「ベームスター」は、オランダ北西部ホラント州にある「ベームスター干拓地」(ユネスコの世界文化遺産に登録)で生産されているチーズだ。海水のミネラルをたっぷり含んだ牧草で育つ放牧牛の生乳を原料としたゴーダタイプのチーズで、クリーミーな口溶けと旨味たっぷりの濃厚な味わいが特徴。オランダでは長く愛され続けている。
作っているのは、この地にオフィスと工場を構えるメーカー「コノ」社。オランダ王室御用達の唯一のチーズであるベームスターを紹介する。
世界遺産の地で
美味しさをはぐくむ
コノ社の設立は1901年。ベームスター干拓地は17世紀初めに作られたオランダ初の大規模干拓地で、内海だった場所を5年かけて干拓工事を行い、農地や居住地にした。排水用風車を備えた運河や堤防、道路などが整然と区画された当時の文化的景観をよく残していることから、99年にユネスコ世界文化遺産に登録された。
かつては海だった土地のため、牧場には海水のミネラル分をたっぷり含んだ牧草が生い茂る。その無農薬の牧草を食べて育った乳牛の生乳を原料とするため、ベームスターはミネラル豊富で風味豊かに仕上がるのだ。
放牧で育つ「ハッピーカウ」
コノ社は2002年より、積極的な屋外放牧を推進。牛舎飼育ではなく、屋外放牧した乳農家には100kg当たり0.50ユーロのプレミアムを支払うシステムを、ヨーロッパで初めて導入した。22年には自社酪農場の97%が屋外放牧基準を満たし、放牧牛は年間平均191日間、牧草地で1日10時間以上草を食んでのびのびと育っている。
オフィスの窓からは、放牧された牛たちが太陽の光をたっぷり浴びながら牧草を食べたり、昼寝をしたりして過ごしている様子が見える。「ハッピーカウ」と呼ばれるストレスのない環境で育った乳牛の良質な乳が、ベームスターの濃厚な甘味と旨味を作り出しているのだ。
世紀を超え受け継がれる伝統製法
2014年に新工場を完成させたコノ社。現在は約500件の農家と契約し、年間約3万トンのチーズを生産している。製造の多くが近代化された今でも、チーズ職人たちの手によって昔ながらの製法と味が受け継がれている。
例えば、カード(牛乳のたんぱく質が固まったもの)をチーズマスター(*)と呼ばれる熟練したプロフェッショナルの手で混ぜ、カットする。オランダの大規模なチーズ生産者は通常は機械で行うが、コノ社はこの伝統的な手法を採用している。人の手が加わることでチーズの品質がよりしっかりと管理され、安定した美味しさにつながるからだ。さらに熟成庫には歴史を感じさせる木製の棚が並び、丁寧に熟成が行われている。
*チーズに精通し、生産・カット・保存に関する幅広い知識と経験を持つ人。季節・土地柄・乳農家・乳の質を考慮しながら、個性的な味わいを生み出している
王室に認められた味わい
ベームスターはオランダ王室御用達となっている唯一のチーズだ。厳しい審査を経て得られたこの称号は、美味しさと安全性の証明でもある。商品パッケージにも王冠のマークと王室の紋章、御用達の文字が輝く。
好みで選べる定番商品は6種類
熟成期間や使用乳のバリエーションにより展開されているベームスターシリーズの、定番商品を紹介しよう。
18週間熟成の『ベームスター ブラスカス』はまろやかな口当たりと甘味のある味わいで、チーズビギナーにもお勧め。
『ベームスター クラシック』は18カ月熟成。ヨーロッパ最大級の食品品評会「iTQi(International Taste & Quality Institute) 2019」で3ツ星を受賞した、世界的に認められた逸品だ。
26カ月間熟成の『ベームスターEXオールド』は甘味と旨味の余韻が長く、ナッティーな味わい。
世界最大級のチーズコンテスト「World Cheese Awards(ワールド・チーズ・アワード) 2017」で最高位スーパーゴールドメダルを受賞した『ベームスター ロイヤルグランクリュ』は、リッチな味わいと芳醇な香りを楽しめる(12カ月間熟成)。
山羊乳製の『ベームスター ゴート』は山羊乳独特のクセがなく、さっぱりとして親しみやすい味わいだ。
ラインナップが豊富なベームスター。好みやシーンによって選び、ぜひワインと合わせて楽しみたい。
text by Toko MIYAWAKI
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