本企画は「ボルドー・プリムール2025 特別レポート」の後編となります。
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6. シャトー・ジャン・フォール――「太陽(スーリャ)」と名付けられた復活の結晶

画像: 2025年ヴィンテージは、サンスクリット語で「太陽」を意味する「Surya(スーリャ)」と名付けられた

2025年ヴィンテージは、サンスクリット語で「太陽」を意味する「Surya(スーリャ)」と名付けられた

シュヴァル・ブランやフィジャックに隣接する絶好の地、サンテミリオンの粘土質台地の中心部に18haの単一区画を持つジャン・フォールがある。かつて「グルヌイエール(カエルの生息地)」と呼ばれた湿地帯だ。驚くべきは右岸では珍しいCFが古くから65%も植えられていたこと。理由は歴史の謎だが、苗木はオーゾンヌ由来のセレクション・マサルというから血統は申し分ない。

冷凍食品「ピカール」を売却し、1999年にルーションのマス・アミエルを買収してブドウ栽培に参入したオリヴィエ・ドゥセル氏が、このシャトーを購入したのは2004年。前オーナーの死去や子息の事故で荒廃していた畑と醸造所を、排水整備、2017年オーガニック、2022年醸造所新設、2023年ビオディナミ認証と、「魔法のテロワール」を表現すべく膨大な投資を続けてきた。氏夫妻はいつも自然で、人をそらさない魅力がある。

画像: 18haの単一区画が広がるジャン・フォールの全景

18haの単一区画が広がるジャン・フォールの全景

2025年は、サンスクリット語で「太陽」を意味する「Surya(スーリャ)」と名付けられた。3月29日の理想的な芽吹き後、5月の天候不順が結実不良を招き自然な収量制限に。ヴェレゾンは7月17日に始まり、8月6〜17日は12日連続30℃超、最高41.3℃の熱波に見舞われたが、8月20日の恵みの雨(30mm)が熟成を再始動させ、史上最も早い9月4〜18日に収穫した。ドゥセル氏が追うのは「ブルゴーニュ的」な繊細さと緊張感だ。少量の完熟CFの茎を圧搾に加えフレッシュさを与えた。ブレンドはCF65%、M33%、マルベック2%、アルコール13.5%、pH3.65、総酸度3.15g/L、生産4万6千本。熟成はオーク大樽40%、新樽25%、1年使用樽25%、コンクリートと陶器製エッグ10%だ。

CF65%という構成はサンテミリオンでも類を見ず、ロワールでも新世界でもない「粘土の上のフラン」の可能性を示す1本だ。試練と歴史、人々の情熱が「太陽」の輝きとして詰められた2025年は、ジャン・フォール復活の20年余を締めくくる精緻なヴィンテージである。

画像: 2025年ヴィンテージ「Surya(スーリャ)」数値サマリー

2025年ヴィンテージ「Surya(スーリャ)」数値サマリー

7. シャトー・ラ・ガフリエール――バイキングの末裔が掲げる「透明性」

画像: 400年の家系図を指す、オーナーのアレクサンドル・ド・マレ・ロシュフォール氏

400年の家系図を指す、オーナーのアレクサンドル・ド・マレ・ロシュフォール氏

サンテミリオンの「黄金の三角地帯」に位置するラ・ガフリエールを所有するマレ・ロシュフォール家は、1705年からこの地でワインを造ってきた。現当主アレクサンドル氏は32世代、子供たちは33世代。ルーツはノルマンディーのバイキング、ロロンや征服王ギヨームの仲間ギヨーム・マレに遡る壮大な家系だ。試飲ルームに架かる400年の家系図は壮観である。

多くが2022年の再来を予想したが、結果は全く異なった。3月15日の早い萌芽、5月下旬の均一な開花を経て、7〜8月の強い水ストレスで果実は凝縮。8月末の恵みの雨が成熟を再加速させ、フレッシュさと酸、美しい果実味を備えた「今の時代が求めるワイン」に仕上がった。メルロは9月4〜24日、CFは9月19〜25日に収穫。グラン・ヴァン(M65%、CF35%)はアルコール13.8%、pH3.41、収量39hl/ha、熟成は新樽50%でアンフォラも併用。アレクサンドル氏は構造を「サッカーボールよりラグビーボールのような形」と表現する。縦に伸びるエネルギーと洗練された輪郭だ。格付け離脱後も品質向上は目覚ましく、最上位を脅かすコスパを誇る。

