊細な酸がエレガント
ピノ・ノワールは、原産地とされるフランス・ブルゴーニュ地方を代表する品種。道1本隔てただけで土壌や地形の異なるブルゴーニュでは、生産エリアは区画や畑ごとに細分化され、土地ごとの個性を引き出したワイン造りが研究されている。樋口氏はワインエキスパート資格を取った直後、自身へのご褒美としてブルゴーニュ旅行をしたそうだ。
「勉強した村名や畑名の標識を見るたびに、興奮して写真を撮りまくって(笑)。さまざまなワイナリーで試飲をし、ピノ・ノワールの魅力にはまりました。一般的なピノ・ノワールの特徴として、エレガントなワインの代表とか言われますよね。あと、官能的とか」と樋口氏。
「官能的というのは、主にブルゴーニュの一部の高級ピノ・ノワールに当てはまる表現ですね」と教えてくれたのは若林氏。基本的に単一品種で造られることから、気候や土壌の影響がストレートに表れるため、ピノ・ノワールは産地による個性が多彩な品種だという。
「特徴を大きく分けると、ニューワールドは果実の甘やかさが主体で酸は控えめ、カジュアルで親しみやすい印象。ブルゴーニュではより繊細な味わいとなり、村や畑ごとに差がしっかりと出ます。香りもベリーのほか、キノコや根菜のような土のニュアンスが加わり、神秘的なワインも生まれます」
果実味やタンニンなどを強く主張せず、繊細で深い味わいを感じさせるピノ・ノワール。今回は6アイテムを飲み比べ、その特徴をつかんでみた。
これぞ! ピノ・ノワール6選
品種の個性が表現された6アイテムを紹介。
造り手や産地による味わいの違いを知り、お気に入りの1本を見付けよう。
『スクレ・ド・リュネス ピノ・ノワール 2019年』(フランス/ラングドック地方)
フレッシュなイチゴのアロマに、ブルーベリーのジャムのようなキャンデー香も。黒コショウのほのかにスパイシーなニュアンスが引き締める。口に含むと、太陽の恵みを感じる果実の甘やかさとコクがあり、酸は穏やか。ジューシーで親しみやすい味わい。
『ピノ・ノワール・ディ・ソウマ 2021年』(オーストラリア/ヴィクトリア州)
熟したラズベリーやイチゴの赤系果実のアロマに、ハーブやアーティチョークなどのベジタルなニュアンスが重なりさわやか。まろやかな果実味と生き生きとした酸の奥に土壌由来のミネラル感があり、タンニンはやさしくフレッシュなアフターが印象的。
『コノスル ピノ・ノワール 20バレル リミテッド・エディション 2019年』(チリ/カサブランカ・ヴァレー)
ブルーベリーやカシスなどの黒系果実の熟した香りに、ジャムやドライプラムの凝縮したアロマ。黒コショウやシナモン、リコリスのニュアンスも。ふくよかな果実味、酸味、緻密で穏やかなタンニンのバランスが良く、アフターにブドウの旨味がしっかり感じられる。
『メルキュレ キュヴェ 1395 ルージュ 2019年』(フランス/ブルゴーニュ地方)
イチゴやブルーベリー、ラズベリージャムのような熟した赤系果実のアロマに、キノコや枯れ葉などの土っぽさや紅茶などの複雑な香り。口に含むと果実味と生き生きとした伸びのいい酸が調和し、土壌由来のミネラルとシルキーなタンニンがまとまって余韻を膨らませる。
『ハーン ピノ・ノワール エス・エル・エイチ エステート・グロウン 2019年』(アメリカ/カリフォルニア州)
イチゴやブルーベリー、カシスの香りに、紅茶や枯れ葉、リコリスやクローヴのスパイスの香りもあり複雑。口に含むとボリュームのある果実味ときれいな酸、緻密なタンニンのバランスが良く、アフターにブドウの旨味を感じる。飲み疲れしないワイン。
『サヴィニー・レ・ボーヌ プルミエ・クリュ レ・フルノー 2017年』(フランス/ブルゴーニュ地方)
ラズベリーなどの赤系果実やバラの花のチャーミングな香りに、湿った秋の森を思わせるキノコや土っぽいニュアンス、黒コショウのアロマも。芳醇な果実味の中に溶け込んだ豊かな酸と、シルキーなタンニンが旨味を伴って口中に広がり、心地いい余韻が長く続く。
※価格などのデータはすべて2022年7月現在のものです
料理との相乗効果でワインの個性を引き出す
6本のワインを試飲し、若林氏は「ブドウそのものは繊細なのに、ワインになるとしっかりとした果実味と生き生きとした酸、最後には旨味の要素を感じられる。単一品種でありながら、これだけの深い味わいが表現できるワインになるブドウはほかにないと思います」と、ピノ・ノワールの魅力を語った。
ピノ・ノワールのキーワードは「旨味と余韻」と樋口氏。
「料理も足りないものを補うのではなく、ワインの持つ個性を相乗効果で引き出すことがコツということもわかりました。ブルゴーニュと、ニューワールドをはじめほかの産地それぞれに楽しみ方がありますね」と締め括った。
産地ごとの特徴を感じながら、さまざまな料理に合わせてピノ・ノワールを楽しんでみよう!