ボルドーの4つの格付けシャトーを始めとする多数のドメーヌを擁するベルナール・マグレ氏が、2021年にリリースした新ブランド「ブルー・ド・メール」が、発売からわずか5年で年間販売数量500万本、世界55カ国への輸出という驚異的な成長を遂げている。この成功は、単なる低価格帯ブランドの台頭ではない。伝統的な格付けワインの頂点を知るマグレ氏が、世界のワイン市場における「消費構造の変容」を冷徹に分析し、戦略的に構築した結果だ。

産地特性を活かした多様な商品構成

「ブルー・ド・メール」の最大の特徴は、単一の銘柄ではなく、現代の需要に応じた包括的なコレクションである点にある。ラインナップはIGPペイ・ドック、IGPメディテラネ、そしてAOPコート・ド・プロヴァンスの3つの産地を軸に構成されている。

主力の「ロゼ(IGPペイ・ドック)」は、グルナッシュ60%、サンソー40%のブレンド。夜間収穫と低温発酵によって酸を保持し、白桃やフランボワーズのアロマを引き出している。一方で、最高級キュヴェの「クロ・ブルー・ド・メール(AOPコート・ド・プロヴァンス)」は、粘土石灰質の土壌から年間約5000本のみ限定生産される希少品であり、サンソー75%、グルナッシュ25%の比率で醸される。

また、白ワインの動向も見逃せない。主力となる「ブラン(IGPペイ・ドック)」は、ソーヴィニヨン・ブラン90%にシャルドネを加え、柑橘の香りとミネラル感の均衡を図っている。さらに、現代的なニーズに対応し、アルコール度数を9%に抑えたシリーズや、シャルドネ100%の白スパークリングなども展開し、製品の幅を広げている。

画像: 産地特性を活かした多様な商品構成

変容する市場とロゼ・白の躍進

このブランドが急成長を遂げた背景には、世界的なワイン消費の地殻変動がある。赤ワインの消費が減退する一方で、白とロゼの市場は極めて堅調だ。フランス国内の統計によれば、2023年には白ワインの生産量が史上初めて赤ワインを上回った。また、2016年から2025年にかけて、白ワインは6ポイント、ロゼは4ポイント、市場における販売数量の占有率を高めている。

特にロゼは、季節を問わない通年消費の商材へと進化している。世界のワイン消費量の約10%を占めるまでに成長し、その需要はミレニアル世代やZ世代といった若い層に支えられている。フランスの大手量販店「カルフール」のワイン購買責任者であるジャメル・ディブ氏は、消費者が「難解な知識を必要としない、親しみやすく爽快なワイン」を求めていると指摘する。また、ロゼワインの約7割が家庭で消費されるという現状において、5~6ユーロ(ヨーロッパ小売価格)という手の届きやすい価格設定は、極めて強力な競争力となっている。

画像: 変容する市場とロゼ・白の躍進

経験価値を売る視覚と物語の戦略

フランスのビジネススクールの名門、HEC経営大学院のジャン・ノエル・カプフェレ教授は、「ブルー・ド・メール」を“ポスト・テロワール”ブランドと定義する。これは、ワインの価値を醸造学的数値や厳格な格付けではなく、消費者の「感情」や「生活様式」に紐付けて作り上げる手法だ。

その象徴が視覚戦略で、瓶にはワインの淡い色調を際立たせるエクストラホワイトガラスの瓶を採用し、ラベルには南仏のビーチキャビンやヨットを想起させる青と白の横縞模様を施している。このデザインは、SNSを通じたデジタル広報とも連動しており、インスタグラム等の映像によって「地中海の光と風」という物語を、抜栓前から消費者に刷り込むことに成功している。

ベルナール・マグレ氏は、「ワインは日常生活の伴侶でなければならない」と断言する。格付けシャトーが「特別な瞬間のための贅沢」を売るならば、ブルー・ド・メールは「日常の中の小さな解放」を売る。この二極の戦略こそが、マグレ氏が描く現代ワインビジネスの核にある。市場が複雑化し、伝統的な価値観が揺らぐ中で、「ブルー・ド・メール」の躍進は、これからのワインブランドビジネスを進める上でのひとつの道筋を提示している。

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