フランス・パリに本拠を置くオンラインワインオークションの世界的リーダー、イデアルワイン社(iDealwine)は4月23日、パリのレストラン「アストランス」で記者会見を開き、アンジェリック・ド・ランクサン社長、共同設立者のリオネル・クエンカ氏らが参加して同社の年次レポート「バロメーター」を発表した。この報告書は、2024年のワインオークション市場を詳細に分析し、25年に向けた主要なトレンドと展望を示すもの。地政学的な不安定さや経済的な逆風にもかかわらず、同社は過去最高のオークション取扱高を記録し、市場の底堅さを示した。
記録的な取扱高と市場動向
イデアルワイン社の発表によれば、2024年に同社経由で落札されたワイン数量は前年比17.7%増、750mlボトル換算で261,465本。金額では前年比15%増の3,910万ユーロに達した。しかし、ボトル1本あたりの平均落札価格は前年比1.9%の微減で149ユーロとなった。

イデアルワイン社の共同創設者:左から、リオネル・クエンカ氏、アンジェリック・ド・ランクサンさん、ニコラ・ボワロー氏
ブルゴーニュの優位揺るがず、DRCが市場を牽引
地域別動向では、ブルゴーニュ地方の優位性が際立っている。2019年にはボルドーが取扱高の40%を占めていたが、20年以降ブルゴーニュが逆転。24年も依然としてブルゴーニュが全落札額の45.2%を占め、市場を牽引している。これに対してボルドーは数量ベースでは32.8%とトップを維持するものの、金額ベースでは27%にとどまった。
ブルゴーニュでは特にドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)の存在感が圧倒的で、同ドメーヌだけで639ロットが落札され、総額265万ユーロ(前年比74%増)を記録。平均ボトル価格も4,142ユーロ(同6%増)となった。最高額ボトルもDRCのロマネ・コンティ2020年の20,375ユーロ(約326万円)で改めて卓越した人気を示した。

ブルゴーニュでは特にドメーヌ・ド・ラ・ロマネ・コンティ(DRC)の存在感が圧倒的。2024年の平均落札ボトル価格は4,142ユーロ(約67万円)
価格の地域差と多様化、サステナブルワインへの関心
平均価格が全体で微減する中、地域ごとの価格動向には大きなばらつきが見られた。シャンパーニュが平均16%下落した一方で、ルーションは24%上昇。そのほか、ジュラ(-15%)、ボルドー(-6%)、イタリア(-7%)などが下落。一方、サヴォワ(+18%)、ボージョレ(+16%)などは上昇した。
また、落札ボトルのワイン産地の多様化も着実に進んでいる。ジュラ(取扱高シェア2.4%)、ラングドック・ルーション(同1.7%)、シャンパーニュ(同5.6%)といった、あまり知られていない地域のシェアが拡大している。
ビオ(オーガニック)、ビオディナミ、自然派ワインへの関心も引き続き高い水準にある。2024年、ビオ/ビオディナミワインのシェアは数量ベースで28.4%、金額ベースで35.6%と安定しており、価格プレミアムの高さを裏付けている。自然派ワインもわずかにシェアを伸ばし、数量ベースで7.2%、金額ベースで7.6%となった。会見で、イデアルワイン社長のアンジェリック・ド・ランクサン氏は、これらのワインが単なるトレンドではなく、市場に定着した動きであることを示唆した。
国際戦略と市場の課題
イデアルワイン社は、60カ国に及ぶ購買層をもち、欧州(パリ、ボルドー、ボーヌ)、アジア(香港、シンガポール)に拠点を構えている。そして、2025年4月には米国・ニューヨークに新オフィスを開設した。現在、米国市場のシェアは全体の6%とまだ小さいものの、長期的な戦略的拠点と位置付けている。特に、トランプ大統領による関税政策の再燃懸念やドル安といった逆風がある中での進出は、同社の強い意志を示すものである。アジア市場(香港、シンガポール、韓国、日本など)は既に全体の25%を占める重要市場であり、今後は米国市場の開拓とともに、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどへの配送ルート拡大も視野に入れる。会見では、米国の顧客は希少性の高い自然派ワインなどを求める傾向があり、アジアの顧客とは異なるニーズがある点も指摘された。
2024年はウクライナや中東の紛争、インフレ、欧米での購買力低下といった厳しい外部環境に直面した年であった。特に米国での関税や為替変動は、市場参加者の「様子見」の姿勢を誘発した側面もある。しかし、イデアルワイン社は、個人のワイン愛好家が保有するセラーからの直接買い付けを強化し、DRCやペトリュスといった最高級銘柄だけでなく、まだ広く知られていない優れたドメーヌの掘り出し物を発掘・紹介することで、カタログの多様性と魅力を維持してきた。香港での長年の活動で培われた顧客サービスや、詳細な市場分析に基づく情報提供も、同社の強みである。
イデアルワイン社の報告書2024年『バロメーター』は、高級ワインオークション市場が、価格調整局面を経ながらも、取引量の増加によって成長を維持したことを示した。今後の鍵として、アンジェリック・ド・ランクサン社長は、ブルゴーニュの圧倒的な強さ、地域やスタイルの多様化、サステナブルなワインへの関心の定着、そしてグローバルな市場展開を挙げている。

レストラン「アストランス」の試飲昼食会で出されたボトル
●『シャンパーニュ ブノワ・マルゲ シャーマン 13』(Champagne Benoît Marguet « Shaman 13):ビオディナミ栽培の自然派シャンパーニュ、ドサージュゼロ
●『ヴァン・ド・サヴォワ ル・フー ドメーヌ・ベリュアール 2019年』(Vin de Savoie « Le Feu », Domaine Belluard 2019):サヴォワで最も有名なドメーヌのひとつ(現在はドメーヌ・デュ・グランジェが買収)
●『 コート・デュ・ジュラ テール・ブランシュ ドメーヌ・フランソワ・ルセ=マルタン 2016年』(Côtes du Jura « Terres Blanches », Domaine François Rousset-Martin 2016):ジュラを代表するドメーヌのひとつ。ウイエ製法のオーガニック自然派シャルドネ
●『ブルゴーニュ ル・ヴュー・サージュ - レ・オレ 2021年 赤』(Bourgogne Le Vieux Sage - Les Horées 2021 Rouge):ビオディナミ栽培、自然派ブルゴーニュ産ピノ・ノワール
●『アジャクシオ グラニット ヴァッチェリ 2021年 赤』(Ajaccio Granit Vaccelli 2021 Rouge):コルシカを代表するドメーヌのひとつ、シャッカレッルとニエルッチュのブレンド