text by Isao MIYAJIMA
photographs by Hiromichi KATAOKA
マレンマというと海に近いのんびりとした温暖な産地というイメージがあるが、険しい道を走って辿り着いた「カステッロ・ディ・モンテポ」には異なる風景が広がっていた。標高520メートルの丘の上にモンテポ城が屹立し、その周りを森林が囲む。麓にはブドウ畑が広がっている。
「普通のマレンマではありません。独自のテロワールなのです」と話すのはブルネッロ・ディ・モンタルチーノを生んだ名門ビオンディ・サンティ家の7代目タンクレディ氏だ。丘の頂上にある城を取り囲むように広がるブドウ畑という地形は、丘の上にあるモンタルチーノ村の裾野に広がるブドウ畑とそっくりだ。
「父ヤコポもミニ・モンタルチーノだと話しています」
城を巻き込むように吹き込む冷たい風も、アミアータ山からモンタルチーノ北部に吹き込む風とよく似ている。足下に目をやると畑の土壌はガレストロに石ころが混ざっている。
「ここは私たちが商標権を持っている優れたサンジョヴェーゼ・グロッソのクローンBBS11に最適な産地なのです」
ピサ大学やフィレンツェ大学と協力して理想的産地を探し求め、辿り着いたのがここというわけだ。農園は600ヘクタールと広大で、ほとんどが森林で、55ヘクタールがブドウ畑(もうじき60ヘクタールになる予定)だ。地中海というより、山岳を感じさせる。
「私と父フランコが選別したBBS11が破格の長期熟成能力を誇るブルネッロを生むことはビオンディ・サンティ家が250年にわたり示しました。私はBBS11で若くから楽しめるワインを造ってみたかったのです」と話すのはヤコポ氏。そのために発酵温度を24℃に抑えてアロマを保持し、20日間マセラシオンを行い、バリック熟成をした。そのようにして生まれた『サッソアッローロ 1991年』は色が濃く、香り高く優美な果実味を持つ、丸みのあるワインだった。
「ブルネッロとは異なるBBS11の可能性を示したのです」
30周年記念となる同2021年ヴィンテージもヤコポ氏が目指したスタイルを完璧に表している。BBS11ならではのフローラルな香りに、しっかりしたチェリーのアロマが混ざる。口中では丸みがあり、ビロードのような口当たりだ。同じクローンでもビオンディ・サンティのブルネッロの硬さはなく、とても優美である。
『サッソアッローロ・オーロ 2020年』は同じスタイルだが、より凝縮感がある。
「古木を使っていてブルネッロ・リゼルヴァと同じ位置付けです」
今年リリースされる三つの単一畑ワインも興味深い。「テロワールへの理解が深まったので、2019年ヴィンテージから単一畑ワインをリリースします」とタンクレディ氏。『マチェオーネ』と『ポッジョ・フェッロ』はBBS11が100パーセントで造られるが畑が異なる。標高269~ 326メートルにある東向きのマチェオーネは粘土が多い土壌で、表土が深く、冷たい土壌だ。マチェオーネ 2019年はアロマが華やかで、魅惑的、すでに楽しめるワインだ。
ポッジョ・フェッロは標高322~345メートルの南向きの畑でガレストロが多い。ポッジョ・フェッロ 2019年は内向的なワインで、フローラルな香りにローズマリーなどのハーブが混ざり、味わいはシャープで、硬質のミネラルを感じさせる。ビオンディ・サンティのブルネッロを想起させるニュアンスがある。同じBBS11でも正反対の個性を持ち、とても興味深い。
もう一つの単一畑ワインはカベルネ・ソーヴィニョン100パーセントで造られる『フォンテカネーゼ』だ。標高357~ 377メートルにある南東向きの畑で、石ころが多く混ざる土壌だ。黒い果実、カカオのアロマを持つ厳格なワインで、後口に感じられる塩味が魅力的だ。凝縮感があるので、少し熟成させる必要があるだろう。
「モンテポの多様なテロワールを表現してくれるワインです」
1993から造っているもう一つの旗頭ワインが『スキディオーネ』だ。BBS11が40パーセント、カベルネ・ソーヴィニョン40パーセント、メルロ20パーセントというブレンドで造られる洗練された味わいのワインだ。
「サッソアッローロの飲みやすさとブルネッロの長期熟成能力を持ち合わせたワインを造りたかった」とヤコポ氏。
『スキディオーネ・テルツォ・ミッレニオ 1997年』は偉大なヴィンテージの特別なワイン。1万3987本のマグナムボトルだけが造られ、毎年2本限定で販売される。干したスミレの香りに甘草、森の下草が混ざる。見事に熟成していて、複雑で、厳格だが、同時に絹のように繊細だ。口中では驚くほど若々しく、酸が清らかで、深みがある味わいだ。数々の栄光に輝くビオンディ・サンティ家の新たな冒険はとても刺激的である。
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