ボルドーの「シャトー・ラスコンブ」はパリのレストラン「デュカス・バカラ」でワイン業界関係者向け昼食会を開き、CEOのアクセル・ハインツ氏が新キュヴェ「ラ・コート・ラスコンブ(La Côte Lascombes)」を発表した。これは新体制のもとで満を持して発表したもので、シャトーの未来像を明確に打ち出す重要な一歩だ。

歴史あるシャトーの新たな船出

1855年のメドック格付けで第2級に格付けされた「シャトー・ラスコンブ」は、マルゴー村の中心部に位置し、115haの広大なブドウ園を有している。シャトーの名前は、17世紀に現在のシャトーの礎を築いたアントワーヌ・ド・ラスコンブに由来する。

20世紀に入ってから、アレクシス・リシーヌ氏と米国投資家グループ(1952年〜71年)、バス・チャリントン社(71年〜01年)、コロニー・キャピタル社(01年〜11年)、フランスの保険相互会社 MACSF(11年〜22年)といった著名なオーナーによって運営され、それぞれが巨額の資金を投じて醸造所を刷新してきた。

そして、2022年、シャトー・ラスコンブは新たな展開を迎えた。ナパ・ヴァレーのワイナリーのオーナーで、ボルドーワイン愛好家として知られるアメリカ人実業家ゲイロン・ローレンス・Jr.氏が新オーナーとなり、同時にイタリア・トスカーナ地方で約20年間キャリアを積み、高い評価を得たワイン醸造家、アクセル・ハインツ氏がシャトー責任者兼醸造責任者として就任した。
ローレンス・Jr.氏の哲学は「品質こそがすべて」という一言に集約されるもので「ラスコンブの潜在能力を最大限に引き出し、マルゴーのテロワールの真の表現を追求したい」と語っている。

画像: 新キュヴェ『ラ・コート・ラスコンブ』とシャトー・ラスコンブCEOのアクセル・ハインツ氏(右)

新キュヴェ『ラ・コート・ラスコンブ』とシャトー・ラスコンブCEOのアクセル・ハインツ氏(右)

現代ワイン界で最も注目される醸造家の一人であるアクセル・ハインツ氏はドイツ生まれだが、ボルドー地方出身の母親の影響でワイン造りの道へ進んだ。ボルドーで醸造学を学び、フランス国家醸造士の資格を取得後「シャトー・ラ・トゥール・カルネ」や「シャトー・ラ・ドミニク」などで経験を積んだ。その後、2005年からイタリア・トスカーナ地方の名門「オルネライア」の醸造家として活躍。2015年からは「マッセート」のエステート・ディレクターも兼任し「スーパー・タスカン」のアイコンとしての地位を確立した。
彼の醸造哲学は「テロワールとの対話」にある。「自然が支配し、私は素材の声に耳を傾けるだけ。各区画の個性を理解し、その表現を最も美しい形で伝えることが私の役割だ」と語る。

「ラ・コート・ラスコンブ」――テロワールへの新たな挑戦

画像1: 「ラ・コート・ラスコンブ」――テロワールへの新たな挑戦

新キュヴェ「ラ・コート・ラスコンブ」は、シャトー敷地内で最も標高の高い「ラ・コート」区画から生産される。この名前は、かつてアントワーヌ・ド・ラスコンブが「最も美しい丘陵地」と称賛した場所に由来している。

約5haのこの区画の最大の特徴は、粘土石灰質の表土の下に青粘土の層が存在する特殊な地質構造にある。この青粘土は、メルロー品種の栽培において理想的な条件を提供し、保水力に優れながらも適度な排水性を維持する。そして、メドックで最も評価の高い区画と同様に「ラ・コート」は川を見下ろす位置にあり、ジロンド川からの海洋性気候の恩恵を受けながら、優れた日照条件も確保している。

画像2: 「ラ・コート・ラスコンブ」――テロワールへの新たな挑戦

2022年のファーストヴィンテージは、メルロー100%。ハインツ氏は「この土壌は地質学的な贈り物。青粘土のユニークな特性が、メルローに他では得られない表現をもたらす」と語る。青粘土は、カリウム不足により酸度レベルを向上させ、従来のメルローよりも引き締まった酸味と、長期熟成向きの構造を持ったワインが生まれる。

使用するブドウ樹は1980年代に植樹されたメルローの古木。22年産の収穫は9月8日から13日に実施された。醸造プロセスは、ハインツ氏の「優しい抽出」哲学に基づき、25〜30日間のマセラシオンを行い日々のテイスティングによって抽出レベルを調整する。

