カリフォルニアのナチュラルムーヴメントの先駆者で「*1スコリウム・プロジェクト」のアシスタントワインメーカーとして活躍していたアレックス・ピッツ氏と、ミシュラン3ツ星「メドーウッド」でソムリエをしていたマーティン・ウィンターズ氏がタッグを組み、共同で立ち上げたブランド「メートル・ド・シェ」は“カリフォルニアの今”がわかるワインである。
ブドウ品種本来の旨味を生かしたワイン
2012年、バークレーにシティワイナリーを設立したアレックス・ピッツ氏とマーティン・ウィンターズ氏。二人が絆を深めたのは、2ツ星レストラン「サイラス」で料理人をしていた時だった。彼らはさまざまなレストランで研鑽を積み、料理への飽くなき探求を続けていたが、その過程で、最高の食材から最高の一皿を完成させるシェフの道から、最高のブドウから最高のワインを造る醸造家にシフトすることを決断。星付きレストランでの経験から、旨味があり食事の邪魔をしないワインは ①高樹齢で健全なブドウ ②最小限の人的介入 という共通点があると感じていた。
それらをモットーにして立ち上げた「メートル・ド・シェ」では、人的介入を極力抑え、畑の個性を最大限に生かした、高品質でユニークなワイン造りに注力。自社畑は所有していないが、今まで培ってきた人脈やネットワークのサポートを得て、樹齢20年から100年を超えるまでのブドウを入手、畑もその多くがオーガニックやビオディナミを取り入れた栽培農家と契約している。ちなみにワイン醸造については、彼らがレストランで働いていた時に出会ったメンター、エイブ・ショーナー氏と*2レオ・ハンセン氏から広範囲にわたって指導を受けることができた。
ワインは無濾過・無清澄でありながら、色調には濁りがなくクリーン。その理由について「攪拌せず、重力に任せ、上澄みの部分だけを使う」とピッツ氏。加えて「土着酵母だけを使うので、発酵が途中でうまく進まなくなることがあるが、その時には攪拌を試みる、あるいは別の容器に移して空気と触れ合わせることで活性化を促す」とコメント。これらの手法もメンターから学んだもので、30~40年前のワイン造りが基本になっている。
ペアリングランチはカリフォルニアならではの名物「フィッシュタコス」にフォーカスし、恵比寿「TACOS BAR」のオーナー・シェフ、マルコ・ガルシア氏が手作りトルティーヤに旬の魚介類を使ったメニューを披露。シュナン・ブラン、ジンファンデル、カベルネ・ソーヴィニヨンの3品種と、レッドブレンド(グルナッシュ主体)の計6アイテムは、今のカリフォルニアの食を象徴するヘルシー&ナチュラルなスタイル。何より、体に負担が少ないアルコール度数は魅力だった。
*1「ワインを/に学ぶ」をコンセプトとするプロジェクトで、ネーミングはオーナーのエイブ・ショーナー氏がラテン語「scholion」(学校の意)から命名
*2ナチュラルで味わい深いシュナン・ブランを造るデンマーク人のワインメーカー。ワインディレクターから醸造家に転身し、2004年「レオ・スティーン」を設立(※2)
text & photographs by Fumiko AOKI