ニュージーランド大使館で「ワインで旅するニュージーランド」をテーマにイベントが開かれた。ゲストに㈱WS代表取締役・ワインディレクターの田邉公一氏とトラベルエディターの伊澤慶一氏が登壇し、それぞれ、ニュージーランドのワインと旅の魅力をたっぷりと語った。

太古からの自然、食の宝庫

国土のほぼ3分の1が国立公園などとして環境保護の対象となっているニュージーランドでは、太古から受け継がれてきた大地や森林が今も大切に守られている。また、ニュージーランドの人々の気さくで親しみやすい人柄もこの国の魅力だ。「マナキタンガ」(先住民マオリの言葉で「おもてなしの心」を意味する)の精神が根付いており、同国を訪れた人々を「ファナウ(家族)」の一員として歓待してくれる。

成田空港からニュージーランド北島のオークランド国際空港への直行便は毎日運航されている。ニュージーランド国内は路線バスが発達しているので、到着後の交通の便が良くありがたい。車は日本と同じ右ハンドルのためレンタカーでドライブするのもお勧めだ。

どこかのんびりした雰囲気が満ちたニュージーランドは、食の宝庫でもある。国全体で農畜産業が盛んで、国内最大の輸出品である乳製品や、キウイフルーツ、牛肉、ハチミツなども有名だ。何と言っても、ワインラバーにとってはワインの名産地として知られていることだろう。

エレガントでフルーティーなシャルドネ

ニュージーランドは南太平洋に浮かぶ島国で、約1600キロにわたり南北に長く伸びる国土を有する。ホークス・ベイ、ギズボーン、ネルソンなどの産地がある北島と、ワイタキ・バレー、マールボロ、セントラル・オタゴなどがある南島に分かれる。産地は東側に集中しているが、これは、島の背骨に当たるサザン・アルプス山脈が西からやってくる雨雲を防ぐことで、東側は乾燥した気候になるからだ。

国の代表品種であるソーヴィニヨン・ブランは、全生産量の70パーセント以上を占める。1979年に初めて商業用に生産されて以降、ニュージーランドのワイン産業を牽引し続けている品種だ。白品種の生産量第2位のピノ・グリに続くのがシャルドネ。生産量は2万2528トンと、ソーヴィニヨン・ブランの37万8300トンの約6パーセントだが、各地域で高品質なワインが生み出されている(*)。

* 生産量のデータは2023年現在。ニュージーランドワイングロワーズの統計より

「ニュージーランドのシャルドネはブルゴーニュに近いスタイルですが、パイナップルやアプリコットなどのトロピカルフルーツの印象がより豊かです」とワインディレクターの田邉公一氏。

画像: 田邉公一氏 Kouichi TANABE ㈱WS代表取締役・ワインディレクター。レストランやワインショップ、スクールを中心に、都内外の複数の企業のワイン、飲料の監修やセミナー講師を務める。近著に『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)

田邉公一氏 Kouichi TANABE
㈱WS代表取締役・ワインディレクター。レストランやワインショップ、スクールを中心に、都内外の複数の企業のワイン、飲料の監修やセミナー講師を務める。近著に『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)

イベントでは3種類のシャルドネが紹介された。まずは「トリニティ・ヒル」が手掛ける『ギムレット・グラヴェルズ シャルドネ 2022年』。このワインが生まれるホークス・ベイはシャルドネで有名な産地で、なかでもギムレット・グラヴェルズは河川から堆積した石の多いエリアだ。骨格のしっかりしたボルドー品種やシラーに定評がある。トリニティ・ヒルがギムレット・グラヴェルズの可能性にいち早く気付き、1993年にこの地に初めてブドウ樹を植えた。
「チョークや貝殻などの穏やかな香りに、洋ナシ、黄リンゴ、アーモンドやヴァニラが続きます。アタックは滑らかで、余韻にミネラルが感じられる軽やかなワインです」

