毎年3月末から4月上旬にかけてフランス、ボルドーで行われている「ボルドー・プリムール」の試飲会が、今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のために中止となった。そんな中で「バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド」社は、このほど関係先に『シャトー・ムートン・ロスチャイルド』をはじめとする、同社が扱う2019年産の試飲ボトルを配布し、オンラインによるワインテイスティングを行った。

画像1: 【ボルドープリムール2019】「バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド」社 オンラインワインテイスティング

 配送されたボトルは『シャトー・ダルマイヤック 2019年』『パストゥレル・クレール・ミロン2019年』、『シャトー・クレール・ミロン 2019年』『プティ・ムートン・ド・ムートン・ロスチャイルド 2019年』『シャトー・ムートン・ロスチャイルド 2019年』そして白ワイン『エール・ダルジャン 2019年』の6本。

 シャトー・ムートン・ロスチャイルドの総製造責任者であるフィリップ・ダルアン氏、CEO代表取締役 フィリップ・セレス・ド・ロスチャイルド氏と3人で約1時間のウェブテイスティングと意見交換を行った。

画像: バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社、フィリップ・セレス・ド・ロスチャイルド社長(左)と総製造責任者 フィリップ・ダルアン氏(右)

バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社、フィリップ・セレス・ド・ロスチャイルド社長(左)と総製造責任者 フィリップ・ダルアン氏(右)

 2019年の天候は、2019年月別平均気温のグラフで分かるように、2月、3月は暖かく発芽は比較的早かった。しかしその後、4月から5月にかけて気温が下がり、6月初めの開花は少し寒冷な気温の下で進んだ。その後6月中旬から大変暑く乾燥した天候に変わったが、幸い春に十分雨が降ったためブドウ樹は旱魃で成長を妨げられることなく順調に結実した。

画像2: 【ボルドープリムール2019】「バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド」社 オンラインワインテイスティング


 7月、8月に入ってから局地的に雷雨があったが、全体的にかなり乾燥した暑い天候が続いた。ボルドー大学醸造学研究所の観測資料によると、2019年の7月は気温30℃を超える日が17日、35℃を超える日が5日もあり、過去30年でもっとも暑い7月となった。幸い、9月に入ってからは適度な雨があり、メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨンともに申し分なく熟した。シャトー・ムートン・ロートシルトがまとめた2019年の降水量グラフからも、7月、8月、9月と好天が続き、天候が崩れる前に完璧に熟したブドウを収穫できたことがわかる。

画像3: 【ボルドープリムール2019】「バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド」社 オンラインワインテイスティング

 今回試飲したワインにも、こうした2019年の天候の特徴がよく表れている。18年と比べると全体に濃縮度の点ではわずかに劣るが、フレッシュなタンニンが溶け込んでおり、プリムールで試飲しても既にエレガントで十分楽しむことができる。おそらく質の良かった16年と18年の間に位置するワインで比較的早く飲めるが、十分な濃縮度と内容があり、10年、20年の熟成に十分耐え得るだろう。

シャトー・ダルマイヤック

画像1: シャトー・ダルマイヤック

 「シャトー・ダルマイヤック」のブドウ園は、シャトー・ムートン・ロスチャイルドとシャトー・ポンテ・カネに挟まれたムートンと呼ばれる区画にある。このため1855年の格付の際には「ムートン・ダルマイヤック」と呼ばれていたが、33年にこのシャトーを引き継いだバロン・フィリップ・ロスチャイルドが56年に「ムートン・バロン・フィリップ」に改名。その後、75年にはさらに「ムートン・バロンヌ・フィリップ」と、フィリップ・ロスチャイルド夫人の名称に変更した。88年にバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルドが亡くなった後事業を継いだ、娘のバロンヌ・フィリピーヌ・ド・ロスチャイルドが「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」との混同を避けるため91年に「シャトー・ダルマイヤック」と改称し、現在に至る。

 シャトー名が変遷したこともあり「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」「シャトー・クレール・ミロン」に比べると、やや知名度が低い。バロン・フィリップ・ロスチャイルド社のグラン・クリュ・クラッセ3兄弟の中では、これまで興味をもたれることは少なかったが、2004年に製造責任者に招かれたフィリップ・ダルアン氏が栽培・醸造に力を入れて取り組み、この10年来で年々洗練されている。

「シャトー・ダルマイヤック」のブドウ園は大きく3つの区画に分かれ合計73ヘクタール。1890年作付けの古いブドウ樹が一部に残っている。作付け品種の割合はカベルネ・ソーヴィニヨン54%、メルロ35%、カベルネ・フラン9%、プティ・ヴェルド2%だが、2019年産のブレンド割合はカベルネ・ソーヴィニヨン62%、メルロ27%、カベルネ・フラン9%、プティ・ヴェルド2%で、カベルネ・ソーヴィニヨンの割合が高い。

画像2: シャトー・ダルマイヤック

シャトー・ダルマイヤック

「シャトー・ダルマイヤック」はセカンドワインは造っていないが、厳しいセレクションからもれたワインは、バロン・フィリップ・ロスチャイルド社のボルドー・ジェネリックである「ムートン・カデ」の原料として使用している。

 2019年産は、ボルドーの典型的な黒い果実のニュアンスを持つピュアな香りがあり、人を引き付ける。口に含むと十分熟した果実味と繊細なタンニンがあり、フィニッシュも十分なニュアンスが長く残る。

 1968年に作られた醸造所に設置した23基のステンレスタンクを使ってこれまで発酵を行ってきたが、現在建設中の新しい醸造所には区画ごとに醸造できるよう、最新鋭の小さなタンクを設置する予定だ。2020年産からの飛躍的な質の向上が期待される。

