福井県越前市の穏やかな丘陵地に、「SIX THREE ESTATE WINERY」が誕生した。

訪れてまず印象に残るのは、ブドウ畑の向こうに広がる静かな風景。
日本海にほど近いこの土地は、冬には雪が降り、季節ごとに光の表情が大きく変わる。そんな越前の自然の中で、この「土地の文化そのものをワインとして表現したい」と話すのはオーナー・醸造家の西野恒氏。
西野氏は、金属加工を主に行う企業「エイティーンスコーポレーション」のオーナーでもある。元々ワイン好きだった西野氏は、神戸のレストランで飲んだ「KENZO ESTATE」の『紫鈴』との出合いに衝撃を受け、国内外のワイナリーへ訪れるようになった。その後、ワイン造りに携わりたいと思うようになり福井県が主催していた「ふくいワインカレッジ」を受講したという。

「SIX THREE ESTATE WINERY」は単なる日本ワインの新規参入ではない。「越前」という土地の文化を、ワインという形で表現しようとしているのだ。
ブドウ畑は、かつて耕作放棄地だった土地を再生して始まった。有機栽培で自然発酵、無添加、無濾過、野生酵母といったアプローチで醸されるワインは、人の手を入れすぎず、越前の風土が持つ表情をそのままワインに映し出そうとしている。2023年にはワイナリーが本格稼働し、越前から世界へ向けたワイン造りがスタートした。


『SIX THREE ESTATEというワイナリー名には、赤ワイン6種と白ワイン3種を軸に、福井のテロワールを表現したいという意味を込めています』
3ヘクタールの畑に栽培している品種は、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、ガメイ、ピノ・ノワール、シラー、マルベック、プティ・ヴェルド、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、ゲヴュルツトラミネール、セミヨンなど12品種。
「いくつかの品種は、ワインの味わいを整えるための補助品種として栽培します。プティ・ヴェルドやマルベックは味わいに深みをだし、また色づきを良くする。セミヨンは酸味を出したい時のために」と話す。

自然のゆらぎを、そのままボトルに
自然に寄り添って造るSIX THREE ESTATE WINERYのワインは、味わいが毎年異なるのも魅力。濁りと旨味があり「僕が造るのは“変態ワインです”。旨味の雑味もワインの個性を造る大事な要素」と西野氏。
代表的なアイテムの一つである『ECHIZEN』は、福井の伝統工芸である越前焼の陶器ボトルを採用。粘土質の畑の土壌と同じルーツを持つ陶土で作ったボトルは、ワインの熟成にも影響を与えるという。グラスに注ぐ所作の美しさまで計算されたデザインは、2024年のグッドデザイン賞も受賞した。

自然の揺らぎを受け入れながら、土地と文化を1本のワインに結びつける。味わいだけでなく、器や時間の流れまで含めて楽しませてくれるのが、このワイナリーの魅力だ。
グラスに注がれた瞬間から、福井の風土が立ち上がる。型に収まらない個性こそが、SIX THREE ESTATEのワインを忘れがたいものにしている。
「SIX THREE ESTATE WINERY」
住所:福井県越前市葛岡町8-10-1
電話:0778-24-5563
ホームページ:
https://six-three-estate.jp/
越前の風土を一皿に

ワイナリーには、レストラン「TSUKIHI」を併設。越前の原風景を望む空間で、地元食材とワインをペアリングする体験は、この土地の食文化を立体的に感じさせる。

オープンしたのは2025年2月。TSUKIHIの空間づくりには、福井の文化と手仕事が随所に息づいている。落ち着いた内装には土地の素材が生かされ、器やカトラリーにも福井ゆかりのものを採用。食事の時間の中で、自然と地域のものづくりに触れられる設えとなっている。ワインと料理だけでなく、器や空間を通して福井の風土を感じられるのも、このレストランならではの魅力だ。

大きな窓の向こうには醸造所の空間。静かな空間で供されるのは、福井の食材を軸にしたコース料理。越前ガニ、若狭湾の魚介、山間の野菜など、この土地ならではの恵みをお皿に表現する。

料理は繊細でありながら、素材の力強さを引き出す構成。そこに寄り添うのが、同じ土地で生まれたワインだ。自然発酵を基本とするワインは、果実のピュアな表情と穏やかな酸を備え、料理の味わいを引き立てながら、皿の表情に奥行きを与えていく。
ここでのペアリングは、単なる“合わせる”という感覚とは少し違う。ワインも料理も同じ風土の中で生まれているため、互いが自然に溶け合うのだ。グラスを傾けると、料理の印象が少し変わり、次の一口がまた新しい発見をもたらす。