ギムレット・グラヴェルズ シャルドネ 2022年
Gimblett Gravels Chardonnay
生産者:トリニティ・ヒル 輸入元:ヴィレッジ・セラーズ 希望小売価格:6380円(3月発売予定)
*現行ヴィンテージは2021年(希望小売価格:6160円)

60カ国以上に輸出するニュージーランドのリーディング・カンパニー「ヴィラ・マリア」がギズボーンで造る『マクダーミッド・ヒル シャルドネ 2021年』は「黄桃やパイナップル、ナッツなどのはっきりとした香りに、ややチョークのニュアンスが重なります。アルコール由来の甘やかさがあり、まろやかで厚みのある味わい。酸は比較的穏やかで全体のバランスが取れています」と田邉氏。
ギズボーンはニュージーランド最東端の産地で、作付面積の半分以上をシャルドネが占める。非常にアロマティックなワインを生み出し「ニュージーランドにおけるシャルドネの都」と呼ばれる。

マクダーミッド・ヒル シャルドネ2021年
McDiarmid Hill Chardonnay
生産者:ヴィラ・マリア 輸入元:三国ワイン 希望小売価格:2200~3300円

最後は1998年にマオリ3団体の協力により設立された「トフ・ワインズ」の『トフ・フェヌア・マトゥア シャルドネ 2020年』が登場。
「アプリコットなど、トロピカルでアロマティックな香りにヘーゼルナッツも。厚みのある果実味で、味わいにはコクがあります」
産地は南島北端のネルソン地方。生産量はソーヴィニョン・ブランが最も多いが、ここで生まれるシャルドネは深み、エレガンス、複雑味を特徴とし、長期熟成に耐える上質なワインを生み出す産地でもある。

トフ・フェヌア・マトゥア シャルドネ2020年
Tohu Whenua Matua Chardonnay
生産者:トフ・ワインズ 未輸入

田邉氏は「ソーヴィニヨン・ブランで有名なニュージーランドですが、シャルドネにも力を入れていて、非常に高いレベルのシャルドネを造っている。比較的リーズナブルで、世界で戦えるレベルだと思います」と絶賛した。

明るい果実味と緻密なタンニンが魅力のピノ・ノワール

ニュージーランドで最大の生産量を誇る黒ブドウがピノ・ノワールだ。
「レッドチェリーなどの明るい果実味が前面に現れやすい。熟成するとなめし革や動物的なニュアンスも感じられますが、ブルゴーニュよりも控えめな印象です。タンニンが緻密でシルキーな舌触りが魅力です」とニュージーランドのピノ・ノワールの特徴を解説した。

ピノ・ノワールの1本目は、セントラル・オタゴのピノ・ノワールを世界的に有名にしたワインメーカー、グラント・テイラー氏が立ち上げた「ヴァリ・ヴィンヤーズ」の『ワイタキ ヴィンヤード ピノ・ノワール 2021年』。このワインの産地はワイタキ・ヴァレー。夏は温かくブドウがゆっくりと熟し、秋が長く乾燥した冷涼な気候となる。
「このワインは、赤系果実を中心に、ピンクのバラやゼラニウム、ナツメグの香り。生き生きとした酸と細やかなタンニンがあり、13~14℃の少し低めの温度で楽しむのがいいでしょう」と田邉氏。

ワイタキ ヴィンヤード ピノ・ノワール 2021年
Waitaki Vineyard Pinot Noir
生産者:ヴァリ・ヴィンヤーズ 輸入元:ラック・コーポレーション 希望小売価格:9350円

