1834年から6世代にわたって営まれるシャンパーニュ・メゾン「ボワゼル」。今年8月、2019年に経営を引き継いだフローラン・ロック=ボワゼル氏が4年ぶりに来日した。
「ボワゼル」は、1834年にパティシエだったオーギュスト・ボワゼルとジュリー・マルタンによりシャンパーニュ文化の中心地エペルネで設立された。所有するセラーは1850年代に建てられたもので、2016年以降、そのすぐ近くに最新技術を取り入れたセラーを新築。今回来日したフローラン氏で6代目を迎えるボワゼルは、設立以来、家族経営で伝統を守りながらも常に改革を施してきた。
フローラン氏が特に力を入れるのは醸造面での改革だ。大樽熟成のリザーヴワインの比率を増やすことで、余韻の長さ、テクスチャーを向上させ、より精巧なワイン造りを目指す。また、ドザージュ量を減らし、ブレンドにおける各ブドウの割合を増やしている。
兄のリオネル・ロック=ボワゼル氏が手掛けた、ワインツーリズムと醸造設備の近代化という二つの改革に続き、メゾンのさらなる発展を見据えるフロラン氏。そんな彼が率いる“新生ボワゼル”のシャンパーニュを「レストラン ロゼット」の料理とともに味わった。
ボワゼル ブリュット レゼルヴ NV
Boizel Brut Réserve
まずは『ボワゼル ブリュット レゼルヴ NV』の乾杯でスタート。今回供されたのは大樽のリザーヴワインを使った初のヴィンテージで、2019年ヴィンテージがベースのピノ・ノワールを40パーセント、シャルドネを35パーセント、ムニエを25パーセント使用。温暖化でブドウが熟しやすくなっている今、ワインのテンションとフレッシュ感を上げるためにシャルドネとムニエの比率を少し上げたという。
明るく澄んだ麦わら色が場の雰囲気を明るくするようだ。白い花や柑橘類が華やかに香り、酵母を思わせるリッチな味わいが満足感を与える。
ボワゼル ジョワイヨ 2008年
Boizel Joyau
ワイン名にある「ジョワイヨ」とはフランス語で宝石を意味する。「長期熟成を存分に楽しむ」というコンセプトで、フローラン氏の祖父が造り始めた。ファーストヴィンテージの1961年以来、たった15ヴィンテージしか造られていない、まさに宝石のような希少なキュヴェだ。グラン・クリュ(特級畑)とプルミエ・クリュ(1級畑)のブドウのみを使用し、ピノ・ノワールをやや多めに使うのが通例。最低10年間シュール・リーを行うが、2008年ヴィンテージの期間は14年にもおよぶ。
味わいの強くないエレガントなシャンパーニュを造りたいとの思いから、マイィやシニー・レ・ローズといった北の産地のピノ・ノワールを使う。この地域にはボワゼルと長年の付き合いのあるブドウ農家も多く、上質なブドウを安心して手に入れることができるのも利点だ。
アーモンドや砂糖漬けのオレンジ、ブリオッシュの香りが絶妙なバランスで広がっていく。凝縮感のある酸を感じ、果実味は余韻までしっかりと続く。「富士高原鶏のロティ ジュドプーレと彩り野菜」と合わせると、肉の上に添えられたトリュフとシャンパーニュの香り高さが共鳴し、より上品な印象を楽しめるペアリングだった。
ボワゼル グランド・ヴィンテージ 2013年
Boizel Grand Vintage
『ボワゼル グランド・ヴィンテージ』は良作年にしか造られない特別なキュヴェだ。2013年ヴィンテージは10月に収穫されたブドウを使用しているが、温暖化が進むこの10年間で10月に収穫した年は2013年のみだそう。ブドウがゆっくりと完熟するまで収穫を待つことができ「クラシックな味わいになっています」とフローラン氏。
泡はきめ細かく、口に含むとスフレのように柔らかく広がる。少し醤油を思わせる熟成香がかぐわしく、凝縮感がありながらもフレッシュな味わい。フィニッシュに感じられるやや苦味を伴ったミネラル感が味わいを引き締めている。合わせたのは「舌平目と帆立貝ムースのブレゼ ソースアルベール」。皮目にパン粉がまぶされた魚は、身がふわふわとしてみずみずしく、バターのコクと相まってより柔和な印象に。フレッシュでありながら熟成感を堪能できるボワゼル グランド・ヴィンテージ 2013年と抜群の調和をみせた。
栽培面はフローラン氏が、醸造面は兄のリオネル氏が中心となり、メゾンのさらなる発展に向けて兄弟二人三脚で改革を進めるボワゼルのこれからが楽しみだ。