多彩な味わいが楽しめる南フランス、コート・デュ・ローヌ地方のワインは、料理と合わせることでその実力を発揮する。
「第9回全日本最優秀ソムリエコンクール」で優勝した井黒卓氏によるナビゲートで、ローヌワインの魅力を探るシリーズ。第1回は、カジュアルフレンチとのマリアージュをご紹介。
クリスマスや年末年始、家でごちそうを楽しむ機会が増える今、いつもよりちょっと腕を振るって素敵な肉料理とローヌワインで、美味しい時間を楽しんでみてはいかが。

井黒 卓氏 Taku IGURO
レストラン「ロオジエ」ソムリエ。2020年「第9回全日本最優秀ソムリエコンクール」(日本ソムリエ協会主催)優勝。21年に行われる「アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール」(国際ソムリエ協会主催)で日本代表を務める

南フランスのテロワールを表現する
コート・デュ・ローヌのワイン

 コート・デュ・ローヌは、美食の都リヨンの南を流れるローヌ川に沿って南北に200キロほども広がる地域で、フランスでは2番目の栽培面積と生産量を誇るAOC(原産地統制名称)ワインの一大産地だ。南フランスにあるこのエリアは、地中海性気候が広がっている。年間を通して穏やかな気温で日照時間が長いため、糖度の高いブドウが収穫でき、コクのあるワインを生み出す。

 「飲んだ瞬間に豊かな太陽や野生のハーブ、乾燥した土地といった情景が思い浮かびます。テロワールの個性を存分に引き出したワインと言えるでしょう」とソムリエの井黒卓氏。

 「ローヌのワインに共通する味わいとして、赤には凝縮度の高いベリー類の香りと舌の上にのってくる密度の高い重厚さがあり、白はしっかりしたボリュームが特徴。いずれも口の中に広がるジューシーなテクスチャーが魅力です」 

 コート・デュ・ローヌのワインには「コート・デュ・ローヌ」「コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ」、村名を名乗れる格上の「コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ」、そしてピラミッドの頂点である「クリュ」がある。

 「いずれもコクのある味わいで、ワインだけ飲んでも美味しいのですが、ソムリエとしては、ローヌワインは料理と合わせてこそ真価を発揮するものだと考えています」

 その理由の一つは、品種のブレンド。「品種をブレンドしたワインにはさまざまな香りや味わいがあり、多層的な構造になっています。だから幅広い料理に合わせることができるのです」

 ワインと料理がお互いを引き立て合う「マリアージュ」こそが、ローヌワインの真骨頂。「特に肉料理にはぴったりです。鶏、豚、牛、どんな肉でも受け止められる懐の深さがローヌワインにはあります」

 では、さっそくマリアージュを探ってみよう。

王道のマリアージュ、コート・デュ・ローヌ×カジュアルフレンチ

 高いポテンシャルを持つローヌワイン。まずは、フランスの定番料理とのマリアージュをご紹介。料理を作ってくれたのは、築地の人気店「ビストロ グラヴィ」の島 五輝シェフだ。「今回は、豚、鴨、鶏の料理、そして牛のステーキを用意しました」

 さて、マリアージュのポイントは?

「料理と合わせるとワインの味わいがグッと引き立ちます」と井黒ソムリエ。「マリアージュポイントがたくさんあるのがローヌワインの魅力!」

フレンチの定番、パテ・ド・カンパーニュ

パテ・ド・カンパーニュにキャベツのマリネを添えて。好みでマスタードやコショウをつけると味に変化が出る

 「シンプルなパテ・ド・カンパーニュは、白ワインでも赤ワインでも合わせられます。肉というと赤と思ってしまいますが、マスタードでシンプルに食べるなら白がお勧め。酸味の効いたキャベツのマリネと一緒に食べてもいいですね」

 赤に合わせる時は、挽きたての黒コショウをぱらりと振ることで相性がグンと良くなるという。
 「コショウをプラスするだけで肉の味わいに深みが出ます。そうなると、シラーを主体にしたスパイシーなタイプの赤がいいでしょう」

 また、レバーを多めに使ったパテ・ド・カンパーニュなら、格上のAOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュや、村名付きのものでもしっかり受け止めてくれるという。料理1品にいろいろなタイプのワインを合わせるのも、ローヌワインならではの楽しみ方だ。

肉の旨味がじわりと美味しい、鴨のポトフ仕立て

鴨の胸肉を塩漬けにして炙り、鴨のコンソメでゆっくり煮た野菜と合わせてポトフ仕立てに。グリーンペッパーのペーストがアクセント

 まるで和食の炊き合わせのような一皿は、旨味のある鴨のコンソメとやさしい味の野菜が滋味深く、炙った鴨とグリーンペッパーの相性も抜群。
 「とても繊細な味わいです。こうした料理は、まずはAOCコート・デュ・ローヌの白か、または同AOCの軽めの赤で、スープの深い味と味が染みた野菜を楽しみたいですね」

