1月17日、恒例のシャブリワインコンクールがブルゴーニュワイン委員会のシャブリ事務所で開催された。40周年を迎えた今回のコンクールは、国際的に知られたソムリエのジュリア・スカーヴォさんが審査委員長を務め、ジャーナリスト、ソムリエ、醸造専門家などワインの専門家65名がブラインドテイスティングを行い23本を選んだ。対象ミレジムはプティ・シャブリ、シャブリ、プルミエ・クリュが2024年産、グラン・クリュが2023年産。出品ボトルは例年300本前後だが、今年は233本と大幅に減った。これは、2024年産が春の霜や長雨など、気象条件に翻弄され、収穫量が大幅にダウンしたためだ。しかし、最終的に生き残ったブドウから造られたワインは、驚くほどピュアな酸と、繊細なアロマを湛えている。一方、グラン・クリュの対象となった2023年は、2024年よりも温暖で、果実の成熟度が非常に高く、熟した黄色い果実のニュアンスと、しっかりとした背骨の酸が全体を支えており、長期熟成への期待を抱かせる仕上がりとなっている。

画像: 第40回シャブリワインコンクールの審査員長を務めた、ソムリエのジュリア・スカーヴォさん。理知的な表現でワインの本質に迫る

第40回シャブリワインコンクールの審査員長を務めた、ソムリエのジュリア・スカーヴォさん。理知的な表現でワインの本質に迫る

審査員長を務めたジュリア・スカーヴォさんはルーマニア生まれ。2002年に渡仏。リヨン大学で数学の学位と数学教員免許を取得。ワイン関係では、ワイン教育の免状の最高位「WSET Level 4 Diploma」を取得し、2017年の欧州・中東・アフリカ(EMEA)最高得点で「IWSCトロフィー」受賞。また「マスター・オブ・ポート2017」優勝、「ルーマニア最優秀ソムリエコンクール2018」優勝、世界最優秀ソムリエコンクール5位など。日本酒への造詣も深く、ロンドンに本部を置く「サケ・ソムリエ・アソシエーション(SSA)」認定の「サケ・ソムリエ」資格を保持。さらに、フランスで開催される日本酒コンクール「Kura Master」において、2017年の創設時から審査員を務めている。

ジュリア・スカーヴォさんは審査結果発表の折、次のような挨拶をした。
「私はルーマニアで生まれましたが、23年前の2002年、フランスに養子として迎えられました。私のキャリアはリヨン大学の学生から始まり、そこからソムリエの世界へと飛び込んだのです。」
異国からやってきた若者がフランス語でワインを語り、ソムリエとして身を立てることがどれほど困難であったか。彼女はその間の苦労を「決して簡単ではなかった」と静かに語った。しかし、情熱が実を結び、国際ソムリエ協会東京大会で世界最優秀ソムリエコンクール第5位、そしてワイン専門誌のジャーナリストとして輝かしい実績を築き上げてきた。

「今日、この歴史あるコンクールの40周年目の審査委員長を務めることが出来たことを心から光栄に思います。私にとってシャブリは非常に思い入れのある土地です。2018年にはニースでシャブリのマスタークラスを開催しました。今回も、私はニースからここへ駆けつけました。そして明日、日本酒のコンクールのために日本へと向かいます。こうした移動距離の長さを厭わずシャブリに駆けつけることこそが、私がどれほどシャブリを愛しているかの証です」

スカーヴォさんはテイスティングの哲学について、18世紀の哲学者の著作を引用して次のように語った。

「私たちは今日、個人の主観を超えた『客観的な美味しさ』を追求するために、味わいの感覚を研ぎ澄ませてきました。テイスティングにおいて、自分の好みや背景を完全に消し去ることはできません。しかし、このコンクールには40年かけて築き上げた『標準』があります。それは、時代を超えて共有されるシャブリの美学です」

そしてシャブリをクラシック音楽の作曲家に例えて「シャブリは、ベートーヴェンやモーツァルトの音楽のようなものです。それらは特定の時代に作られたものですが、時代を超越し、常に現代的であり続けます。シャブリもまた、ヴィンテージごとにその姿を変えながら、常にその時代の『最先端』として私たちを驚かせてくれるのです」

