富士山の壮麗な姿を眺めながら、上質の山梨ワインを1杯。ゆっくりと温泉に浸かり、芯まで温まった体を心地いい風がやさしく包む。まさに至福の一瞬だ。ワイン愛好家にとって、そんな優雅な時間を約束してくれるのが、河口湖にほど近い富士山温泉の「ホテル鐘山苑」だ。
２０２３年8月1日、館内に個性豊かな山梨ワインが楽しめる「山梨ワインラウンジ」がオープン、ゲストに新たな発見と感動を与えている。 ホテル鐘山苑の創業は１９７１年。以来、50年以上の長きにわたり、この風光明媚な地で温泉旅館として多くのゲストを迎えてきた。聞けば、親子3代で訪れる“おなじみのお客さま”も多いという。
テラスから富士山が一望できる。風に吹かれながらワインを楽しむのも素敵
その理由は、何といっても随所におもてなしの心が感じられることにある。スタッフの笑顔と丁寧な応対はもちろんながら、驚くべきは館内の花あしらい、美しく手入れされた日本庭園、そしてホテル鐘山苑名物の和太鼓演奏に至るまで、すべてスタッフによって行われているのだ。「自分たちらしい美意識と真心でお客さまをお迎えしたい」という思いが伝わってくる。
イタリア製ワインサーバーで
32種の山梨ワインを自由に
「山梨ワインラウンジ」にも、そんなおもてなしの心が感じられる。山梨は日本を代表するワイン産地で、世界的ワインコンクールで高く評価されるワインが続々登場している。甲州やマスカット・ベーリーAなど日本ならではの固有品種も魅力的で、シャルドネやメルロといった国際品種も個性豊かでレベルが高い。山梨ワインラウンジは、そんな山梨のワインの素晴らしさを広く伝えたいという思いから誕生したという。
特筆すべきは、ラウンジに設えられたイタリア製ワインサーバーから32種の多彩な山梨ワインが自由に楽しめること。宿泊客なら予約時にオプションとして申し込めば利用が可能だ。ワインサーバーも使い勝手が良く、ボタンを押すだけでグラスにワインがサーヴされ、普段あまりワインになじみがない人でも気軽にワインが楽しめるのもいい。
ワインサーバーはイタリア・エノマティック社のもの。温度管理も抜群。ワインは通常32種楽しめる。白須氏が季節に合わせてお勧めのワインをセレクトしている
ラウンジは和の風情に溢れていて落ち着いた雰囲気。ちょっとしたおつまみやスパークリングワインも毎日用意されている
また、「どれから飲めばいいのか迷ってしまう」という人には、ソムリエの白須浩二氏が丁寧にワインの説明をしてくれる。
「当館は温泉旅館ですので、ワインラウンジといっても、愛好家の方から『ワインはあまり飲んだことがない』という方まで、さまざまなお客さまがいらっしゃいます。うれしいことに山梨ワインに興味をもって訪れてくださる方が多いので、さまざまなスタイルのものを用意し、お気に入りの1本に出合えるようなセレクトを心掛けています」と白須氏は語る。
ソムリエの白須浩二氏は富士吉田市の出身で、山梨ワインをよく知る人物。生産者との交流も多い。「自分の目と足で得た情報をお客さまにお伝えしたい」と意欲的
老舗温泉旅館で出合える
山梨ワインの新しい魅力
確かに、そのラインナップは秀逸のひと言で、日本ワインの黎明期を牽引した老舗から、ワイン業界で注目される気鋭の造り手など、個性溢れる生産者を選んでいる。甲州やマスカット・ベーリーＡ、甲斐ノワールなどの日本ならではの品種を前面に押し出し、甲州の辛口だけでも8種そろえている。ゲストからは「生産者ごとの味の違いがわかる」と好評を得ているというが、実は、白須氏自身にも新しい発見があったという。
「お客さまの中には『マルサン葡萄酒』が造る昔ながらのすっきりした甲州や、『くらむぼんワイン』のほんのり甘口タイプなどを美味しいとおっしゃるお客さまが多いのです。温故知新というか、また新しい山梨ワインの魅力に、私自身が出合えたように思いました」と笑顔を見せる。
ワインは、品種の個性が際立つものばかり。（左から）『甲州 百 2022年』（マルサン葡萄酒）はすっきりした味わい。ふくよかでみずみずしい『ラ・フロレット ハナミズキ ブラン 2022年』（奥野田ワイナリー）。『光 甲州 2020年』（ルミエールワイナリー）は樽熟成され、芳醇な味。『ラ・フィーユ ヤマ・ソーヴィニオン 2020年』（まるき葡萄酒）は華やかな香りと緻密なタンニン。品のあるブーケが魅力の「甲斐ノワール 2014年」（グランポレール）
山梨ワインラウンジの椅子に座り、グラスを傾けていると、次第にほのぼのとした気分になっていることに気付く。おそらくそれは、老舗温泉旅館ならではのどこか懐かしい空気感と、ホテル鐘山苑が大切にするおもてなしの精神に癒やされているからなのだろう。
ホテル鐘山苑に到着したら、まずは温泉に入ってリラックスし、甲州の辛口でアペリティフを。そして、ホテルご自慢の会席料理に舌鼓を打ったあとは、ラウンジに戻ってディジェスティフ（食後酒）―。ワイン好きにとって、こんな夢のような休日は、きっとここでしか味わえない。
富士山温泉ホテル鐘山苑
〒403-0032
山梨県富士吉田市上吉田東9-1-18
TEL.0555-22-3168
https://www.kaneyamaen.com/
text by Kimiko ANZAI, photographs by Hiroshi INOMATA
