ニュージーランドワイン試飲・商談会2024に併せて来日した「フォリウム・ヴィンヤード」の栽培兼醸造家 岡田岳樹氏が、8アイテムの試飲を交えながら最新ヴィンテージの特徴やこだわりのワイン造りについて語った。
2003年にニュージーランドへ渡り、昨年20年という節目を迎えた岡田岳樹氏。南島マールボロ地方の「フォリウム・ヴィンヤード」(以下フォリウム)とは2010年の創設当初から関わり、現在は栽培と醸造のすべてを取り仕切っている。要の品種はソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールだが、2021年からシャルドネにも着手した。
マールボロのソーヴィニヨン・ブランの特徴
岡田氏はマールボロについて「この50年で最も成功した産地」と言及。その立役者はニュージーランドを世界のワイン産地に押し上げたソーヴィニヨン・ブランである。ちなみにニュージーランドの総栽培面積の約7割は最大の産地マールボロであり、マールボロの約9割がソーヴィニヨン・ブランを栽培している。
ニュージーランドのワイン生産者団体「ニュージーランド・ワイングロワーズ」は、ソーヴィニヨン・ブランについて「非常にアロマティック。さわやかで明確、優れた純粋さと刺激的な個性を備えている」と明記しているが、近年の研究でその原因物質が特定された。グレープフルーツやパッションフルーツのような香り成分のチオール類である。ただし、チオール類はブドウの果実には存在せず、果汁の中に含まれる前駆体から酵母の働きによって生成されるので、それを最大限にするためには、「果汁中の窒素や紫外線の多さ、古樹より若樹、コルクよりスクリューキャップが好ましく、手摘みではなく機械収穫にすると倍以上の量になる」と岡田氏。マールボロの多くの生産者はこれらの研究結果を踏まえ、ブドウ栽培を実践している。
「フォリウム・ヴィンヤード」が求めるワインスタイル
フォリウムは小規模ワイナリーのため、他のワイナリーとの差別化を重視。その一つがヴィンテージファーストである。岡田氏はワイナリー設立の翌年からドライファーミング(非灌漑)を導入した。世界中が気候変動の影響下にあるが、ニュージーランドでも2022年は雨が多く、フォリウムでもソーヴィニヨン・ブランにボトリティスが発生。岡田氏はそれを逆手に取り、辛口タイプだけでなく、甘口ワインの生産に踏み切った。また、23年には大型のサイクロン“ガブリエル”が襲来。北島のホークス・ベイは洪水となり、南島でも灌漑をしている他のワイナリーの畑には被害が出た。
非灌漑による栽培を開始して10年以上が経過した今、ブドウ樹は地中深く根を張るだけでなく、地面に並行して根を広げていることで、雨が降らない年でもたくましさを発揮している。
岡田氏は「灌漑をせず、手摘み100パーセントを実践することで、より凝縮した完熟ブドウの収穫が可能になり、結果的にグリーンな青臭さ(メトキシピラジン)が軽減でき、ヴィンテージごとの違いが明確に表現できる。ワインの味わいは雨が降らなかった年より、少し降ったほうが自分好み」と語っていた。加えて、非灌漑のメリットは、1ヘクタール当たり180万リットルの節水にも繋がり、SDGs対策になっている。
「聴いてすぐに作者がわかる楽曲ってすごいと思う。それと同じように、飲んですぐにフォリウムのワインだと理解してもらえればうれしい」と岡田氏。そのために最優先していることがヴィンテージ(収穫年)ファーストなのだ。
text & photographs by Fumiko AOKI
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