さらに、今回のコンクールで対象となったミレジムについて「2024年は、栽培家にとって本当に過酷な年でした。ベト病や天候不順との闘い......。しかし、今日私たちが手にしたグラスの中には、その苦労を微塵も感じさせない『(水晶のような透明感(クリスタラン』がありました。一部のワインに見られた繊細な還元のニュアンス、そして、決して重々しくない『無駄のない流線型』の構造。私たちはシャブリに過度なボリュームや厚みを求めてはいません。私たちが愛してやまないのは、あのシャープな酸と長く続くミネラルの余韻なのです」

最後に、スカヴォさんは、困難な年であってもテロワールの個性を純粋に抽出したヴィニュロンたちの技術と精神を高く評価した。

画像: 40年前にシャブリワインコンクールを立ち上げた「ドメーヌ・デ・マロニエ」の元オーナーのベルナール・ルグラン氏。退職後も後進の育成にあたっている

40年前にシャブリワインコンクールを立ち上げた「ドメーヌ・デ・マロニエ」の元オーナーのベルナール・ルグラン氏。退職後も後進の育成にあたっている

試飲を終え、結果発表の合間に、シャブリ・ワインコンクールの創設者で、シャブリの名門、「ドメーヌ・デ・マロニエ」の元オーナーのベルナール・ルグラン氏に話を聞いた。ベルナール・ルグラン氏は1976年にフレイ村の家族の土地にブドウを植え、ドメーヌを立ち上げたが、後継者に恵まれず、2013年に「ドメーヌ・ド・モーペルテュイ」のローラン&マリー・ノエル・テルランク夫妻にドメーヌを託した。シャブリの本質はフレッシュなミネラルと果実味にあるとして、一貫してステンレスタンク醸造にこだわってきた。そのピュアーな造りは新しいオーナーになっても確実に継承されている。ルグラン氏は温厚で誠実な人柄として知られており、地元のフレイ村の人々から絶対的な信頼を勝ち取り30年間にわたり村長を務めた。その後現役を引退したが、現在も多くの人に慕われている。

――最初にルグランさんの経歴、そしてシャブリワインコンクールを立ち上げた経緯について話してください。
ベルナール・ルグラン氏(以下ルグラン):私はシャブリから6キロほど離れたフレイ村で、「ドメーヌ・デ・マロニエ」というブドウ園経営を行っていた元ヴィニュロンです。今はもう引退していますが、今から約40年前、まだ若かった私は、シャブリのワイン祭りに新しい風を吹き込みたいと考えた。そこでルネ・ドヴィサ氏に「コンクール(品評会)をやらないか」と提案したんだ。当初、彼は「そんなことがうまくいくのか?」と懐疑的だったが、私は「やってみなければわからない」と押し切った。最初はAOCシャブリから始め、次にプルミエ・クリュ、そしてプティ・シャブリ、最後にグラン・クリュと対象を広げていった。

――今やそのコンクールは非常に大きな影響力を持っていますね。
ルグラン:驚くべきことに、非常にシンプルで親しみやすい試みとして始まったこのコンクールは、10年後にはヨーロッパレベルで認められる権威あるものになった。今日もこうして多くの人々が集まっているのを見ると、シャブリのワインがいかに進化し、尊重されるようになったかを実感する。

――40年前と今、シャブリを取り巻く環境はどう変わりましたか?
ルグラン:知名度と評価の上がり方は、信じられないほどだ。40年前は、シャブリについて語るのは本当に大変なことだった。例えば、当時コート・ドールの人々からは「ああ、シャブリか......あそこは北の方で、大したことない(痩せたワインだ)」と、冷ややかな目で見られていたんだ。

――それが今では、ブルゴーニュの他の地域の造り手もシャブリに注目していますね。
ルグラン:その通りだ。今やコート・ドールやソーヌ・エ・ロワールの名門ドメーヌが、こぞってシャブリに畑を持ちたがっている。これはシャブリの持つ「ミネラル感」という特性が、世界中で愛されるようになったからだ。私たちは日本、アメリカ、北欧など世界中を回るが、どこへ行ってもシャブリは大成功を収めている。