ポートフォリオも多彩だ。1980年代誕生のセカンド、クロ・ラ・ガフリエール(M80%、CF20%、40hl/ha)はフランスのスーパーで熱狂的ファンを持ち、1本12ユーロの価格が話題だ。「12万本のボリュームがあるからこそブランドの存在感を示せる」と彼は語る。ピュイブランケは1807〜1959年に家族が所有し、2020年に買い戻した畑。標高80mの粘土石灰質で2025年は38hl/ha、M70%・CF30%、13.7%、pH3.40、500L樽で熟成。「歴史の香りがする場所」と慈しむ野生的な土地だ。ボルドー・シュペリュールのシャペル・ダリエノールは、あるジャーナリストの紹介でノルウェーで半年に2万5千本を売った。「ブランド確立を怠っていた」との反省から、戦略ブランド「D・ド・マレ・ロシュフォール」も展開する。

画像: アレクサンドル・ド・マレ・ロシュフォール氏と妻のアリエノールさん

アレクサンドル・ド・マレ・ロシュフォール氏と妻のアリエノールさん

アレクサンドル氏の率直な批判はプリムールビジネスにも向かう。「多くのネゴシアンが価格競争に終始し、マーケティングをしていない」と断じ、自ら世界中のディストリビューターと直接対話して価格の透明性とブランド価値を守る。「2025年は、我々が求めるフレッシュさがベースにある」と彼は強調した。家系の誇りと現代的価値観が融合している。

画像: 主要銘柄テクニカルスペック(2025年)

主要銘柄テクニカルスペック(2025年)

画像: ブランド・ポートフォリオ

ブランド・ポートフォリオ

8. シャトー・フィジャック――「樹液のミステリー」と三部作の完結

画像: 総支配人フレデリック・フェイ氏とオーナー代表のブランディンヌ・ド・ブリエ・マノンクールさん

総支配人フレデリック・フェイ氏とオーナー代表のブランディンヌ・ド・ブリエ・マノンクールさん

サンテミリオン北西端、ポムロールとの境界に立つフィジャックの起源は2世紀のローマ時代に遡る。現代の「フィジャック・スタイル」を決定づけたのは1947年に所有者となった故ティエリー・マノンクール。「3つの砂利の丘」という類稀なテロワールを活かしカベルネ2種を高配合する独自路線を貫き、2022年に最高位「プルミエ・グラン・クリュ・クラッセ A」へ昇格した。

2025年はテロワールの「回復力」が証明された年だ。冬から春の降雨で土壌は水分を蓄え、3月20日にメルロ、30日にカベルネが芽吹いた。しかし6〜8月は一転、極端な乾燥と記録的高温に見舞われ、8月は最高44℃、40℃超が10日間続いた。だが砂利層の下の「ブルー・クレイ」が水分をゆっくり供給し危機を救った。「暑さで代謝が抑制され、樹液が非常にゆっくりになり、時間が止まったように糖分が静かに蓄積した」という分析が興味深い。樹管内に気泡が生じる「キャビテーション」が観察され、ナパやイスラエルの専門家とも意見を交わし注視した。果粒は1g以下に凝縮しつつ、pH3.64の理想的な酸度と類稀なアロマを得た。昼夜の温度差20℃も香気形成に貢献した。

画像: 左からマノンクール夫人、総支配人のフレデリック・フェイ氏、オーナー代表のブランディンヌ・ド・ブリエ・マノンクールさん

左からマノンクール夫人、総支配人のフレデリック・フェイ氏、オーナー代表のブランディンヌ・ド・ブリエ・マノンクールさん

収穫は9月1〜19日、収量は25hl/haと極めて低い。ブレンドはM38%、CF30%、CS32%、アルコール13.0%。総支配人フレデリック・フェイ氏のチームは鮮烈な香りを保つため例年より低い26℃で発酵。科学的分析と「農民の直感」が流儀だ。精神的支柱は今も庭を気にかける91歳のマノンクール夫人。1935年生まれの彼女はこの地に70年を捧げ、「人生のすべてがここにある」と語る。

