標高が高く冷涼な気候からブドウ栽培の適地として注目され、この15年ほどでヴィンヤード(*1)とワイナリーが増えている話題のエリア、山梨県北杜市。
今回、三つのヴィンヤードとワイナリーを中心に巡る、北杜ワインツーリズムに参加した。静謐で穏やかな時間が流れる北杜市の魅力をお届けする。(その①はこちら

*1 本記事では、自身の醸造所を有さない場合、ワイナリーとわけてヴィンヤードと表記する

シャルマンワイン

南アルプスの秀峰・甲斐駒ヶ岳の麓、白州町にある「シャルマンワイン」は、山梨県で初めてカベルネ・フランのワインを造った老舗のワイナリーだ。もともとは農家たちが集まってできた組合ワイナリーだったが、日本酒の『神鷹』やウイスキーの『明石』を手掛ける兵庫県の「江井ヶ嶋酒蔵」に吸収合併され、1964年にシャルマンワインとしてスタートした。

約1ヘクタールの自社畑ではカベルネ・フランを中心に、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、セミヨン、シャルドネ、甲州、マスカット・ベーリーAの7品種を栽培している。甲斐駒ヶ岳一帯に広がる砂質土壌は、特にカベルネ・フランに適しており、タンニンが柔らかくエレガントなワインを生み出すという。

「垣根仕立てより棚仕立てのほうが高品質なカベルネ・フランができる」と話すのは所長の山本公彦氏。樹齢30~40年のカベルネ・フランをX字長梢剪定で栽培している。

画像: 白州町は比較的雨が少ないとはいえ、病気を防ぐためには雨への対策は欠かせない。「垣根仕立てだとレインカットで済みますが、棚仕立てなので傘かけを施します。今年は4万房も傘かけをしました」と山本氏

白州町は比較的雨が少ないとはいえ、病気を防ぐためには雨への対策は欠かせない。「垣根仕立てだとレインカットで済みますが、棚仕立てなので傘かけを施します。今年は4万房も傘かけをしました」と山本氏

展示室には醸造工程やシャルマンワインにまつわる説明が書かれたパネルが並ぶ

実際に稼働しているワイナリーには立ち入れないが、隣の展示室は常時開放されていて自由に見学することができる(*2)。パネルや機械を見ながら醸造工程を学べるので、ワインビギナーには特にお勧めしたいスポットだ。

*2 自由見学は無料。山本氏の解説付きツアーは参加費1人1000円(税込)

地下へ降りると、フレンチオークの古樽と新樽が並ぶ貯蔵庫が現れる。取材時には2022年ヴィンテージのワインが熟成されていた。トップレンジのカベルネ・フランは新樽で熟成したものに、30年使った古樽で熟成したワインを20~30パーセントブレンドしているという。

ワインを樽から直接試飲できる少人数のツアー(有料)も用意されている

ワイナリーにはワインやジュース、おつまみなどを販売するショップを併設。ショップでは試飲も可能だ(*3)。サーバーのボタンを押すとワインが出てくる仕組みで、ボトルに貼られた番号はショップの棚に並べられたワインの番号に対応している。お気に入りのワインを見付けたらぜひお土産に購入したい。ワインのほか、シャルマンワイン特製のブドウジュースも試飲できるので、子どもやドライバーと楽しめるのもうれしいポイントだ。

*3 取材した2023年10月当時は無料でしたが、今後有料になる可能性もあります

画像: 取材日は、アフターのかすかな苦味がアクセントになる『シャルマン 甲州シュールリー 無濾過 2022年』やエレガントでバランスの良い『メルロ&カベルネ・フラン 尾白 無濾過 2019年』など8種類のワインが試飲できた

取材日は、アフターのかすかな苦味がアクセントになる『シャルマン 甲州シュールリー 無濾過 2022年』やエレガントでバランスの良い『メルロ&カベルネ・フラン 尾白 無濾過 2019年』など8種類のワインが試飲できた

所長の山本公彦氏。「今後も食事に合うワインを造っていきたい」

「小牧ヴィンヤード」(「穏やかなひと時に浸る、北杜ワイン旅のすゝめ その①」参照)のランチでは、シャルマンワインの『シャトーシャルマン カベルネ・フラン 白州 2017年』をいただいた。ラズベリーやバラのドライフラワーの香りが芳しく、穏やかなタンニンと高い酸が調和した上品な味わいだ。
エレガントなワインを求め、白州の地へ。南アルプスを望む景色とともに楽しんでほしい。

『シャトーシャルマン カベルネ・フラン 白州 2017年』と「信州ポークの赤ワイン煮」。ワインの熟成感がお肉の旨味によく合う

シャルマンワイン
山梨県北杜市白州町白須1045-1
TEL. 0120-35-2602 FAX. 0120-35-2605
https://www.charmant-wine.com/
【営】直売店とワイナリー見学。平日は9:00~17:00、土曜・日曜・祝日は10:00~17:00、4月〜9月の土曜・日曜・祝日は10:00〜17:30
【休】12月31日~1月4日