醸造所を間近に感じながら食事ができるのも、この場所ならではの魅力だ。畑で育ったブドウがワインとなり、そのワインが料理とともにテーブルに届く。そんな一連の流れを体感できるレストランは、日本でもまだ多くない。TSUKIHIでは、ワインが生まれる場所の空気まで含めて味わうことができる。




「TSUKIHI」
住所:福井県越前市葛岡町8-10-1
電話:0778-24-0318
ホームページ: https://hp.restaurant-tsukihi.jp/
営業時間:
ランチ 12:00~(土日中心)/ディナー 17:30~
定休日:水曜
※完全予約制
料金目安:
ランチコース 12,100円〜/ディナーコース 22,000円
ワインペアリング付き 33,000円
ノンアルコールペアリング付き 27,500円
(いずれも税込、サービス料別の場合あり)
福井は、食材の宝庫
日本海の豊かな魚介、山あいで育つ滋味深い野菜、そして土地に根付く食文化。福井の魅力は、何より“食材の力”にある。その素材を生かし、土地の個性を一皿に表現する店もまた、この地域の食文化を支える存在だ。ここでは、越前を訪れたならぜひ立ち寄りたい、食の魅力を体感できる二つの店を紹介する
「むつのはな」
坂井市丸岡町にある「むつのはな」。茶懐石を再構成したコース料理を提供している。
越前の食材を軸に、丁寧な仕事で料理を仕立てるだ。若狭湾の魚介や地元野菜など、その季節に最も良い素材を見極め、一皿に表現する。派手さよりも、素材の持ち味を引き出す誠実な料理が印象的。福井の豊かな食材の力を、静かに実感させてくれる料理店である。




「むつのはな」
住所:福井県坂井市丸岡町楽間12−3
電話:090-5178-2414
ホームページ: https://ricka-yukinohana.com/
営業時間:11:30〜15:00
定休日:月曜・火曜・木曜・日曜 予約制
「野尻ケイク 草と花」
鯖江市下新庄町にある菓子研究家・野尻ケイク氏による菓子店。店名の通り、草花の香りや季節の素材を取り入れた菓子は、繊細でどこか詩的な余韻を残す。併設されている「野尻ケイク 草と花 別館茶房」では茶懐石と菓子皿を提供。花香を茶葉に移した花茶や発酵玄米粥など、素材の個性を引き出した食を、静謐な空間でいただくことができる。
福井の自然から着想を得た味わいは甘さに頼らず、素材の個性を静かに引き出す。美しい世界観とともに、福井の新しい食の魅力を感じさせる一軒だ。



「野尻ケイク 草と花 別館茶房」
住所:福井県鯖江市下新庄町57-15
電話:0778-42-6469
ホームページ:https://nojirikeiku.com/
営業時間:
ショップ 10:00〜17:00(売り切れ次第終了)
別館茶房 12:00〜16:00(要予約)
定休日:火曜(茶房は営業日変動あり)
席数:約12席
料金目安:
茶懐石(お粥と季節の菓子皿) 約5,000〜5,500円
福井は、酒どころでもある
山々に抱かれ、清らかな水に恵まれる福井県は、日本酒造りが盛んな土地としても知られる。県内には多くの酒蔵が点在し、それぞれが土地の水と米を生かしながら個性ある酒を醸している。穏やかな旨味と食事に寄り添う味わいは、越前ガニや若狭湾の魚介など豊かな食文化とも相性がよい。ワインと同様に、この土地の風土を映すもう一つの酒として、日本酒もまた福井の魅力を語るうえで欠かせない存在だ。
吉田酒造「永平寺白龍」
永平寺町に蔵を構える吉田酒造は、日本酒「永平寺白龍」で知られる酒蔵。近年、新たな酒造りの拠点として誕生したのが「吉峯蔵」だ。施設内には酒造りの工程をたどる見学ルートが設けられ、蔵の仕事を間近に感じることができる。見学後には試飲も用意され、永平寺の清らかな水と福井の米から生まれる酒の味わいを確かめることも可能。自然に囲まれた環境の中で、日本酒の魅力と福井の風土を体感できる場所となっている。


「永平寺白龍 吉峯蔵」
住所:福井県吉田郡永平寺町北島7-22
電話:0776-64-2015
ホームページ:https://yoshida-brewery.jp
営業時間:10:00〜16:00
定休日:不定休