――醸造のスタイルについては、どのような変化がありましたか?
ルグラン:非常に興味深い変化があった。2000年代の初め頃、世界的に「樽」のニュアンスを効かせたスタイルが流行した時期があった。当時は誰もがコート・ドールのようなスタイルを目指し、新樽を多用していた。それが当時の「流行」だったんだ。

――その流行は、シャブリにとって正解だったのでしょうか?
ルグラン:多くの造り手がすぐに気づいた。「これは違う、引き返さなければならない」とね。せっかくのシャブリの美徳である「ミネラル感」が、樽のニュアンスに殺されてしまっていたからだ。その後、彼らは新樽ではなく、コート・ドールで2、3年使われた古樽を導入するなどして、構造は与えるが木を感じさせすぎない、軽やかでフレッシュなスタイルへと回帰していった。

――最近はアンフォラやコンクリートタンクを使う若手も増えていますね。
ルグラン:ああ、新しい世代は非常に野心的だ。有機栽培やビオディナミに取り組み、アンフォラや卵型のコンクリートタンクなど、さまざまな実験的な試みを行っている。もちろんすべてが成功するわけではないが、こうしたイノベーションこそが、シャブリの評価をさらに高めているんだと思う。

――シャブリの未来について、懸念されることはありますか?
ルグラン:シャブリは今、非常に良い位置にいる。フランスの他の多くの産地が苦戦する中で、シャブリは安定していると言えるだろう。ただ、慎重である必要はある。シャブリの作付面積は約6,000haあるが、これ以上増やすべきではない。中には「もっと増やせ」と言う者もいるが、それは間違いだ。この限られたテロワールを守り、質を維持することこそが、世界に愛されるシャブリであり続けるための唯一の条件なんだと思う。

「シャブリの真髄はミネラルにあり」というルグラン氏の言葉には、40年という歳月をかけて、流行に流されず、自分たちの土地の個性を再発見し、磨き上げてきた揺るぎない自信が宿っているように感じた。

画像: シャブリワイン委員会の敷地にある「シテ・デ・クリマ・エ・ヴァン」の館内で結果発表するブノワ・ドロワン氏と審査委委員長のジュリア・スカーヴォさん

シャブリワイン委員会の敷地にある「シテ・デ・クリマ・エ・ヴァン」の館内で結果発表するブノワ・ドロワン氏と審査委委員長のジュリア・スカーヴォさん

第40回 シャブリ・ワイン・コンクール 受賞結果

■ プティ・シャブリ 2024 (Petit Chablis 2024)

• 【金賞】 ドメーヌ・フルニヨン (Domaine FOURNILLON)
• 【金賞】ヴァンサン・ヴェンジエ(Vincent WENGIER)
• 【銀賞】 ドメーヌ・ダニエル・ダンプ・エ・フィス (Domaine Daniel DAMPT & Fils)
• 【銀賞】 ドメーヌ・ジャン・デュリュップ・ペール・エ・フィス (Domaine Jean DURUP Père et Fils)
• 【銅賞】 ヴノン・エ・フィス - トゥ・ダン・グラン (VENON et fils -- Tout d'un Grand)

■ シャブリ 2024 (Chablis 2024)

• 【金賞】 ドメーヌ・カミーユ・エ・ローラン・シャレール (Domaine Camille et Laurent SCHALLER)
• 【金賞】 ドメーヌ・セバスチャン・ダンプ (Domaine Sébastien DAMPT)
• 【銀賞】 ドメーヌ・ド・ラ・コルナス (Domaine de La CORNASSE)
• 【銀賞】 ドメーヌ・ド・ピス・ルー - キュヴェ・アントワーヌ (Domaine de PISSE-LOUP -- Cuvée Antoine)
• 【銅賞】 ドメーヌ・ド・ラ・モット - ジャルダン・デュ・キュレ (Domaine de La MOTTE -- Jardin du Curé)
• 【銅賞】 ドメーヌ・ヴァントゥーラ (Domaine VENTOURA)

■ シャブリ・プルミエ・クリュ 2024 左岸 (Chablis 1er Cru 2024, Rive Gauche)