【お勧めスポット】甲州ワインビーフに舌鼓「カントリーレストラン キースプリング」

木の温もりが感じられる店内には、オーナーが集めたレコードや猟銃が壁に飾られている

中央道小淵沢インターチェンジから車で5分。カントリースタイルのウッディーな空間で、甲州ワインビーフのステーキと山梨ワインを楽しめるレストランがある。「カントリーレストラン キースプリング」だ。

ブドウの搾りかすを飼料にして育てた山梨県のブランド牛「甲州ワインビーフ」は、柔らかな肉質とあっさりとした脂による上品な味わいが魅力。店内でいただくのはもちろん、テイクアウトメニューも充実している。さらに、テラス席ではペットとともに食事を楽しめるので、愛犬を連れて訪れるのにもお勧めだ。

「甲州ワインビーフ リブロースステーキ」と『あけの 2020年』(グレイスワイン/品種:メルロ63%、カベルネ・ソーヴィニョン28%、カベルネ・フラン8%、プティ・ヴェルド1%)をペアリング。ステーキは和風オニオンソースやガーリックソルトなどをお好みでつけていただく。ワインの穏やかなタンニンが甲州ワインビーフのきめ細かい脂分に調和

カントリーレストラン キースプリング
山梨県北杜市小淵沢町10287-4
TEL&FAX. 0551-36-5342 http://www.kob-art.com
【営】ランチは11:30~14:30(LO14:00)、ディナーは17:00~21:00(LO20:00)
【休】年中無休

Domaine Passerelle(ドメーヌ・パスレル)

北杜市に生まれた新たなワイナリーの一つ「ドメーヌ・パスレル」を訪ねた。代表取締役の髙橋雄一郎氏は元エンジニアで、2009年に脱サラし新規就農。「山梨県ワイン酒造組合若手部会」や「千曲川ワインアカデミー」に参加してワインについて学んだ。冷涼でブドウ栽培に適していることに加え、畑からの景観が気に入ったことも後押しし、18年に八ヶ岳南麓の大泉町と長坂町に土地を購入。徐々に畑面積を拡大しながら、22年にはワイナリーを完成させた。

画像: 有機栽培を続けるべく、防虫ネットをかけるなど試行錯誤を重ねる

有機栽培を続けるべく、防虫ネットをかけるなど試行錯誤を重ねる

耕作放棄地を開墾した約2ヘクタールの畑にシャルドネやゲヴュルツトラミネール、プティ・マンサンなどを栽培。白ワインに特化して始めたワイナリーだが、赤ワインの醸造も見据えてメルロとカベルネ・フランも植樹した。

有機農業先進地の北杜市(*4)において、髙橋氏も有機農業にこだわる一人だ。有機JAS規格で使用を認められているボルドー液(*5)を年に2、3回使用するだけでその他の農薬は一切使用しない。2022年には「有機JAS認証」を取得した。
殺虫剤は使えないため虫はすべて手で取り除く必要があったり、認証を継続するために年1回の調査を受ける必要があったりと、有機栽培の選択は茨の道ともいえる。
それでも髙橋氏が環境に配慮した栽培を貫くのは、次世代に健全で希望ある未来を繋ぎたいという願いがあるからだ。ワイナリー名の「パスレル」とは「橋」を意味するフランス語で、「ワインが人と人とを繋ぐ架け橋、未来へ続く架け橋になってほしい」という思いが込められている。

*4 耕地面積のうち有機農業に取り組む面積の割合は、日本全体では0.6パーセントである中、北杜市は約2パーセントである(農林水産省調べ)
*5 硫酸銅、生石灰、水を混合した農薬。べと病(白カビがブドウの花や葉、果実に付着し落果させる病気)の予防に使われる

代表取締役の髙橋雄一郎氏。鉄工所をリノベーションしたワイナリーにて

醸造でも自然な造りを心掛け、野生酵母で発酵させる。また、香り高いワインを目指し、ワインを一切酸素に触れさせない仕組みを整えた。ブドウは収穫後すぐに冷蔵庫で冷やし、プレス機で圧搾した果汁はチューブでステンレスタンクに送る。プレス機には窒素ガスを、タンクには炭酸ガスを充満させることで酸素の入り込む隙を与えない。

そうして丁寧に造られたワインはアロマティックでフレッシュな味わいだ。『パスレル・ロゼ 2022年』(3960円)はメルロ、カベルネ・フランを約50パーセントずつ使用し、ダイレクトプレス(*6)で造ったロゼワイン。ラズベリーを思わせるチャーミングな香りで、するするとのどを通る。『パスレル・ブラン 2022年』(3960円)はシャルドネを主体に、プティ・マンサンやゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリ、シュナン・ブランをブレンド。白桃を思わせるアロマが心地いい。
2022年が初ヴィンテージということで、今後の展開がとても楽しみだ。