シャトー・クレール・ミロン

画像1: シャトー・クレール・ミロン

 「シャトー・ダルマイヤック」と同じく、ポイヤック格付け5級の「シャトー・クレール・ミロン」は1970年にバロン・フィリップ・ロスチャイルドが購入したシャトーだ。60年代に多くのブドウ園が散逸し、16ヘクタール程度に減少していたが、バロン・フィリップ・ロスチャイルドが再建し、現在ブドウ園は41ヘクタールに増えている。ブドウ園はシャトー・ラフィットに隣接し、ジロンド川を見下ろすポイヤックの素晴らしい場所にある。格付け5級ながら、艶のあるエレガントな味わいで、格付け2級、3級の力を持つと言える。
 
 2019年産も、最初のアタックが絹のように滑らか味わい深く、タンニンと新鮮な果実味が広がる魅力的なワインに仕上がっている。品種ブレンド割合はカベルネ・ソーヴィニヨン72%、メルロ22%、カベルネ・フラン4%、プティ・ヴェルド2%。1986年以来、カベルネ・ソーヴィニヨンの割合が最も高くなっているのが特徴だ。

画像2: シャトー・クレール・ミロン

シャトー・クレール・ミロン

 シャトー・クレール・ミロンには2009年から作られているセカンドワイン『パストゥレル・ドゥ・クレール・ミロン』がある。今年は56%がシャトー・クレール・ミロン、23%がパストゥレル・ドゥ・クレール・ミロン、そして残りはムートン・カデに回された。

 セカンドワインとはいえパストゥレル・ドゥ・クレール・ミロンはシャトー・クレール・ミロンの高貴な血統を間違いなく受け継いでおり、おそらく2019年産のパストゥレル・ド・クレール・ミロンはシャトー・ダルマイヤックとシャトー・クレール・ミロンの間に位置するだろう。

ル・プティ・ムートン・ド・ムートン・ロスチャイルド

画像: ル・プティ・ムートン・ド・ムートン・ロスチャイルド

 「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」のセカンドワインが最初にリリースされたのは1993年。この時は『ムートン・ロスチャイルドのセカンドワイン(le Second Vin de Mouton Rothschild)』の名称でリリースされた。現在のル・プティ・ムートン・ドゥ・ムートン・ロスチャイルドの名称が使われるようになったのは翌94年から。若い樹齢のブドウを使っているが、醸造、熟成はシャトー・ムートン・ロスチャイルドと変わらない。2019年産のル・プティ・ムートン・ド・ムートン・ロスチャイルドは、カベルネ・ソーヴィニヨン68%、メルロ32%だ。内容、広がり、複雑さ、そして十分な長さのフィニッシュがあり、スーパーセカンドのシャトーと十分比肩できる。

シャトー・ムートン・ロスチャイルド

画像1: シャトー・ムートン・ロスチャイルド

 ポイヤックの格付け1級シャトー「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」2019年産はカベルネ・ソーヴィニヨン90%で、平年よりもカベルネ・ソーヴィニヨンの割合がやや多い。残りはメルロー9%、プティ・ヴェルド1%。完璧に熟したカベルネ・ソーヴィニヨンがもたらすカシス、グロゼイユなどの小さな黒い果実、典型的な甘草根の深い香り。口には力強く、フレッシュで、心地いい味わいが広がり、特にタンニンの繊細さが素晴らしい。シャトー・ムートン・ロスチャイルドに限らず、一時期、ボルドーのグラン・クリュは濃縮と樽香に支配されていた。しかしこの10年来、濃縮と果実味、味わいが本当にうまく表現されている。19年産は特に早い時期から開いており、多くの人を引き付ける魅力に溢れている。

画像2: シャトー・ムートン・ロスチャイルド

シャトー・ムートン・ロスチャイルド

エール・ダルジャン

画像1: エール・ダルジャン

 「エール・ダルジャン」は1980年代に植えられた約4ヘクタールのブドウ園から作られる白ワインで、91年が最初のヴィンテージだ。新樽を50%を使った樽発酵で熟成は約9カ月。2019年産の品種ブレンド割合はソーヴィニヨン・ブラン61%、セミヨン38%、ミュスカデル1%。やや緑がかった美しい輝きのある色。トロピカルフルーツや白桃など、白い果実の新鮮な香り。口に含むとボリュームのある柑橘の味わいが広がる。そして、繊細で心地いいニュアンスが最後まで切れ目なく続く。

画像2: エール・ダルジャン

エール・ダルジャン

 

 フィリップ・ダルアン氏は2019年産の特徴として、赤ワイン、白ワイン共に多くの人に愛されるエレガントで飲みやすいワインだと強調していた。

画像: 総製造責任者 フィリップ・ダルアン氏

総製造責任者 フィリップ・ダルアン氏

 6月9日に発表されたボルドーネゴシアンの販売価格は、シャトー・ムートン・ロスチャイルドが282ユーロ(2018年産価格対比-31%)、ル・プティ・ムートン・ド・ムートン・ロスチャイルドが138ユーロ(同-17%)、シャトー・クレール・ミロンが48ユーロ(同-20%)、シャトー・ダルマイヤックが28.8ユーロ(-17%)。

 インターネットでのシャトー・ムートン・ロスチャイルドの販売は発売から数日で完売となり、現在販売されているボトルは当初の価格にプレミアムが付いた高値となっている。これは、2019年10月から始まった25%の米国向け輸出関税、新型コロナウイルスによる市場機能の停止など経済情勢を考慮した上で販売量をかなり絞ったことと、評価が良い2019年産にもかかわらず思い切った値下げを行ったことで買い手が殺到したことなどが要因とみられる。クオリティ・プライスの点から見て、個人的にはシャトー・クレール・ミロンが特にお勧めだ。

Toshio MATSUURA(Paris)

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