• 【金賞】 ドメーヌ・エロディ・シャルモー - モンマン (Domaine Elodie CHALMEAU -- Montmains)
• 【銀賞】 ドメーヌ・ヴォコレ・エ・フィス - モンマン (Domaine VOCORET et Fils -- Montmains)
• 【銅賞】 ドメーヌ・ラロッシュ - ボーロワ (Domaine LAROCHE -- Beauroy)
• 【銅賞】 ドメーヌ・セバスチャン・ダンプ - コート・ド・レシェ (Domaine Sébastien DAMPT -- Côte de Léchet)

■ シャブリ・プルミエ・クリュ 2024 右岸 (Chablis 1er Cru 2024, Rive Droite)

• 【金賞】 ドメーヌ・ラロッシュ - フルショーム (Domaine LAROCHE -- Fourchaume)
• 【銀賞】 ジャン=マルク・ブロカール - ヴォーコパン (Jean-Marc BROCARD -- Vaucoupin)
• 【銀賞】 ドメーヌ・パニエ - モン・ド・ミリュー (Domaine PAGNIER -- Mont de Milieu)
• 【銅賞】 ドメーヌ・デ・アット - ロム・モール (Domaine des HÂTES -- L'Homme Mort)
• 【銅賞】 ドメーヌ・アラン・エ・シリル・ゴートロン - レ・フルノー ヴィエイユ・ヴィーニュ (Domaine Alain et Cyril GAUTHERON -- Les Fourneaux, Vieilles Vignes)

■ シャブリ・グラン・クリュ 2023 (Chablis Grand Cru 2023)

• 【金賞】 ドメーヌ・デ・マランド - レ・クロ (Domaine des MALANDES -- Les Clos)
• 【銀賞】 ドメーヌ・パンソン - レ・クロ (Domaine PINSON -- Les Clos)
• 【銅賞】 ドメーヌ・デ・マランド - ヴォーデジール (Domaine des MALANDES -- Vaudésir)

2024年のシャブリは、近年まれにみる困難なヴィンテージとなった。ブルゴーニュワイン委員会の公式リリースは「洪水、過剰な雨、霜、雹...ブドウの樹を救うものは何もなかった。生産量は2023年の半分以下。しかし残ったものの品質は非常に高い」と記している。
特に有機農法の生産者や被害の大きかった区画では量が極めて少なく、割り当てによる入手は困難を極める。しかし入手できた場合は、1980〜90年代のクラシックなシャブリを彷彿とさせる「本物のテロワール表現」を楽しめる1本となるだろう。被害を免れて収穫されたブドウから生まれたワインは、過去数十年間に失われていた「本物のシャブリらしさ」(生き生きとした酸味、軽やかなボディ、低アルコール、そして突き刺さるようなミネラル感)を取り戻したものとして、多くの評者から高く評価されている。購入のポイントとしてはプルミエ・クリュとグラン・クリュが特にお勧め。低収量による高い濃縮度と酸が魅力。村名シャブリは区画による差が大きいため産地表示に注目。飲み頃は2026年〜(一部グランクリュは2028〜35年)。有機・ビオディナミ生産者のものは供給が非常に少ないため早めに確保すべきだ。

2024年 気象データ・収量分析・近年ヴィンテージ比較・市場動向など

画像1: 2024年 気象データ・収量分析・近年ヴィンテージ比較・市場動向など
画像2: 2024年 気象データ・収量分析・近年ヴィンテージ比較・市場動向など
画像3: 2024年 気象データ・収量分析・近年ヴィンテージ比較・市場動向など
画像4: 2024年 気象データ・収量分析・近年ヴィンテージ比較・市場動向など
画像5: 2024年 気象データ・収量分析・近年ヴィンテージ比較・市場動向など
画像6: 2024年 気象データ・収量分析・近年ヴィンテージ比較・市場動向など
画像7: 2024年 気象データ・収量分析・近年ヴィンテージ比較・市場動向など
画像8: 2024年 気象データ・収量分析・近年ヴィンテージ比較・市場動向など

This article is a sponsored article by
''.