肉料理と相性抜群のコート・デュ・ローヌ地方のワインは、和食と合わせても素晴らしいマリアージュが楽しめる。
「第9回全日本最優秀ソムリエコンクール」で優勝した井黒卓氏のナビゲートでローヌワインの魅力を探るシリーズ2回目は、冬の和食とローヌワインの組み合わせをご紹介。
日本の食卓になじみのある肉料理にローヌワインを合わせるポイントを聞いた。
料理に寄り添うコート・デュ・ローヌワインの選び方
南フランス、コート・デュ・ローヌ地方のワインは、味わいの幅が広く、食事と合わせることでその美味しさが存分に発揮される。5万ヘクタールを超える広大な畑から生まれるワインには「AOCコート・デュ・ローヌ」「AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ」、村名を名乗れる格上の「AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ」、そしてピラミッドの頂点に「クリュ」があり、ブドウの品種も多岐にわたる。
「アペラシオン(呼称産地)や栽培エリアによって特徴が異なり、多様なフレーバーや味わいを持つローヌワインですが、品種によっても個性が変わります」と井黒氏。
「代表的な品種のグルナッシュとシラーでいうと、グルナッシュはフルーティーでボリュームがあり、シラーはスパイシーで動物的、そして酸があるので引き締まった味わいになります」
料理に合わせる時は使用品種を参考にするのも、マリアージュのヒントになりそうだ。
味、香り、食感
和食とワインの共通項を探る
季節感を大切にし、繊細な味を楽しむ和食には、味わいや香りの幅が広いローヌワインがよく合う。今回は築地にある蕎麦の店「さらしなの里」の店主 赤塚滋行さんに料理を作っていただいた。赤塚さん自身ワインが好きで、店でも和食に合うワインをそろえマリアージュを提案しているという。
「和食とローヌワインを合わせるために、ところどころに橋渡しとなる食材や調味料を使ってみました」と赤塚氏。いつものおかずにちょっと工夫を加えるだけで、ワインとの相性がグッと良くなるという。
ではさっそく、マリアージュを紹介しよう。
サクサクで香ばしい、ササミの蕎麦の実揚げ
「香ばしいですね!」と井黒氏。カラッと揚げた香ばしい蕎麦の実にはスパイスを思わせる風味があり、ワインの香りに通じるところがあるという。
「ササミという素材を考えると白ワインもいいと思いますが、これにはロゼをお勧めします」。ピンクペッパーやピンクグレープフルーツのような柑橘の香りを持つコート・デュ・ローヌのロゼが、ササミにレモンを搾ったようなさわやかさを添えてくれる。
「もみじおろしのフレッシュな辛さも、酸がきれいなローヌのロゼとは相性がいい」
シンプルな料理なので、合わせるワインによって調理を変えるというアイデアも。
「赤ワインと合わせるなら、しっかりと色がつくくらい香ばしく揚げて、ソースで食べるといいでしょう。白ワインなら、さっくりと軽く揚げて柑橘の果汁を添えたり、大根おろしを添えたりすると美味しいですよ」
シンプルに肉を味わう、山形牛のローストビーフ
ローストビーフには赤を合わせたくなるところだが「肉に何をつけて食べるかによってマリアージュが変わってきます」と井黒氏。
まずは、塩とすだちでスッキリといただく。「この場合はやはり白。塩とすだちで食べると肉の味が際立ちます。ローヌのボリューミーな白がいいですね。酸がキリッとしているロゼも合います」
タレは醤油にザラメを入れて煮溶かして寝かせた「かえし」。
「甘味のあるかえしに少し七味唐辛子を加えると、今度はグルナッシュを使った赤が合う。ヴィンテージの新しいものよりは2〜3年寝かせたもののほうが、フルーツのトーンが落ち着いてピタリと寄り添ってくれます」
自宅でかえしを用意するのが難しければ、醤油に少したまり醤油を混ぜたり、きび砂糖で甘味を加えてみてもいい。
「ローストビーフは応用範囲が広いので、食べ方次第でいろいろなローヌワインに合わせられます」
コクのある蕎麦ハチミツを使った豚の角煮
蕎麦のハチミツを使い、かえしとみりんを合わせて味を調え、仕上げに柚子の香りを添えた豚の角煮。野菜も一緒に煮るので、煮汁の味をやや控えめにしているそうだ。
