今年のシャンパーニュの収穫は、8月中旬に始まり9月初めに大方終えた。これは異常な猛暑で、並外れて収穫が早かった2003年の収穫開始記録を塗り替えるものだ。2020年の収穫を終え一段落した9月23日、「マイィ・グラン・クリュ」は、ゼネラルマネジャーのジャン・フランソワ・プレオ氏らが出席して、パリの3ツ星「レストランKEI」で「マイィ・グラン・クリュ」の特別キュヴェ『アルティスティク(Artistique)』シリーズの紹介を行った。
特別キュヴェ『アルティスティク』シリーズは「マイィ・グラン・クリュ」の神髄を表現するために始まったもので、毎回、個性的なミレジームを描写した意匠デザインを現代美術家に依頼しており、コレクションボトルとしても人気を得ている。
現代彫刻家、ベルナール・パジェス氏が制作した『ラ・テール(La Terre) 1996年』が最初のボトル。以降フロランス・ヴァレ氏作『ル・フー(Le Feu) 2000年』、クロード・ヴィアラ作『レール(L’Air) 2005年』、グザヴィエ・キュルミエ作『ロー(L’Eau) 2008年』、そして今回発表された最新作、シャルル・ヌバック作『ナチュール(Nature) 2013年』と、この20年で5つのボトルが作られている。
すべてピノ・ノワール75%、シャルドネ25%。1996年産は*ドザージュ3.8g/lだが、その他は糖分無添加のブリュット・ナチュール。
フランスではアペリティフ(食前酒)を兼ねて立席で新製品の紹介、試飲を行うことが多いが、今年はコロナ禍で厳しい衛生規定が課せられたため、12人の招待客は4卓に着席し、小林圭シェフの5つの料理に合わせて、これまでに作られた5つの『アルティスティク』を試飲した。
ただ、過去のボトルについてはストックが尽きたため、今回の食事会では最新作の2013年産を除き、すべて9月2日に滓引きされたマグナムボトル(1500ml)がサービスされた。
最初の皿として用意されたのは、スモークサーモンと色とりどりの美しい野菜を、レモンのエマルジョンと黒オリーヴのクランブルで味わう料理。これに合わせてサービスされた『レール(L’Air)2005年』はわずかに金色がかった色合いに変化しているが、香り、味わいは新鮮で繊細。特に最後に軽く残る塩のニュアンスが醸し出す上品さが素晴らしい。
カモのフォアグラをさまざまな花で覆った2皿目も、その美しさに感嘆した。これに合わせた『ナチュール(Nature) 2013年』は十分な酸とトーストのニュアンスを感じさせる心地よい熟成香が交じり合い、複雑で力強い味わいが長く残るもので、特に印象に残った。
『ル・フー(Le Feu)2000年』は21世紀最初のミレジームとして話題になるが、ミレジームの個性はやや欠ける。しかし太陽に恵まれた年で、爽やかなミネラル感があり、最後まで快適に味わえる。
4皿目、スコットランド産オマールの堂々とした味わいは『ラ・テール(La Terre)1996年』の力強さと素晴らしいハーモニーを奏で、特に感嘆の声が聞かれた。96年産はやや色合いが変化しており、わずかなドザージュからキャラメルのニュアンス、さらにはキノコのニュアンスも感じられる。しかし辛口で素晴らしい酸があり、フィニッシュのミネラル感も大変心地よい。多分『アルティスティク』シリーズの中で最も個性があるボトルだろうと思う。
『ロー(L’Eau)2008年』はやや薄い色合いだが、味わいが充実している。デザートとして用意された柑橘、バジル風味のヴァシュランにも十分拮抗するだけの内容があり、「マイィ・グラン・クリュ」のピノ・ノワールの力を十分感じさせるものだった。
昼食会を終えて「レストランKEI」のソムリエ北山重次氏はこう語った。
「試飲するシャンパーニュをどの料理と組み合わせるか、事前にレストランを訪れたマイィ・グラン・クリュの関係者4人と実際に試食し、意見交換しました。
こうした準備の過程を通して小林シェフ、そして私が感じたのは、マイィ・グラン・クリュが古いヴィンテージの価値に大変こだわり、とても大事にしているということ。お客さまの中には、若い、フレッシュなシャンパーニュしか知らない方も大勢いらっしゃいますが、長い年月をかけて熟成したシャンパーニュには本当に格別な豊かな味わいがあります。ぜひ、古いシャンパーニュを味わう機会を得て、シャンパーニュの奥深さ体験をしていただきたいと思います」
「レストランKEI」は年初にミシュランの3ツ星を獲得したが、その後すぐにパリがロックダウンに入ったため、多くの予約客が足止めされた。再開した6月18日以降、昼夜ともに28席は常に満席だが、かつて大半を占めていた海外からの顧客はまだ戻っていないという。
*「ドザージュ」:デゴルジュマン(瓶内2次発酵の時に生じたオリを除く作業)の後、目減りした分を補うために蔗糖を溶かしたリキュールを添加すること。リキュールの分量により、甘辛度が決まる