6月、オーストラリアの「ヤンガラ・エステート・ヴィンヤード」のワインメーカー、ピーター・フレイザー氏が来日し、ワイン造りの哲学や、力を入れるグルナッシュについて語った。
南オーストラリア州のマクラーレン・ヴェイルに位置する「ヤンガラ・エステート・ヴィンヤード」は、カルフォルニア州の「ジャクソン・ファミリー・ワイナリー」の創立者ジェス・ジャクソン氏と妻のバーバラさんが2001年に設立したワイナリー。シラーズとグルナッシュのポテンシャルを生かせるテロワールを求め、グルナッシュの古木(1946年植樹)の畑を購入したのが始まりだ。
砂質中心で非常にやせた土壌は、樹勢が強く、水分ストレスへの耐性があるグルナッシュに最適。畑の標高は200メートル前後で、マクラーレン・ヴェイルの中では高い所に位置し冷涼、ブドウはゆっくりと熟す。
ワインメーカーのピーター・フレイザー氏は「ブランドのスタイルを重視し、ブレンドが多いオーストラリアワインの中で、私たちはテロワールを生かしたワインを造っています」と語る。化学肥料を使うと土地の個性を奪ってしまうとの考えから、ビオディナミ(*1)でブドウを栽培する。
*1 オーストリアの人智学者、ルドルフ・シュタイナー(1861~1925年)が提唱した有機栽培農法の一種。農薬の代わりに薬草などを用い、天体の運行に合わせて作業を行う。樹木を病虫害から守るほか、果実の成熟を促す効果があるともいわれる
1946年に植樹されたグルナッシュの古木から造るのが『オールド・ヴァイン・グルナッシュ』だ。温暖だった2014年ヴィンテージは、イチゴやウメのような香りが漂い、味わいにも甘酸っぱさが感じられる。10年近く経った今もフレッシュな印象だ。一方、冷涼だった2021年ヴィンテージは、集中力のあるチェリーの風味と、存在感がありながらも穏やかなタンニンが心地いい。
ヤンガラ・エステート・ヴィンヤードでは現在、セラミックエッグタンクを使用し、樽の風味やタンニンを与えないピュアな造りを行っている。ほかにも、アンフォラ(*2)や大きなフードルも醸造に取り入れ徹底してワインをやさしく扱うことで、ますますエレガンス際立つワインを生み出している。マクラーレン・ヴェイルとグルナッシュ、土地と品種の個性を表現したワインをぜひ味わってほしい。
*2 一対の取っ手が付いた、胴がふくらんだ壺