「角煮といっても、濃すぎず重すぎず軽やかな味わいです。柚子の風味もあるので、まずはロゼを合わせてみましょう」
ゆっくり煮て脂が落ちた豚肉の身と、味が浸みた野菜。そこに柚子が加わると、柑橘のニュアンスのロゼが寄り添う。
「煮汁をたっぷりつけて食べる場合や、脂とゼラチン質の食感にフォーカスすると、ぐっと赤に寄る。グルナッシュが持っているボリューム感と滑らかなテクスチャーがちょうどいいバランスになります」
シラーは丁子やリコリスのような甘苦いスパイスの香りがあり、それが甘味のある肉に合うという。「ハチミツを入れることで味にコクと深みが出て、ワインに合わせやすくなります」
ハチミツで調味した角煮、ぜひ試してみてほしい。
サバ節の出汁で仕込んだ鴨鍋
蓋を開けるとだしのいい香りがふわっと立ち上る。
「鍋はいろいろな食材が入るので、ローヌの赤も白も、ロゼも合わせられます」と井黒氏。
「シャキッとした野菜を食べる時には、ロゼの生き生きとしたクリスプな酸が合いますね。白は滑らかなテクスチャー(食感)が特徴なので、豆腐のような柔らかいもの。そして鴨にはやはり赤。特に鴨胸肉はかみ応えがあって食感がしっかりいているので、程よいタンニンがあるローヌの赤がお勧めです」
時間をかけてゆっくり鍋を楽しむ際には、ワインの温度にも気を配りたい。
「ローヌの赤は少し冷やしたくらいがちょうどいいですね。鍋のそばに置くと温度が上がりやすいので気を付けてください。白はキンキンに冷やし過ぎず、冷蔵庫から出した後少し置いて12〜13℃を目安に。ロゼは、キリッとした酸を楽しみたいなら、冷たいと感じる程度に冷やして」
鍋料理とローヌワインの組み合わせは、和食の中でもベストマッチの一つだと言う。この冬はぜひ「鍋とローヌ」を楽しんで!
家庭でたびたび食卓に並ぶ和食の定番メニューには、ローヌワインと相性のいいものがたくさんあることがわかった。
「ローヌワインは味わいのバリエーションが豊富で、和食の甘辛い味や和柑橘のさわやかな香りに合うものもたくさんあります。リーズナブルな価格も家飲みにはぴったりですね」
大人数で集うことが難しい今、家族のごちそうに、ローヌワインで華やぎを添えてみてはいかが。
料理と合わせたワイン(左から)
◆『コート・ド・ローヌ ブラン 2019年』(生産者:ドメーヌ・シャルヴァン)
AOCコート・デュ・ローヌ
価格:3400円 輸入元:テラヴェール㈱
シャトーヌフ・デュ・パプの北に位置するドメーヌ。滑らかなテクスチャーとボリューム感が特徴。
◆『コート・デュ・ローヌ パラレル45 ビオ ロゼ 2018年』(生産者:ポール・ジャブレ・エネ)
AOCコート・デュ・ローヌ
価格:1760円 輸入元:三国ワイン㈱
赤い果実の香りとフレッシュな柑橘類のアロマを持ち、味わいはフルーティーで柔らかい。バランスの良い1本。
◆『コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ・プラン・ド・デュ 2019年』(生産者:ドメーヌ・レ・ゾンデイーヌ)
AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ・プラン・ド・デュ
価格:2850円 輸入元:セパージュ㈱
銘醸地ジゴンダス、ラストー、ケランヌに囲まれたアペラシオン。バランスが良くエレガント。
◆『コート・デュ・ローヌ ヴィラージュ ヴァルレアス オーガニック 2017年』(生産者:ドーヴェルニュ・ランヴィエ)
AOCコート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ・ヴァルレアス
価格:2600円 輸入元:㈱オーバーシーズ
2004年設立ながら、すでに評価が高い造り手。熟したベリーの香りとスパイスの風味が重なり、複雑な味わい。
※価格は税別
◆取材協力/築地さらしなの里
明治32年創業の老舗。石臼で挽いた自家製粉の国産蕎麦のほか、旬の食材で作るつまみにも定評がある。ワインのラインナップも楽しい。
text by Miki NUMATA, photographs by Kentaro TAKIOKA