毎年4月にボルドーで開催される「プリムール」の試飲会に参加しているが、コロナ禍で移動制限が続く中、昨年に続き今年も現地での試飲はあきらめた。そんな中「シャトー・アンジェリュス」のステファニー・ド・ブアール・リヴォアル社長、そして社長を譲った後も醸造を担当しているユベール・ド・ブワール氏とともに『シャトー・アンジェリュス』『カリヨン・ダンジェリュス』『No3ダンジェリュス』2020年ヴィンテージを試飲する機会を得た。
サンテミリオン・グラン・クリュ・クラッセAに格付けされているシャトー・アンジェリュスの畑は27ヘクタール。「ピエ・ド・コート」と呼ばれるサンテミリオンの南向きの斜面に広がっている。上部は典型的な粘土石灰質、中腹は砂混じりの粘土石灰質。
作付け品種はメルロ53パーセント、カベルネ・フラン47パーセントで、カベルネ・ソーヴィニヨンは植えていない。代々受け継ぎ、大切にしているカベルネ・フランがシャトー・アンジェリュスに独特のエレガントさ、新鮮さをもたらしている。
メルロの醸造はステンレスタンクと木桶、カベルネ・フランはコンクリートタンクを使う。4~8日間、低温マセラシオンを行った後、約28度で醸造。26~28度で1~3週間そのままの状態で保ち、十分抽出した後、樽に移す。熟成はこれまで中程度に炙ったフランス産の新樽100パーセントで行ってきたが、18年に2基の30ヘクトリットルのフードル(大樽)を導入し、カベルネ・フランの一部の熟成に使い始めた。これによってカベルネ・フランの新鮮さとピュアな表現が一層際立つようになったため、その成果を得て19年に1基追加した。22年にさらにもう1基加え、4基体制にする計画だ。
「アンジェリュスの半分を占めるカベルネ・フランをフードルで熟成することでこれまで以上に新鮮な果実味が表現できるようになった」とブアール氏は説明する。
また、20年ヴィンテージは発酵温度をやや低めにし、抽出を控えめにした。これも、前年のヴィンテージとは異なる、やや細身で繊細なニュアンスを与えているのかもしれない。
リヴォアルさんは「この年の特徴の一つは収穫が記録的に早かったこと。メルロの収穫は9月15日に始め1週間もかからずに終えた。また、10月の好天があまり期待できなかったので、カベルネ・フランの収穫は9月28、29、30日の3日間で終えた。こんなに短期間に集中して収穫した例はあまりない。生育が早く、夏は干ばつぎみだったのでアルコール度数が並外れて高くなるのではと心配していたが、後半に収穫したブドウの糖度はそれほど高くなく、アルコール度数は最終的にはバランスの良いものになった。また、十分な酸度が保たれたのでフレッシュさが感じられる。2018、19、20年の三つのヴィンテージは、質の高いトリロジー(3部作)と呼ぶに相応しいシリーズだ」と説明する。
夏は干ばつで苦しむ畑もあったが、アンジェリュスの畑は粘土質土壌の保水力に助けられ、収穫率は殆ど昨年と同じ1ヘクタール当り約35ヘクトリットルを確保した。このため、2020年も約8万本の出荷を予定している。(後編に続く)