南仏、カルカソンヌ近郊のペノティエ村に拠点を置く「メゾン&ドメーヌ・ド・ロルジュリル(Maisons & Domaines de Lorgeril)」はラングドック・ルーションの幅広いワインを扱う大手ネゴシアン(ワイン商)兼栽培家の一つとして頭角を現してきた。
年間販売本数約250万本。うち60パーセントを六つの自社畑のブドウで生産している。ほとんどの畑は1990年代から2000年代にかけて手に入れたもので、場所は標高250~400メートルの高地だ。このため、伝統的なラングドック・ルーションとは一線を画す、新鮮さと心地いい果実味が感じられる現代的なワインに仕上がっている。
経営者のニコラ・ド・ロルジュリル氏は1620年に、南仏のベルサイユ宮殿と称される「シャトー・ド・ペノティエ」を建設したベルナール・ド・レック・ド・ペノティエ氏の子孫。当時、ラングドック州の財務長官を務めていたベルナール・ド・レック・ド・ペノティエ氏は、1622年7月14日に、南仏を訪れていたルイ13世をシャトーに招いた。その時、ルイ13世が残していった天蓋付きのベッド、6脚の椅子、タピスリーなどが今でもシャトーの王の間に残されている。この記念すべき日から今年が400周年となることから、世界から関係者を招き6月9日から3日間盛大な記念行事を開催した。
初日にシャトーの大広間で行われた記念夕食会には、国内外のジャーナリスト、そして日本の輸入元など主要なインポーター、関係者、約100名が招かれ、400周年記念ボトルを含む6本のワインを、地元の2ツ星レストラン、「ラ・ターブル・ド・フランク・ピュトゥラ」の料理と合わせて味わった。
その後、巨大なシャトーのファサッドを利用して行われた、400年のシャトーの歴史を辿る25分間の壮大なプロジェクションマッピングを鑑賞した。
1620年にベルナール・ド・ペルティエ氏が建てたシャトー・ペルティエは、その後もペノティエ家の子孫が代々引き継いできたが、1918年にポール・ド・ペノティエ氏がブルターニュのクリスチャン・ド・ロルジェリル伯爵と結婚したため、以降、シャトーはロルジェリル家の名前で相続されている。当主のニコラ・ド・ロルジュリル氏はクリスチャン・ド・ロルジェリル伯爵から数えて3代目、初代のベルナール・ド・レック・ド・ペノティエから数えると12代目に当たる。
ニコラ・ド・ロルジュリル氏は1987年にシャトー・ド・ペノティエを相続すると、率直で粘り強い奥さんのミラン・ド・サン・シャルムさんの力を借り、このシャトーの400年の歴史と価値をより確かなものにするための事業に取り掛かった。特に、先代が着手したブドウ栽培を発展させ、ラングドックのワインの価値を高めることが必要だと考え、質の確かなテロワールを見つけ次々に取得し、ワイン生産を拡大。同時に、2006年から3年をかけてシャトーを大改修し、パリの高級ホテルも羨む、伝統的なフランスのシャトーの雰囲気を残す24室の寝室を持つ素晴らしいシャトーに蘇らせた。
夫妻はシャトーを単なるホテルとして運用することは望まず、結婚式を始めとするさまざまな祝賀行事、企業セミナー、ディナー会場として貸し出だすとともに、貴重な歴史遺産であるシャトーと庭園を一般公開することにした。歴史建造物に指定されているシャトー・ド・ペノティエには年間5万人が訪れラングドックの観光名所の一つになっている。
シャトー・ド・ペノティエが持つブドウ園は、大西洋気候と地中海性気候が交じり合うユニーク場所にあり、シラー、グルナッシュなどフランス南部の品種とともに、メルロー、カベルネなどのボルドーの品種も使われている。
所有するブドウ園は、拠点である「シャトー・ド・ペノティエ(AOPカバルデス)」に加えて「シャトー・ド・シフル(AOPフォジェール、サン・シニアン、ラングドック)」「ドメーヌ・ド・ガリル(IGPシット・ド・カルカソンヌ)」「シャトー・ド・コネット(AOPラングドック)」「マス・ド・モンターニュ(AOPコート・ド・ルシヨン・ヴィラージュ」「ドメーヌ・ド・ラ・ボリ・ブランシュ(AOPミネルヴォワ・ラ・リヴィニエール)」がある。
栽培家とのコラボによるネゴシアン部門の活動も活発で、多様な品種を使い、IGPを含むさまざまなアペラシオンを生産している。
長年、「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」の生産ディレクター、パトリック・レオン氏の指導を受けてきた、2019年からは栽培コンサルタントとしてステファン・ドゥルノンクール氏を招聘。ビオ栽培を取り入れ一層テロワールを重視したエレガントなワインを目指している。
ロゼの生産はこれまで、わずかだったが、2020年に『オー・ド・ロゼ』『シャトー・ド・コネット・ロゼ』『ラ・プテット・ロゼ・デテ(ビオ認証)』などをリリースし大きく伸ばした。当初はセニエ方式で作っていたが、徐々にプレス方式に代えて質を上げ、現在8種類のロゼをそろえている。プロヴァンススタイルの薄い色合いで、ほとんどは早い時期に瓶詰し、フレッシュさを楽しむロゼだ。
「メゾン&ドメーヌ・ド・ロルジュリル」の社長で、ネゴシアン部門、ブドウ栽培部門を管理する奥さんのミラン・ド・ロルジェリルさんは法学部の出身。パリの国際弁護士事務所で働いた後、ニコラ・ド・ロルジュリル氏と結婚し、先代から受け継いだブドウ栽培とネゴシアンの活動に関わるようになった。
ワインビジネスを学ぶためにシュズ・ラ・ルースのワイン大学に入学し、コスティエール・ド・ニームのシャトー・ド・ラ・チュイルリでワイン造りを研修。自然な物腰で強いイメージはないが、芯が強く貴族のスタイルを持つニコラ・ド・ロルジュリル氏を補完し、一貫してシャトーのワインビジネスを支えてきた。2018年に女性として初めて、ラングドック・ワイン委員会(CIVL)の会長に選ばれ、ラングドックワインのイメージ刷新に務めるなど、ラングドックのワイン発展に強くかかわっている。
シャトーから500メートルほど離れた、かつての羊小屋跡にシャトー・ド・ペノティエの近代的な醸造所があり、二階部分は充実した試飲ルームになっている。ワイン観光にも力を入れており、醸造所に隣接して、ワイングッズの販売店、120席のレストラン「ラ・ターブル・ド・シャトー」がある。