続いて、800年前のマオリ入植者を祖先に持つヘイズリー・マクドナルド氏が2011年に設立した「テ・パ・ワインズ」より『リザーブ・コレクション テイラー・リヴァー ピノ・ノワール 2020年』が登場。
「色調はやや濃いめのラズベリーレッドで、ブルーベリーやイチゴ、ナツメグが香り、フローラルな印象。やや甘やかな果実味を感じます。タンニンは溶け込み、酸は柔らかい。このワインの産地、マールボロはソーヴィニヨン・ブランで名高いのですが、ピノ・ノワールでも有名です」と田邉氏。ピノ・ノワールは、この地区でソーヴィニヨン・ブランの次に多く栽培されている品種で、栽培家により区画とクローンの選別が進んでいる。

リザーブ・コレクション テイラー・リヴァー ピノ・ノワール 2020年
Reserve Collection Taylor River Pinot Noir
生産者:テ・パ・ワインズ 未輸入

最後は、プレミアムワインにフォーカスするセントラル・オタゴの造り手「プロフェッツ・ロック」の『ホーム・ヴィンヤード 2019年』をテイスティング。セントラル・オタゴは世界最南端のワイン産地の一つで、ニュージーランドで唯一の半大陸性気候だ。寒暖差が激しいため、よく熟した酸の高いブドウが収穫できる。
「ラズベリーやブルーベリー、カシスにシナモンのスパイスも。ややスモーキーで紅茶のニュアンスがあります。凝縮度が高く、熟成が期待できますね」

ホーム・ヴィンヤード 2019年
Home Vineyard
生産者:プロフェッツ・ロック 輸入元:GRN 希望小売価格:6050~1万6500円

画像: イベントで紹介された6種類のワイン。左から『ホーム・ヴィンヤード 2019年』(プロフェッツ・ロック)/『リザーブ・コレクション テイラー・リヴァー ピノ・ノワール 2020年』(テ・パ・ワインズ)/『ワイタキ・ヴィンヤード ピノ・ノワール 2021年』(ヴァリ・ヴィンヤーズ)/『トフ・フェヌア・マトゥア シャルドネ 2020年』(トフ・ワインズ)/『マクダーミッド・ヒル シャルドネ 2021年』(ヴィラ・マリア)/『ギムレット・グラヴェルズ シャルドネ 2022年』(トリニティ・ヒル)

イベントで紹介された6種類のワイン。左から『ホーム・ヴィンヤード 2019年』(プロフェッツ・ロック)/『リザーブ・コレクション テイラー・リヴァー ピノ・ノワール 2020年』(テ・パ・ワインズ)/『ワイタキ・ヴィンヤード ピノ・ノワール 2021年』(ヴァリ・ヴィンヤーズ)/『トフ・フェヌア・マトゥア シャルドネ 2020年』(トフ・ワインズ)/『マクダーミッド・ヒル シャルドネ 2021年』(ヴィラ・マリア)/『ギムレット・グラヴェルズ シャルドネ 2022年』(トリニティ・ヒル)

イベントではニュージーランドのワインとチーズのペアリングも体験した。1984年に設立された家族経営のチーズメーカーを起源に持つ「カピティ」のチーズ6種類にアレンジを加えたチーズボードが登場。「カピティ」とは、二つの部族の土地の分岐点を意味するマオリ語「Kapiti」に由来し、ブランドを通して地域の文化や特徴を大切にしている。

画像: ワインで旅するニュージーランド 自然と食を満喫できる癒やしの島国

(奥の列、左から)『パカリ エージド ブラックカラント チェダー』『パカリ スモーク チェダー』『キコランギ トリプル クリーム ブルー』
(手前の列、左から)『カヌカ スモークハバティ』『甲斐ノワール・キコランギ』『パカリ エージド チェダー』

マヌカハニーを添えたキコランギ トリプル クリーム ブルーは滑らかな口当たりで、塩味も穏やかなため非常に柔らかい印象だ。
「『ホーム・ヴィンヤード 2019年』と合わせると、チーズとワインが味を補完し合って、口中で五味が完成する。また、ピンクペッパーをアクセントに添えると赤ワインに寄り添います」と田邉氏。

