オタゴのサブリージョンの個性を生かしたワインを手掛けるニュージーランドの「ヴァリ・ヴィンヤーズ」から、ワインメーカーのジェン・パーさんが来日した。「アカデミー・デュ・ヴァン」講師の楠田卓也氏をコーディネーターに迎え開催されたセミナーで、四つのサブリージョンから生まれるピノ・ノワールを試飲。オタゴの多様性を体験した。

南半球に浮かぶ島国、ニュージーランド。豊かな果実味と冷涼気候から来るエレガンスを兼ね備えたワインを生み出す産地だ。「アカデミー・デュ・ヴァン」講師の楠田卓也氏は、ニュージーランドを次のように説明する。

「雨が少なく乾燥していて、1日の寒暖差が20℃ある日も多い。非常に涼しい地中海性気候の下で高品質なワインが生まれています。また、ニュージーランドは最後に現れた新世界産地。世界各地のワイン産地が品質向上に力を入れ始めた1970年代以降の知識・経験が一気に集結され、瞬く間に銘醸地の地位を確立しました」

国内のブドウ栽培面積はおよそ4万1000ヘクタールで、白ブドウが81パーセント、黒ブドウが19パーセントを占める。主要品種はソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワール。今回試飲した「ヴァリ・ヴィンヤーズ」が拠点とするセントラル・オタゴ地区は、マールボロ地区に次ぐピノ・ノワールの一大産地で、セントラル・オタゴの総栽培面積の76パーセントをピノ・ノワールが占めるほどだ。

ヴァリ・ヴィンヤーズ

ヴァリ・ヴィンヤーズは1993年に、当主のグラント・テイラー氏によって設立された。アメリカ・カリフォルニア州やオレゴン州でワイン造りを経験し、93年に地元のセントラル・オタゴに帰ってきたテイラー氏が「オタゴのサブリージョンの個性を生かした高品質なワインを造りたい」と立ち上げたワイナリーだ。

今回来日したジェン・パーさんは、2015年から同ワイナリーのワインメーカーとして活躍している。オレゴン州の出身で、大学卒業後はIT系企業の営業担当として働いていたが、好きが高じてワインの世界へ飛び込んだ。数々のワイナリーで研鑽を積み、テイラー氏と出会ったことを機に同ワイナリーに参画。

画像: ワインメーカーのジェン・パーさん(©Anna Allan)

ワインメーカーのジェン・パーさん(©Anna Allan)

ヴァリ・ヴィンヤーズは、ギブストンを拠点に、バノックバーン、ベンディゴ、ワイタキに畑を所有。今回のセミナーでは、パーさんの解説とともに、各サブリージョンのピノ・ノワールやピノ・グリのオレンジワインをテイスティングした。

画像: ヴァリ・ヴィンヤーズ

『ギブストン ピノ・ノワール 2020年』品種:ピノ・ノワール100% 希望小売価格:7920円(税込)

『ギブストン ピノ・ノワール 2016年』品種:ピノ・ノワール100% 希望小売価格:7920円(税込)

まずは、セントラル・オタゴの中で最も冷涼なギブストン。川が近くを流れる砂利の多い土壌で、果皮の薄いピノ・ノワールからタンニンの控えめなライトなワインが生まれるという。
『ギブストン ピノ・ノワール 2020年』は若々しい赤系果実の香り。果実味は中程度で酸は穏やか、余韻にかけて渋味がやさしく広がるピュアなワインだ。同じく2016年は、イチゴの香りに、ややヨーグルトのニュアンスやクミンなどのスパイス。熟した果実味と穏やかな酸を感じ、控えめなタンニンや苦味がいいアクセントになっている。

『バノックバーン ピノ・ノワール 2020年』品種:ピノ・ノワール100% 希望小売価格:7920円(税込)

続いて、より温暖で乾燥したバノックバーン。
「私たちはバノックバーンの中でも標高の高いエリアに畑を所有しており、フレッシュでフルーティーなブドウが得られる。ピノ・ノワールはシルキーなテクスチャーになります」とパーさん。
『バノックバーン ピノ・ノワール 2020年』は、香りは熟したブルーベリーに土っぽさも。やや凝縮した果実味と中程度の酸が調和し、穏やかながら骨格のあるタンニンが味わいを引き締める。

『ベンディゴ ピノ・ノワール 2020年』品種:ピノ・ノワール100% 希望小売価格:7920円(税込)

ベンディゴはセントラル・オタゴで最も温暖なエリアだ。ヴァリ・ヴィンヤーズでは、ベンディゴで標高が高い畑を所有しているが、それでもバノックバーンよりも気温が高いという。
「さまざまな要素のパワーが強くも、そのバランスが取れたブドウが収穫できるエリアです」とパーさんは話す。
『ベンディゴ ピノ・ノワール 2020年』は、赤系果実の豊潤な香りに、黒系果実や鉄の印象が重なる。よく熟した果実味にシャープな酸がバランスを保ち、ほんのりと旨味も感じられる。

『ワイタキ ピノ・ノワール 2020年』品種:ピノ・ノワール100% 希望小売価格:9020円(税込)

ほかのサブリージョンから離れたノース・オタゴに位置し、オタゴで唯一の海洋性気候であるワイタキでできるワインは豊かなミネラルを特徴とする。石灰質土壌の広がる冷涼な地から、穏やかかつ滑らかなタンニンと野性味を併せ持つピノ・ノワールが生まれる。
『ワイタキ ピノ・ノワール 2020年』はフレッシュな野イチゴにジビエやキノコ、白コショウなど、ふくよかで複複雑な香り。タンニンは滑らかで、穏やかな酸と、余韻にはミネラルを伴った心地いい苦味が感じられる。

『“ザ・リアル・マッコイ” ピノ・グリ オレンジワイン 2022年』品種:ピノ・グリ100% 希望小売価格:5170円(税込)

今回のセミナーでは、ピノ・グリを使ったオレンジワインも登場した。『“ザ・リアル・マッコイ” ピノ・グリ オレンジワイン 2022年』は、柑橘類のジューシーな香りにトーストのニュアンスも。香りに共通する柑橘類の果実味はやや厚みがあり、タンニンから来る若干の苦味も感じる。シャープな酸は、口中で解けて横に伸びていく。
「フードフレンドリーで香り高いワインです。ピノ・ノワールやシャルドネより熟成のスピードが遅く、長期熟成のポテンシャルもあります」とパーさん。

各サブリージョンの2020年ヴィンテージのピノ・ノワールを試飲したが、2020年は非常に冷涼で困難なヴィンテージだったという。バノックバーンやベンディゴなどの温暖な地域でも気温が低く、生産量は通常の半分にまで落ち込んだ。ギブストンではボトリングしない生産者もいたというが、ヴァリ・ヴィンヤーズでは長い生育期間を経て成熟したブドウを通常通りの収量で確保し、問題なくワインを造ることができた。

「各サブリージョンの個性に加え、困難なヴィンテージでもその個性をも生かしたワインを造っています。そして、果実味だけではなく、スパイシーさ、滑らかなテクスチャーが発揮されているかを常に意識しています」とパーさん。彼女が醸造に携わって、よりエレガントになったヴァリ・ヴィンヤーズ。各産地、各ヴィンテージに向き合って味わいたい。

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