取材ではボルドーを揺るがす事件も語られた。多くのシャトーを巻き込む「樽リース会社の大規模詐欺」だ。リース会社が転売代金を樽メーカーに支払わず、フィジャックも約150樽分、15万〜25万ユーロ相当が回収不能に。「長年のパートナーに裏切られた。滞りを隠し、樽を持ち去った後に計画倒産したのだ」。それでも「品質に一切妥協しない」のがトップシャトーの所以だ。

2025年のフィジャックは、2022年・2024年に続く「三部作の完結編」と称される完成度を誇る。試飲するとカシス、アールグレイの茶葉のような高貴な香りが重なる。味わいは驚くほどジューシーで重さを感じさせず、カベルネの精緻な酸とシルクのようなタンニンが中盤を引き締める。「我々はただこの地の力を信じ、ボトルに詰めるだけだ」。強さではなく「調和」の勝利――気候変動への究極の回答がここにある。

画像1: 2025年ヴィンテージ数値サマリー

2025年ヴィンテージ数値サマリー

9. シャトー・ラ・コンセイヤント――70年ぶりの伝統回帰と「光の捕捉」

画像: 10年以上シャトーの醸造チームを率いるマリエル・カゾーさん

10年以上シャトーの醸造チームを率いるマリエル・カゾーさん

1871年からニコラ家が150年以上家族経営を貫くラ・コンセイヤントは、ポムロールとサンテミリオンの境界に位置し、ペトリュスやシュヴァル・ブランに隣接する。スミレの香りとカシミアのようなタンニンの気品は「鉄の拳を包むベルベットの手袋」と評されてきた。醸造責任者マリエル・カゾーは2025年を「光を捕捉したワイン」と表現する。

シーズンは穏やかに始まり、前年多くを苦しめた霜やベト病の脅威はなかった。しかし6月中旬から一変。最高37℃を超え、8月は40℃以上の熱波が6日間続く極限の夏が来た。救ったのは「3年前からの準備」だ。2022年の酷暑を教訓に、彼女は10haで土壌構造の再構築に着手していた。堆肥化した新鮮な木材(BFR)を1haあたり50tという驚異的な量で投入。「鶏の糞も少し混ぜるが、窒素ではなく土壌構造のためよ」とユーモアを交えつつ、複雑な土壌で樹を「平穏」に保つ計算を語る。結果、極度の乾燥下でもストレスを感じさせない「鮮烈さ」を纏った。

2025年産最大のニュースが、70年ぶりとなるCSのブレンド復帰だ。若木から収穫されたカベルネは「並外れたアロマ」を持ち、最終ブレンドに3%加えられた。「かつての伝統が、新しい命として戻ってきた」と彼女は静かに強調する。最終比率はM87%、CF10%、CS3%。メルロは8月28日〜9月5日と史上最も早い部類、CSは9月5日、CFは9月17日に一気に摘まれた。

画像: オーナーのニコラ家を代表するベルトラン・ニコラ氏.。父親同様、医師として働いている

オーナーのニコラ家を代表するベルトラン・ニコラ氏.。父親同様、医師として働いている

フェノール分が極めて高い年だけに、過剰抽出こそ最大の罠だった。マリエルは自らのスタイルを「手押し車での醸造」と自嘲する。26℃の低温でゆっくり発酵させ果実の輝きを封じ込めた。結果はアルコール13.5%、pH3.66、総酸度3.5、収量30hl/ha、栽培面積10.7ha、新樽70%・残り30%は1年使用樽。「これほど密度がありながらアルコールが低いバランスは私自身も戸惑うほど」。

試飲中、アポなしで旧知のアメリカ人記者が訪れると「今VIPがいるから」と冗談めかして屋外へ促した。場を和ませる明るさと客との時間を守る態度。最新の土壌科学と70年ぶりの伝統回帰が交差する2025年は、価格規律が問われるポムロールで、150年の家族経営が培った一貫性という説得力を備えた一本だ。

画像2: 2025年ヴィンテージ数値サマリー

2025年ヴィンテージ数値サマリー

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