カヌカ スモーク ハバティは海苔を巻いてアレンジ。
「『ワイタキ ヴィンヤード ピノ・ノワール 2021年』と合わせるとヨード感とマッチして、海苔の香りが広がりますね。チーズ単体で合わせるなら『マクダーミッド・ヒル シャルドネ2021年』か『トフ・フェヌア・マトゥア シャルドネ2020年』。ワインの持つクリーミーさがチーズの厚みある味わいにマッチします」

カピティのチーズはどれも味の主張が強すぎず、全体的に穏やか。エレガントなニュージーランドのワインにぴったりなチーズなので、ぜひさまざまなペアリングに挑戦してほしい。

ニュージーランドを旅するなら、知られざるワインの島「ワイヘキ島」へ!

自然にワイン、チーズと魅力溢れるニュージーランド。トラベルエディターの伊澤慶一氏が特にお勧めするエリアがワイヘキ島だ。

「美しいビーチが点在するワイヘキ島は、オークランドに住む人々の週末のリゾート地として親しまれています。実はここ、ニュージーランド国外にとっては“知られざるワインの島”なんです。ニュージーランドワイン全体の1パーセントにしか満たないごく少ない生産量ですが、質の高いワインを生み出しています」と伊澤氏。

画像: 伊澤慶一氏 Keiichi IZAWA トラベルエディター。『地球の歩き方』編集部で国内外のガイドブックを多数手掛けた後、2017年に独立。現在は、雑誌の海外特集の制作やウェブでの旅連載、イベントプロデュースや映像ディレクションなど、幅広く旅行コンテンツの制作を行う

伊澤慶一氏 Keiichi IZAWA
トラベルエディター。『地球の歩き方』編集部で国内外のガイドブックを多数手掛けた後、2017年に独立。現在は、雑誌の海外特集の制作やウェブでの旅連載、イベントプロデュースや映像ディレクションなど、幅広く旅行コンテンツの制作を行う

ワイヘキ島ではカベルネ・ソーヴィニヨンを主体にブレンドして造るワインがよく造られている。冷涼な海風が吹き、ほかの地域よりも暖かく乾燥した海洋性気候で、独特のテロワールを持つ産地だ。

伊澤氏は「ワイヘキ島には、レストランや宿が併設された訪れやすいワイナリーがあります。ニュージーランドに行った際にはぜひ立ち寄ってください」と、30以上ある中から四つのワイナリーを紹介した。

画像: ワイヘキ島のブドウ畑(©Miles Holden)

ワイヘキ島のブドウ畑(©Miles Holden)

タンタラス・エステート
2013年設立。最高級のボルドースタイル、ローヌスタイルのワインを手掛ける新進気鋭のワイナリー。
「併設レストランのレベルが高い。南アフリカの星付きレストランで働いたシェフの料理が楽しめます」(伊澤氏)

マン・オー・ウォー
「60ヘクタールの自社畑を持つ、島で最大級のワイナリーです。オーシャンヴューのレストランを併設しています」

ストーニーリッジ・ヴィンヤード
フランスのグルメガイド『ボタン・グルマン』の格付で、ファーストラベルの『ラローズ』がボルドーの「ペトリュス」や「シャトー・ラトゥール」と並んで1級に選出されたことで注目を集めたワイナリー。
「ラローズは400ニュージーランドドル(2024年1月現在、日本円で約3万6000円)とかなり高価なワインですが、ワイナリーに行けばテイスティングできますよ」

マッドブリック・ヴィンヤード&レストラン
「高台のレストランからの眺めが素晴らしい。フェリー乗り場からすぐの所に位置するので、アクセスも抜群です」

伊澤氏は「日本とニュージーランドは4時間しか時差がなく(サマータイム中)、体への負担が少ないのも魅力の一つです。ワイナリーでテイスティングをしていると、グラスにたくさん注いでくれたりと、おもてなし精神が旺盛。皆さんもぜひニュージーランドの旅を楽しんでください!」とイベントを締めくくった。

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