今年で第15回を迎えた「JETCUP(イタリアワイン・ベスト・ソムリエ・コンクール)」。全国予選を勝ち抜いた猛者たちがしのぎを削った本大会は、関西勢の活躍も目立つ展開となった。新たなイタリアワイン・ベスト・ソムリエが生まれた瞬間をリポートする。
画像: 「日欧商事」代表取締役社長のティエリー・コーヘン氏が、優勝者のコールとともに村尾真幸さんの手を高く掲げた

「日欧商事」代表取締役社長のティエリー・コーヘン氏が、優勝者のコールとともに村尾真幸さんの手を高く掲げた

ドラムロールが会場に響き、結果発表と同時に会場が大きな歓声に包まれた。
「優勝は村尾真幸さん!」

アナウンスとともに、ステージ上の新チャンピオンは喜びを満面に表した。昨年2位から、ついに「JETCUP(イタリアワイン・ベスト・ソムリエ・コンクール)」の優勝にたどり着いた女王は、緊張の中でも堂々と実力を発揮した。11月15日に開催された「第15回 JETCUP」〈主催:日欧商事/後援:駐日イタリア大使館、イタリア貿易振興会、イタリア文化会館〉の熱戦をレポートしよう。

イタリアワインに関わるソムリエの育成、その知識・技術の向上とイタリアワインの振興を目的として開催されるJETCUP。優勝者にはイタリア研修旅行をはじめ、さまざまな活躍の場が与えられ「イタリアワイン大使」の称号が授与される栄誉あるコンクールだ。

9月から10月にかけて行われた一次、二次予選を経て迎えた11月の本選(準決勝・決勝)。激戦を勝ち抜いた粒ぞろいの6名が決勝へと駒を進めた。その中から尾畑康弘氏(ヴィネリア・ヴィア・ヴィーノ)、村尾真幸さん(ワインバー エンメ)、山田琢馬氏(パレスホテル東京)の上位3名が決勝へ。全国のワイン関係者やワインファンに向けて、決勝戦はユーチューブでライブ配信もされた。

画像: 午前中の準決勝には6 名が進出。左から山田琢馬氏(パレスホテル東京)、村尾真幸さん(ワインバー エンメ)、桑原克也氏(ファロ)、福元幸佑氏(神楽坂アッカ)、尾畑康弘氏(ヴィネリア・ヴィア・ヴィーノ)、田中雅洋氏(株式会社帝国ホテル)

午前中の準決勝には6 名が進出。左から山田琢馬氏(パレスホテル東京)、村尾真幸さん(ワインバー エンメ)、桑原克也氏(ファロ)、福元幸佑氏(神楽坂アッカ)、尾畑康弘氏(ヴィネリア・ヴィア・ヴィーノ)、田中雅洋氏(株式会社帝国ホテル)

日ごろの業務レベルと寄り添うサービス力を審査

厳正な審査を担ったのは、審査員長の水口晃氏、ワインジャーナリストの宮嶋勲氏のほか、歴代のJETCUP優勝者6名とキアンティ・クラッシコの名門「バディア・ア・コルティブオーノ」からエマヌエラ・ストゥッキ・プリネッティさん、「日欧商事」代表取締役社長ティエリー・コーヘン氏の全10名だ。

審査委員

画像: 審査委員

今年の決勝は次の四つの課題で審査が行われた。①「4種類のワインのブラインド・テイスティング」、②「バックヤードを想定した設定でコミソムリエ(見習い)役が作成したワインリストと用意されたワインを比べて誤りを指摘」、③「舞台上の仮想レストランで、コミソムリエ役に指示を出しながら、大小二つのテーブルのゲスト(4人組と2人組)に行うサービス実技」、④「③で登場した2人組のゲストに3種類の食後酒をプレゼンテーション」。例年の課題①と③に加え、新しい課題② と④が出題された。

コンクールの流れ
四つの課題による審査。ブラインド・テイスティングに続きワインリストの誤りの指摘、サービス実技、食後酒のプレゼンテーションを行う。

TASK1 ブラインド・テイスティング(制限時間6分)

画像1: 第15回「JETCUP(イタリアワイン・ベスト・ソムリエ・コンクール)」村尾真幸さんが悲願の優勝

白2種、赤2種のグラスワインをそれぞれブラインド・テイスティング。「ブドウ品種」「産地
の州名」「原産地呼称」「収穫年」の4項目を回答。さらに指定された白赤各1種は味わいなど
をコメントで表現する。

<出題されたワインの正答>
品種/産地の州名/原産地呼称/収穫年
(1)ピノ・グリージョ/フリウリ - ヴェネツィア・ジュリア州/DOCフリウリ・コッリ・オリエンターリ/2019年
(2)ヴェルディッキオ/マルケ州/DOCヴェルディッキオ・ディ・マテリカ/2022年
(3)ネッビオーロ/ピエモンテ州/DOCGバローロ/2019年
(4)ネレッロ・マスカレーゼ/シチリア州/DOCエトナ/2020年

TASK2 ワインリストのチェック(制限時間90秒)

画像2: 第15回「JETCUP(イタリアワイン・ベスト・ソムリエ・コンクール)」村尾真幸さんが悲願の優勝

バックヤードの設定で、コミソムリエ役が作成したワインリストと用意されたワインを比較し、誤りがあれば指摘する。日ごろの実務の緻密さが問われる課題。リストの誤表記、冷やすべきでないワインをクーラーに入れているなど、全20カ所の間違いを時間内にどれだけ指摘できるかを問う。

TASK3 サービス実技(制限時間9分)

