カリフォルニアのワイナリー「マージュラム・ワイン・カンパニー」の当主であり醸造家のダグ・マージュラム氏が来日した。東京・広尾の蕎麦割烹「こうもと」の料理に合わせながら、食事に寄り添うスタイルを信条とする彼のワインの魅力を探った。
マージュラム・ワイン・カンパニー
1981年、ダグ・マージュラム氏の家族が、ワインショップ兼業務用醸造機具を販売していた「ワイン・カスク」を買収し、マージュラム氏はワインショップに隣接する小さなビストロを立ち上げた。86年からは、同じくカリフォルニアの「オー・ボン・クリマ」前オーナーの故ジム・クレンデネン氏と、元「キュペ・ワイン・セラーズ」のボブ・リンドクイスト氏とともにワイン造りを始めた。
2001年、満を持して自身のワイナリー「マージュラム・ワイン・カンパニー」を設立。ワイン造りに専念するため、1994年に米ワイン誌『ワイン・スペクテイター』の「グランド・アワード」を受賞するほど人気を博していたワイン・カスクを2007年に売却。01年から毎年ワイン造りを続け、22年には米ワイン誌『ワイン・エンスージアスト』の「ワインメーカーズ・オブ・ザ・イヤー」にノミネートされている。
元シェフが作るフードフレンドリーなワイン
ビストロでシェフとして活躍していたマージュラム氏は,“食事に寄り添うスタイル”を信条にワイン造りを行う。
ますは『マージュラム “シバライト” ソーヴィニヨン・ブラン ハッピー・キャニオン・オブ・サンタ・バーバラ 2022年』からスタート。「ハッピー・キャニオン・ヴィンヤード」や「マッギンリー・ヴィンヤード」など7区画の畑をブレンドした、ソーヴィニヨン・ブラン100パーセントのワインだ。ワイン名の「シバライト」は「Sybaritic(シバリティック)=快楽的な」に由来する。アロマはキウイやライム、レモンなどさわやかな果実に、ほのかにお香のニュアンス。はつらつとしていて,口中を潤すようなミネラル感と旨味が広がる。
次の『マージュラム エム・ファイヴ ホワイト サンタ・バーバラ・カウンティ エステート・ヴィンヤード ロス・オリヴィス・ディストリクト 2021年』は、ローヌブレンドの白ワイン。これまでの旅で出合った中で、マージュラム氏が一番注目していたのがローヌ品種をブレンドした白ワインだった。自分でもそんなワインを造りたいと思い、2015年に自社畑を購入し、グルナッシュ・ブラン、マルサンヌ、ルーサンヌ、ヴィオニエ、ピクプール・ブランを植樹。
リッチなスタイルに仕上がるグルナッシュ・ブラン、ルーサンヌ、ヴィオニエと、キリッとした酸が特徴のマルサンヌ、ピクプール・ブランをブレンドすることでバランスの良いワインが出来るという。食事に寄り添うバランスの良さを重視するマージュラム氏らしいワインだ。
続いては『マージュラム リヴィエラ・ロゼ サンタ・バーバラ・カウンティ 2022年』。グルナッシュ主体で、セニエ(*)したクノワーズ、シラー、ムールヴェードル、サンソーをブレンドしたロゼワインだ。
南向きの海岸沿いにあるサンタ・バーバラは、リヴィエラのニースに気候風土が似ていることから「アメリカン・リヴィエラ」と呼ばれている。
1本目のソーヴィニヨン・ブランも同様だが、このロゼワインもフレッシュさを保つため、長期の低温発酵を行う。イチゴのパンケーキのような甘やかな香りが広がり、かすかにルバーブの印象も。とげとげしさのない、やや丸みを帯びた酸がフレッシュに口中を刺激する。
*ブドウの果皮を果汁に漬け、色が付いた段階で取り除く醸造法
4本目の『マージュラム エム・ファイヴ サンタ・バーバラ・カウンティ 2021年』は、13の畑で栽培される5品種をブレンドしたグルナッシュとシラー主体の赤ワインだ。天然酵母を使用し、オープントップタンクで発酵、手作業のピジャージュ(発酵中の果帽管理)を行う。
木イチゴやドライハーブ、グリルした肉のアロマが広がる。口当たりはまろやかで細かなタンニンが魅力的だ。
サプライズで振る舞われた『マージュラム グルナッシュ 2021年』は、やや西を向いた傾斜の畑で育つブドウを使っている。野バラやルバーブのような香りで、柔らなタンニンやほのかなヨード感がまろやかな印象を与えながらも、芯のある酸が味わいを支えている。
「花巻そば」と合わせてみると、海苔とグルナッシュのヨード感が調和しワインの華やかさが際立つペアリングが楽しめた。
最後は、40種類のボタニカルを使用して15年かけて造ったという『アマーロ』で締めくくった。イタリア・フィレンツェの旅で、現地の人たちが食後酒としてアマーロを楽しんでいるのを目にしたマージュラム氏が造りたいと思っていた酒精強化ワインだ。凝縮したハーブの青い苦味の中に、華やかなワインらしさが感じられた。