世界中でアマローネの名を有名にした名門「マァジ」は創業250年を祝った。 10月14日に行われた祝賀会には各界の名士が駆け着け華やかな雰囲気に包まれた。
マァジのオーナーであるボスカイーニ家の初代ジョバッタ・ボスカイーニが単一畑ヴァイオ・デイ・マァジと呼ばれる畑で初めて収穫を行ったのは1772年のことだ。ヴァルポリチェッラ・クラッシコ地区の中心に位置するネグラール渓谷とマラーノ渓谷の間にある畑で、 標高370 ~400メートルの丘陵にあり、品質の高いブドウが収穫される。その後、この畑を所有するようになったボスカイーニ家は畑名を社名とした。マァジの輝かしい歴史の始まりである。
1888年にはジュゼッペ・ボスカイーニが丘陵にあるトルベ村から、鉄道が通り便利になったヴァルガターラ村(マラーノ渓谷)にワイナリーを移す。ここは今でもマァジの中心となる醸造所がある。順調に成長を続けたマァジは両大戦の間に輸出を始めた。5代目のグイドは1964年、後にベストセラーとなる『カンポフィオリン』をリリースする。
「フレッシュで、飲みやすいヴァルポリチェッラはデイリーワインとして大成功を収めていました。一方、特別な機会にはアマローネが飲まれていました。その中間に位置する、日曜に飲むようなワインがないと祖父は考えたのです」と話すのは来日した7代目アレッサンドラさん。
アマローネのヴィナッチャ(搾りかす)を使い、ヴァルポリチェッラを再発酵させたカンポフィオリンは人気を博し、今日のリパッソの原型となった。ただ、マァジは1990年代半ばにヴィナッチャの代わりに陰干ししたブドウを使って再発酵させる醸造に変えたので、今はリパッソの名称を使っていない。
「ワインを造った残り物であるヴィナッチャよりも、陰干ししたブドウを使った方が、アロマが豊かで、品質の高いワインができると考えたのです」
彼女の父で現オーナーのサンドロ氏はマァジを拡大し、「ミスター・アマローネ」として知られている人物だ。1980年には各分野の専門家を集めたマァジ・テクニカルグループを創設、国内外の大学や専門家と協力して、栽培や醸造の研究を行い、それをワイン造りに生かしている。
「一人の醸造家の能力に頼るのではなく、皆がノウハウを共有し、マァジのスタイルを継承できるようにしています」
詩人ダンテの末裔が所有するセレゴ・アリギエーリ農園、トレンティーノ地方のボッシ・フェドリゴッティ伯爵のワイナリーも運営していて、ヴァルドッビアデネにある「カネヴェル」を買収し、プロセッコにも進出した。ヴェネト、フリウリ、トレンティーノ、トスカーナ、アルゼンチンにワイナリーを所有、ブドウ畑は1200ヘクタールにもなり、年間生産量は1200万本。2015年には株式上場を果たし、世界的企業として躍進している。「ただ今でも家族の団結は強く、家族経営のままです。叔父、弟、従兄達に続いて、8代目となる私の31歳の息子も働いています」
新時代に向けたマァジの提案が、サステイナブルワイン『フレスコ・ディ・マァジ』だ。
「ワインが重々しいものになりすぎて、ランチタイムにワインを楽しまない人が増えていることに気付きました。アルコール度数が低くて、気軽に楽しめるデイリーワインを提案しようとして生まれました」
絞ったブドウをそのままボトルに詰めるというコンセプトだ。
「できるだけ自然なワインを造りたいので、陰干し、選別酵母、オリ引き、フィルター、樽熟成などは不要です」
ボトルも軽く、ラベルはリサイクル紙で、プラスティック・フリー。サステナブル認証、有機認証、ヴィーガン認証も得ている。ポップなデザインで若い世代をターゲットにしていたが、「祖父が造っていたワインを思い出す」と年配の消費者にも人気があるそうだ。
創業250年を記念してリリースされた貴重なワインが『ヴァイオ・デイ・マァジ 1997年』だ。偉大なヴィンテージ1997年の25年後にリリースすることを考えて造られたアマローネだ。創業の地である単一畑のブドウだけを使い、4年間の大樽熟成の後、窒素充填したステンレスタンクで20年間保管された。総生産本数はマグナムボトル2500本だけという特別なワインである。
250周年記念イベントで1958、1962、1974、1980、1988、1990、1997、2003、2009、2012、2016年というアマローネのヴァーティカル試飲会が行われたが、古いヴィンテージは見事に調和を保って美しく熟成していて、1990年と1997年はまさに最高の状態であった。
「丘陵の優れた畑と高い技術力、そして時間が醸し出す芸術品です」とアレッサンドラさんは締めくくった。
text by ISAO MIYAJIMA
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