画像3: 第15回「JETCUP(イタリアワイン・ベスト・ソムリエ・コンクール)」村尾真幸さんが悲願の優勝

レストランを模した舞台で、コミソムリエ役に的確な指示を出しながら、スムーズで効率的なサービスができるかが問われる課題。初めに4人組のテーブルからスプマンテが注文される設定で始まる。その後、新たに2人組が来店しボトルワインの注文が入る。さらに4人テーブルからは、銘柄とヴィンテージ指定の赤ワインの注文が入るので、時間内で対応する。

TASK4 食後酒のプレゼンテーション(制限時間90秒)

課題③で登場した2人組のゲストに向けて3種類の食後酒(アマーロ、ヴィンサント、グラッパ)を提案する。それぞれのお酒の説明、飲み方の提案など、幅広い知識を基にした高いプレゼンテーション能力が求められる。

模範実技

画像: 模範サービス担当:第14回優勝者の林憲二氏(神楽坂アッカ)

模範サービス担当:第14回優勝者の林憲二氏(神楽坂アッカ)

4人組と2人組のゲストに対し、それぞれが注文したワインに適したグラスを選び、配置する順番やグラスの向きまでコミソムリエ役に指示できるかがポイント。コミソムリエ役がグラスをセッティングしている間に注文されたワインを準備しサーブする。注文が混みあう中、客を待たせないサービスができるかが試される。2人組ゲストのグラスの一つが空になっていることに気付き、サーブする気遣いも加点対象に。優勝者の村尾さんだけが唯一この点をクリアした。4人組ゲストから注文された赤ワインをデキャンタージュしてサーブするところまでが審査となる。

コミソムリエ役:第10回優勝者の矢野航氏(トラットリア・ダ・ケンゾー)

テイスティングとサービスの統合力で決着

決勝の一番手は、大阪から4年ぶりに参加した尾畑氏。落ち着いた様子でワインのテイスティングコメントを淀みなく答えていく。しかし、新たに課された課題②からやや戸惑いも見られ、サービス実技では惜しくも途中で時間切れとなってしまった。

2番目に登場した村尾さんは、課題①では素早く揺るぎないコメントをし、時間の余裕もあり堂々たる姿を見せた。サービス実技でもコミソムリエ役に的確な指示を出し、サービス実技課題をスムーズに時間内で終わらせ、課題④にも自然体で対応していた。

最後に登場した山田氏は、課題①で白ワインをテイスティングしている時に品種を言いかけたところで迷い、ロゼワインとしてコメントをし直す痛恨のミス。課題②で本調子を取り戻した様子を見せ、サービス実技ではホテルマンらしいきめ細かな説明やゲストと会話を楽しむ自然なやりとりで心地いい空気感を作り、好印象を残した。

結果は村尾さんが優勝。2位が山田氏、3位が尾畑氏。優勝に輝いた村尾さんは、壇上で安堵と喜びをかみしめつつ、サポートしてくれた関係者や仲間へ感謝の気持ちを表した。その上で「ソムリエである前に、サービスする人としてお客さまに喜んでいただけるようこれからも心掛けたい」と、サービスに向き合う心意気を語った。

《優勝》村尾真幸さん(ワインバー エンメ)

Comment by Ms. Miyuki MURAO
今回の出場を最後にしようと決めてからは、優勝しか目指していませんでした。昨年までは、こうしなければならないという形にこだわりすぎていましたが、今年はいつも通りのことをやろうと考えを変えたら、リラックスして臨めて、結果も出せました。ソムリエである前にサービスマンとして、常にお客さまに喜んでもらえるように接する姿勢はこれからも大切にしていきたいです。

《2位》山田琢馬氏(パレスホテル東京)

Comment by Mr. Takuma YAMADA
緊張感の中でテイスティングに迷いがありました。コメントを変えたのは一瞬の判断で、魔が差したとしか言えません。サービスはよくできたと思うので、来年はリベンジしたいです。

《3位》尾畑康弘氏(ヴィネリア・ヴィア・ヴィーノ)

Comment by Mr. Yasuhiro OBATA
後輩に刺激を受けて久しぶりに挑戦しましたが、大阪にもイタリアワインの人材がいることを示せたと思います。若手と一緒に勉強して次も挑みたいです。

全方位型のサービス力を問うJETCUP

審査員長の水口氏は「優勝した村尾さんは、知識力、テイスティング能力、サービス力のバランスが取れていました。ほかのコンクールで好成績を残す参加者を抑えたのは、現場で培われた安定感があったから」と審査を振り返った。特別審査員のエマヌエラさんは「『ソムリエである前にサービスマンである』という村尾さんの姿勢が素晴らしかった。これからも女性の活躍に期待したい」と新チャンピオンを讃えた。

宮嶋勲氏(ワインジャーナリスト)は「皆さんテキパキと表現をされていたのが良かったと思います。村尾さんも何度も出場した先の優勝でしたから、諦めずに出続けることも大事ですね」と話す。塚元晃氏(THE SORAKUEN) は「大阪会場から決勝に2人も残ったことで、東京以外から上位を目指す人たちの励みにもなります」と来年の参加者へ期待を寄せた。

最後に永瀬喜洋氏(クアトロヴィーニ)は、「質の高いサービスを日ごろから実践していると緊張の中でも体は動きます。常にイタリアに興味を持って接し、偏りのない知識で隙を作らないことが結果を残す近道になる」と、参加者へのアドバイスを語ってくれた。
ゲストを楽しませる空間を作り出し、1人1人に寄り添う心地いいサービスを実践する力が問われるJETCUP。来年もさらに高みを目指す実力者ぞろいの熱戦が期待できそうだ。

画像: 全方位型のサービス力を問うJETCUP

text by Go FUKUSAKI, photographs by Kentaro TAKIOKA

問い合わせ先:日欧商事㈱ TEL. 0120-200105

『ワイン王国 138号』掲載

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