2025年産のボルドーワインは、1991年以来、最少の収量ながら、記録的な早期収穫と冷涼な秋の気候に恵まれ、凝縮感と気品、そして予想外のフレッシュさを兼ね備えたヴィンテージとなった。現地の醸造関係者達は総じて「極めて高い品質」と評価しており、気候変動への適応力を示す年としても注目を集めている。そんな中で、行われたボルドープリムールの販売は、厳しい経済状況の中で、まずまずの成功をおさめた。そして、従来以上に1855年の格付けシャトーの価値を再評価する動きが強まっている。「1855年公式格付けシャトー協議会」のフィリップ・カステジャ会長に、1855年の格付けの「昨日、今日、明日」を語っていただいた。

1855年格付を代表するマルゴー第1級のシャトー・マルゴー正面
1855年の格付けが、ナポレオン3世の命により、わずか数週間でボルドー商工会議所の仲買人組合によって作成されたといわれる。しかし、カステジャ氏は「それが事実だとしても、この格付けは、100年から150年にわたるテイスティング結果と、その期間に取引された価格の集大成だ。当時の『価格=品質』という判断基準は、一過性のものではなく、1世紀半という膨大な時間の蓄積から導き出された結論であった」と補足する。
よく知られているように、この170年間で、1973年のシャトー・ムートン・ロートシルトの昇格を除き、格付けに実質的な変更は加えられていない。カステジャ氏はこれを「硬直」ではなく、システムの「完成度」の証だと見ている。 「格付けの中で、ある時期に特定のシャトーが流行したり、別の時期に別のシャトーが注目されたりという特に『オーナーの人間的な側面』に基づく評価の揺らぎはある。しかし、格付けされるべきシャトーはすべて網羅されており、どれ一つとして忘れ去られてはいない」。

シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス(左)とシャトー・ピション・ロングヴィル・バロン(右)
右岸シャトーが除外された歴史的背景
今日、ポムロールやサン・テミリオンの偉大なワインが1855年のリストに含まれていないことを疑問視する声は多い。これに対し、カステジャ氏は当時の経済的・地理的状況を説明する。
「1855年当時、右岸のワインは左岸に比べて30%から50%も安く売られていた。また、ガロンヌ川に最初の橋が架かってからまだ20年ほどしか経っておらず、右岸と左岸は実質的に『別の国』のような関係だった」。当時の市場価値に基づいて作成された格付けにおいて、右岸を左岸と同列に扱うという議論自体、当時は存在し得なかったというのだ。

シャトー・コス・デストゥルネル(左)とシャトー・ラフィット・ロートシルト(右)
近年のサン・テミリオン格付けを巡る混乱やスキャンダル(2012年の見直しに端を発する利益相反問題など)について、サンテミリオン・グラン・クリュ・クラッセのシャトー・トロット・ヴィエイユのオーナーでもあるカステジャ氏は自身の経験を交えつつ、1855年格付けの優位性を説く。
「ワインは時間の産物です。ブドウを植えてから、グラン・クリュ・クラッセの名にふさわしいワインを造るまでには10年から30年の歳月がかかります」。10年ごとに格付けを見直すサン・テミリオンのシステムに対し、カステジャ氏は「10年というスパンはワインの投資や品質の真価を問うには短すぎる」と指摘する。「格付けの永続性と安定性こそが、投資家からの信頼を勝ち得ている理由です。25年、30年という長期的な努力の継続が認められるからこそ、人々は1855年のシャトーに投資する」

シャトー・ランシュ・バージュ(左)とシャトー・レオヴィル・ラス・カーズ(右)
気候変動への挑戦と、アイデンティティの維持
地球温暖化はボルドーにも影を落としているが、カステジャ氏は冷静だ。「気候変動が格付けを変えることはない」と断言する。現在、格付けシャトーは環境変化に対応するため、最先端の技術を導入している。しかし、それは安易な品種変更を意味しない。「新しい品種の導入は今のところ議題に上がっていない。私たちはまず、クローンや台木の選定を通じて、現在の環境で最高品質のワインを造り続ける方法を模索している」
彼によれば、偉大なワインの価値は1年や2年で測るものではなく、50年、100年という長いスパンで測られるべきものである。「グラン・クリュを造るということは、時間に刻まれるプロジェクトに参画することだ」と強調する。
最後に、これからの170年への願いを問うと、彼は微笑んでこう答えた。 「170年前、車も鉄道も電気もない時代に、農産物の格付けを作ろうとした先人たちは、驚くべき、あるいは狂気とも言えるほどの先見の明を持っていた。この素晴らしい遺産を適切に管理し続けること。それがボルドーワイン全体を支え、維持していくための基盤になる」