 鴨肉をじっくり味わうなら「コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュの赤がいいでしょう。鴨はしっかりしたかみ応えがある肉。咀嚼回数が多い料理には、しっかりした赤をお勧めします」

 もし白で通したい場合は「添えるスパイスを白コショウに変えると、すんなりと馴染みます」

鶏肉とキノコの旨味が絡み合う、鶏のフリカッセ

たっぷりのキノコと鶏肉をクリーミーに仕上げたフリカッセ(クリーム煮)。ベルモットを使って深みを出し、ローズマリーの香りをプラスした

 クリームを煮詰めたソースにキノコの旨味が重なって、コクのある味に仕上がったフリカッセ。

 「鶏肉がメインなのでもちろん白も合います。ローヌの白はしっかりとした骨格があるので、クリームを使った濃厚なソースでも負けません。あまり冷やし過ぎず、冷蔵庫から出して少し落ち着いたくらいの温度だとベストですね」

 あるいは、ソースの重さに合わせてヴィラージュの赤でも。「クリームには乳脂肪分が多いので、タンニンがしっかり感じられる赤ワインを合わせると脂をさっと拭ってくれて、口の中がリフレッシュされます」

 また、ローズマリーの香りもマリアージュのポイントになるのだとか。「肉料理の最後にローズマリーの香りを添えると、肉の風味が際立ってワインに寄り添ってくれますよ」

シンプルな肉料理ステーキにこそ、コート・デュ・ローヌを

和牛のサーロインステーキにバルサミコ酢を煮詰めたソースを添え、ジャガイモのグラタンとクレソンのサラダを付け合わせに

 「これはもう、間違いなしの組み合わせですね」と太鼓判を押す井黒氏。
 「でも、まずは白でいきましょう」と意外なセレクト。「実は、和牛のようなサシの入った肉には豊かな味わいの白が合うんです。ローヌの白はボリュームのある味わいなのでまさにぴったり」

 シンプルに肉だけを食べるなら白、そして、黒コショウを振ったり、あるいはバルサミコ酢のソースや付け合わせのグラタンと一緒に食べるなら「赤もいいですね。スパイスを加えるとぐっと赤に近付く。グラタンにしたジャガイモの柔らかい食感とクリーミーさが、赤ワインの渋味をマイルドにしてくれます」

 一つの料理に一つのワイン、という究極のマリアージュも素晴らしいが、スパイスや付け合わせ、ソースなどによって合わせるワインを変えてみると、食事の楽しみがさらに広がる。これこそが、マリアージュの醍醐味。ぜひ、肉×ローヌでお気に入りのマリアージュを見付けてほしい。


料理と合わせたワイン(左から)
◆『コート・デュ・ローヌ 白 ラ・フルール・ソリテール 2019年』(生産者:ブティノ)
AOCコート・デュ・ローヌ
価格:2100円  輸入元:㈱モトックス
ヴィオニエに由来する花の香りが特徴。ボリュームある飲み口で肉にも合わせたい1本。

◆『コート・デュ・ローヌ・ヴァルヴィニエール 2018年』(生産者:アントニー・パレ)
AOCコート・デュ・ローヌ
価格:2800円   輸入元:㈲三幸蓮見商店
シラー100 %の赤は凝縮感があってスパイシー。バランスが良く、深みのある味わい。

◆『インネ・コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ 2017年』(生産者:ガブリエル・メフレ)
AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ
価格:2100円  輸入元:国分グループ本社㈱
グルナッシュ主体。赤い果実の香りとほのかなスパイス感があり、滑らかな口当たり。

◆『コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ ヴィザン 2018年』(生産者:ドメーヌ・ド・ラ・バスティード)
AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ・ヴィザン
価格:2255円  輸入元:㈱フィラディス
熟したチェリーのような香りと甘苦いスパイスのニュアンスがあり、複雑な味わいが魅力。

※価格は税別

◆取材協力/「ビストロ グラヴィ」BISTRO Goût La Vie
厳選した肉や産地直送の野菜で作る炭火焼きなど、シンプルで美味しい料理が人気。グラスワインもあり、気軽にビストロ料理が楽しめる。


東京都中央区築地2-9-9 コンフォート築地 1F
Tel: 03-6264-1072
営業時間:17:00~22:00(LO21:00)
定休日:日
https://bistro-gout-lavie.owst.jp/

画像: ローヌワイン委員会(INTER-RHÔNE)

ローヌワイン委員会(INTER-RHÔNE)

text by Miki NUMATA, photographs by Kentaro TAKIOKA

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