「ブルーノ・パイヤール」は1981年に誕生したシャンパーニュ・メゾンだ。1704年からブドウ栽培とネゴシアン(ワイン商)を営む家に生まれたブルーノ・パイヤール氏が設立した。「白亜質土壌から生まれたブドウで高品質なシャンパーニュを造る」という明確なヴィジョンを掲げていたパイヤール氏は、メゾン設立後に自社畑を取得。現在は契約畑に加え、モンターニュ・ド・ランス地区、ヴァレ・ド・ラ・マルヌ地区、コート・デ・ブラン地区、コート・デ・バール地区レ・リセ村にある計25ヘクタールの自社畑から採れたブドウを使ってピュアでエレガンス溢れるシャンパーニュを手掛けている。2007年からはパイヤール氏の娘で共同経営者のアリス・パイヤールさんが、父とともにメゾンを運営している。
今回来日したアリスさんは、ブルーノ・パイヤールを「ハイブリッドなメゾン」と表現する。
「一般的なメゾンでは、自社畑の割合は全体の10パーセント程度ですが、ブルーノ・パイヤールは契約畑と自社畑が25ヘクタールずつと、その割合は50パーセントにも及びます。また、巨大メゾンの年間生産量は100万本ほどであるのに対し、私たちは約50万本と半分の量を生産しています」
安定した生産量を保ちながらも、手の届く範囲で高品質なシャンパーニュを手掛けるという面も持ち併せたメゾンなのだ。
テロワールの個性に着目
設立当初より白亜質土壌のテロワールにこだわってきたブルーノ・パイヤールだが、品種よりもテロワールの個性に着目したというのが『ブラン・ド・ブラン エクストラ・ブリュット グラン・クリュ MV』だ。ル・メニル・シュル・オジェ村とオジェ村の南北に広がる15区画の畑で採れたシャルドネを使用している。柑橘類や塩っぽい香りに、アーモンドやトーストなど少し火を入れたようなニュアンスを感じる。
「肉付きがよくフルーティーでオープンなオジェと、ヨード香を漂わせるル・メニル。ル・メニルは年月を経ると真価を発揮する産地で、バンドでいえばベースのような立場ですね」とアリスさん。
こちらは1990年から続く25ヴィンテージのリザーヴワイン(*1)をブレンドしている。通常のシャンパーニュより気圧を抑えるドゥミ・ムースという手法で造られ、ガス圧は4.5気圧程。繊細な泡立ちが口中に広がる。
*1 貯蔵してある良作年の原酒
ブルーノ・パイヤールはデゴルジュマン(*2)の表記を始めた先駆者としても知られる。デゴルジュマンの際にボトルを開けた時からワインが次第に酸化していくため、飲みごろを判断する上でデゴルジュマンの日付が非常に重要な情報と考えに基づいている。『エクストラ・ブリュット プルミエール・キュヴェ MV』は、ブルーノ・パイヤール氏のヴィジョンを色濃く反映した、メゾンのスタイルを代表するシャンパーニュだ。
「プルミエール・キュヴェを第1章とすると、こちらは第2章」とアリスさんが語るのが『キュヴェ・スワサン・ドゥーズ エクストラ・ブリュット MV』。3年間、シュール・リー(*3)の状態で熟成させたプルミエール・キュヴェをデゴルジュマンした後、さらに3年間の瓶内熟成を経てキュヴェ・スワサン・ドゥーズはリリースされる。出荷までに72(フランス語で「スワサン・ドゥーズ」)カ月熟成させることからこの名が付けられた。
*2 瓶内2次発酵の際に生じるオリを瓶口に集め、取り除く作業。機械で行うところが多いが、手作業で行うところもある
*3 発酵後、オリを取り除かずにそのまま春まで置き、上澄みを瓶詰めする製法
プルミエール・キュヴェは、レモンやキイチゴなどのフレッシュな香りに生き生きとした果実味が感じられる。そこからさらに3年の時を経たキュヴェ・スワサン・ドゥーズは、テクスチャーはよりクリーミーになり、香りはオレンジや白い花にスパイスのニュアンスを備え、生き生きとしながらも包容力のあるスタイルに変化していた。
村ごとに造るコトー・シャンプノワ
セミナーでは、シャンパーニュ地方で造られるスティルワイン「コトー・シャンプノワ」も試飲した。登場した2020年ヴィンテージは、秋から冬にかけて雨が多かったため土中に水分がしっかりといきわたり、ブドウの成長が早く、開花はスムーズだった。夏以降はあまり雨が降らず、水分ストレスにより一部のブドウの生育に遅れが見られたものの、徐々に成熟し果実味豊かなブドウが収穫できたという。
ブルーノ・パイヤールのコトー・シャンプノワは、高樹齢のブドウを使用し、通常より収穫量を30~50パーセント抑えることで凝縮感のあるスタイルを生み出している。
村別のコトー・シャンプノワは、フランスの3ツ星シェフ、故ジョエル・ロブション氏のリクエストにより造られはじめ、以来20年が経つそうだ。
オジェとル・メニル・シュール・オジェはシャルドネ100パーセント。オジェはまろやかでル・メニルは酸が鋭く、キャラクターは正反対だ。ピノ・ノワール100パーセントで造るレ・リセとマイィも、異なる個性をみせてくれた。ベリー系の果実感が開放的な印象を与えるレ・リセに対し、マイィはややスモーキーなニュアンスが感じられる。
ブルーノ・パイヤールは、白亜質を中心としたテロワールの中でミクロな多様性を追求している。
*価格は税込