醸造哲学と技術革新の融合

新体制のシャトー・ラスコンブは、伝統的な醸造技術と最新設備を巧みに組み合わせている。21年に40のステンレススタンクからなる新しい醸造設備が導入され、各タンクに装備されたリアルタイムで温度、密度、発酵進行度をモニタリングできる装置により、それぞれ区画ごとの個別醸造を実現している。しかしハインツ氏は「技術は手段であって目的ではない。最終的には人間の感覚とテロワールとの対話が最も重要」と技術偏重を戒める。

「ラ・コート・ラスコンブ」の熟成は、果実本来の特性を保つためにフランス産の目の詰んだオーク材を使った新樽60%とアンフォラを使い、18〜20カ月間行われる。

画像: 醸造哲学と技術革新の融合

マルゴーのテロワールの新たな表現

22年ヴィンテージの特徴は、アルコール度数14.5%という力強さと、同時に保たれた酸味のバランスにある。黒い果実のアロマにスパイシーなニュアンスが重なり、口中では滑らかなタンニンと長い余韻が印象的だ。

「メルロー100%でこれほど構造のしっかりしたワインは珍しい」と、試飲会に参加したジャーナリストたちは評価した。青粘土土壌の特性により、カベルネ・ソーヴィニヨンに匹敵する骨格を持っている。従来、優雅さと繊細さで知られているマルゴー・ワインだが、この新キュヴェは力強さと深みを併せ持つスタイルで、マルゴー地区の新たな可能性を提示している。

国際市場での展開と未来戦略

「ラ・コート・ラスコンブ 2022年」の発売は25年9月。醸造チームは、23年、24年とヴィンテージを重ねることで、この区画のテロワールが一貫した品質とスタイルを生み出すことを確認した上で、満を持してファーストヴィンテージを市場に送り出した点に注目したい。初年度の生産量は約20,000本。 業界関係者の間では200ユーロ程度の市場価格が予想されている。

「私たちは過去の栄光にとらわれるのではなく、未来に向けた新たな伝統を創造したい」とローレンス・Jr.氏が語るように、今回の「ラ・コート・ラスコンブ」の発表は、歴史あるシャトーが現代の消費者に向けて送るメッセージであり、テロワール表現への新たなアプローチを示すものといってよい。同時に、ゲイロン・ローレンス・Jr.氏の アメリカ的な革新性とヨーロッパの伝統を重んじるアクセル・ハインツ氏の絶妙な融合によるものだ。

画像: 国際市場での展開と未来戦略

パリの美食とクリスタルが融合した輝きの空間「デュカス・バカラ」

発表昼食会が行われたレストラン「デュカス・バカラ」は、アラン・デュカスと、260年以上の歴史を誇るクリスタルブランドのバカラが手を組んだ、美食とアートが融合する施設だ。レストランのコンセプトは、「バカラの世界観を料理を通して味わう」ことで、シェフのクリストフ・サンターニュ氏とロビン・シュローダー氏が、アラン・デュカスの哲学を受け継ぎ、旬の食材をふんだんに使用した、季節感あふれるエレガントな料理を創り出している。もちろん、料理が盛り付けられる食器やグラスはすべてバカラ製。クリスタルの輝きが、テーブルを一層華やかに彩る。

当日のメニューは「3種の小皿料理」にシャンパーニュ『ピエール・ペテルス - レスプリ・ブラン・ド・ブラン グラン・クリュ 2018年』

画像: 「春野菜、プロヴァンスの庭」(左)に『シャトー・ラスコンブ』2023年と2016年。「白身魚のヒメジ、サリコルニ(海藻)、豚の耳」(右)に『シャトー・ラスコンブ』2022年と2010年

「春野菜、プロヴァンスの庭」(左)に『シャトー・ラスコンブ』2023年と2016年。「白身魚のヒメジ、サリコルニ(海藻)、豚の耳」(右)に『シャトー・ラスコンブ』2022年と2010年

画像: 「ほろ苦いアクセントのカカオニブを添えた牛肉」(左)「海藻とジャガイモ」(右)に『ラ・コット・ド・ラスコンブ 2022年』

「ほろ苦いアクセントのカカオニブを添えた牛肉」(左)「海藻とジャガイモ」(右)に『ラ・コット・ド・ラスコンブ 2022年』

画像: 「24カ月熟成コンテチーズとサン・ネクテールチーズ」(左)、「桃、ラズベリー、レッドカラント、ルッコラ」(右)に『シャトー・ラスコンブ 1985年・ジェロボアム』『シャトー・ラスコンブ 1970年・マグナム』

「24カ月熟成コンテチーズとサン・ネクテールチーズ」(左)、「桃、ラズベリー、レッドカラント、ルッコラ」(右)に『シャトー・ラスコンブ 1985年・ジェロボアム』『シャトー・ラスコンブ 1970年・マグナム』

This article is a sponsored article by
''.