*6 ロゼワインの製造法の一つ。黒ブドウを直接プレスにかけて皮の色素をブドウ果汁につけ、醸造する方法

画像: 左から『パスレル・ロゼ 2022年』『パスレル・ブラン 2022年』。北杜市の酪農家が育てた乳牛から搾ったミルクで作ったチーズとともに

左から『パスレル・ロゼ 2022年』『パスレル・ブラン 2022年』。北杜市の酪農家が育てた乳牛から搾ったミルクで作ったチーズとともに

最後に、ワイン造りの思いを髙橋氏に尋ねた。
「環境に配慮した農業はそれなりのコストがかかります。さらに、新たな土地で農業を始めるには、移住先の人たちと良好な関係を結ぶことも大切です。決して簡単な道ではありませんが、一昔前に比べると行政のバックアップが強くなっているのも事実。これからも次世代につながる栽培、ワイン造りを続けていきたいですね」

ドメーヌ・パスレルでは現在、テイスティングルームを建設中だ。北杜ワインツーリズムの新たな拠点となる日が待ち遠しい。

画像: 「将来は訪問客にも対応できるよう施設や体制を整えていきたい」と今後の意気込みを語ってくれた

「将来は訪問客にも対応できるよう施設や体制を整えていきたい」と今後の意気込みを語ってくれた

Domaine Passerelle(ドメーヌ・パスレル)/八ヶ岳オーガニックヴィンヤード㈱

山梨県北杜市大泉町谷戸558-1
TEL. 0551-45-8277
*現在は一般公開していません

【お勧めスポット】混沌の時代から希望を伝える「中村キース・ヘリング美術館」

北杜市を訪れたら外せないスポットの一つが「中村キース・へリング美術館」だ。

画像: 森の中を進むと現れる「中村キース・ヘリング美術館」。「混沌から希望へ」というテーマの下、日本の現代建築をリードする建築家、北川原温氏により設計された

森の中を進むと現れる「中村キース・ヘリング美術館」。「混沌から希望へ」というテーマの下、日本の現代建築をリードする建築家、北川原温氏により設計された

アメリカ・ペンシルベニア州出身のキース・へリング(1958年~90年)は、アンディ・ウォーホルやジャン=ミシェル・バスキアなどと同様に、80年代のアメリカ美術を代表するアーティストだ。ニューヨークの地下鉄で空いた広告版に貼られていた黒い紙にチョークでドローイングを描くことを始め、コミカルで誰でも楽しめる“落書き”により、一躍有名人物となった。
パンクロックやヒップホップなど新しいカルチャーの誕生、政治的不平等やHIVの感染拡大など、熱気と危うさが入り混じった80年代のアメリカで、ポップな作品を通して反戦や差別撤廃を訴え続けたへリング。

そんな彼の作品に魅了された館長の中村和男氏(山梨県出身)が作品を集め、2007年に美術館を開いた。現在、「キース・ヘリング:NYダウンタウン・ルネサンス」展を開催中。「アンダーグラウンド・カルチャー」「ホモエロティシズムとHIV・エイズ」「社会に生きるアート」「ニューヨークから世界へ」の4章で、へリングの社会との関わりやその活動が今に与える影響を紐解く。

画像: 『マウント・サイナイ病院のための壁画』(シミックホールディングス㈱所蔵) All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation, Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection 「キース・ヘリング:NYダウンタウン・ルネサンス」展の目玉作品。ヘリングが、米国内最大規模の病院「マウント・サイナイ病院」で小児病棟の患者たちのために描いた幅約5mの壁画。本作は制作後病院へ寄贈され、以降多くの子どもたちを勇気付けた。施設の建て替えにより取り外されたのちも約30年間大切に保存されてきた

『マウント・サイナイ病院のための壁画』(シミックホールディングス㈱所蔵)
All Keith Haring Artwork ©Keith Haring Foundation, Courtesy of Nakamura Keith Haring Collection
「キース・ヘリング:NYダウンタウン・ルネサンス」展の目玉作品。ヘリングが、米国内最大規模の病院「マウント・サイナイ病院」で小児病棟の患者たちのために描いた幅約5mの壁画。本作は制作後病院へ寄贈され、以降多くの子どもたちを勇気付けた。施設の建て替えにより取り外されたのちも約30年間大切に保存されてきた

キース・へリングの功績を日本に伝える同館は、実はワインにも縁がある。中村キース・ヘリング美術館を設計した建築家の北川原温氏が描いた同館のスケッチをラベルに使用したワインが販売されたことがあるそうだ。また、同館から徒歩3分にある前述の「カントリーレストラン キースプリング」では多くのワインを取りそろえている。美術館に寄った際には、ぜひこちらのレストランにも足を運んでほしい。

中村キース・へリング美術館
山梨県北杜市小淵沢町10249-7
TEL.0551-36-8712
https://www.nakamura-haring.com/
【営】9:00~17:00
【休】不定休(開館に関する情報は公式サイトをご確認ください)
【料】一般1500円、障がい者600円、16歳以上の学生800円、15歳以下無料、20名以上の団体1500円(すべて税込)

<展覧会情報>
「キース・ヘリング:NYダウンタウン・ルネサンス」展
開催期間:2023年6月3日(土)~2024年5月19日(日)
映画『セックス・アンド・ザ・シティ』などの衣装デザイナースタイリストとして知られるパトリシア・フィールドのコレクションを展示する「ハウス・オブ・フィールド展」を同時開催。

HOKUTO WINE TOURISM

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